退院日
僕はその日の夕方荷造りをして病院の外へ出た。
今まで世話になった病院の友達。看護師。主治医のミル医師にも挨拶をしたが、外まで見送りしてくれることになった。
僕は薄暗く、赤みを帯びている空を見ながら親の迎えを待った。
「本当に良かったよ。里親さんが見つかって、さらには腕まで治してくれるなんて。この世の中で君だけのようなものだよ?」
ミル先生は僕の肩に手を置いた。
「はい。先生とスウィフト夫妻には感謝しています。」
ミル先生は頷きながら僕を自分の方に向かせ、肩にもう片方の手も乗せて僕の目をじっと見つめて口を開いた。
「君は新しい家族のところで何がしたい?」
僕は少し驚き、考えた。
「勉強がしたいです。特に読み書きがしたいです。」
ミル先生はまた大きく頷いてにこやかになった。
「そうか!いいことだ!では、腕が治ったら何がしたい?」
腕…。僕は右利きで左腕が無くても多少融通が利いたものの、バランスが取れなかったり歯を磨くのにだって苦労した。だから、運動なんてほとんどしなかった。
「スポーツがしたいです。」
先生は僕の言葉に真剣な顔に戻り、またじっと僕を見つめた。
「ああ、出来るさ。彼は腕の良い医者ではないが腕の良い科学者だ。きっと元通りにしてくれる。それに君は良い眼をしている。彼の技術力と君の努力さえあればまた元気のある好青年に戻れるよ。」
僕が頷き返すと僕の後ろで車のタイヤと地面が擦れる音、停車音がした。
振り返ると胴の長いダックスフンドの様な車が停まっていた。
その黒光りした気品ある車の運転席のドアが開き、黒いスーツに黒いサングラスをした黒髪の白人が出てきてこちらにお辞儀をしてから車のお腹あたりのドアを開いた。
すると先ほどのスウィフト夫妻が順に出てきた。
「やぁ、遅くなってしまったね。子供部屋の準備が遅くなってしまった。」
にっこりと笑いながら手招きをしている。
僕は車へと向かう足取りと共に確実に幸せな未来へと歩みを進めていると確信していた。
ある意味の巣立ちを迎えた彼はこれからどうなるのでしょうか。
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