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Bullet Author  作者: 結野夜風
Flouris war ―フローリス・ワー―
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Story.8 高圧的な一輪の躑躅

 その次の日から、参戦者が急激に増えるようになった。エルヴィンによると、エルヴィン自身が何かと働き掛けているそうだ。何をしたのかは知らないが、その時はとりあえず感謝の言葉を送っておいた。

 今日は水曜日。総帥フランツがここに来たのが日曜日なので三日前と言うことになる。エルヴィンを交えた本格特訓も今日で四日目だ。だが、クレスは基本特訓に参加できない。接客と言うべきか何というべきか、参戦者を向かい入れる方に回らねばならないからだ。なので特訓はエルヴィンに任せきりで、基本はユキノがエルヴィンに指導されている状態だ。傭兵エルヴィン曰く、簡単なメニューを出しているはずなのだがユキノはすぐにへばる、だそうだ。お前も最初はそんなもんだったんじゃないのか、と返すと、エルヴィンは郷愁に浸るような遠い目をしながら小さく鼻で笑った。

 手元に控えたメモ用紙にはタリー――左から順に四つの縦棒を引き、最後に横棒を引っ張って数える西洋では一般的な方法――の完成形が十一個と縦棒を二本だけ引いた未完成のものが一つ。最初に自分達を含める為三本引いてあるので、これで五十七人だ。エルヴィンから言わせてみれば、これで丁度目標の半分くらいだそうだ。まだ先は長い。

 そして、契約――という程大仰なものではないが――を交わした新規の参戦者には一つ銃器を渡している。家では練習が難しいので射撃場に行くものも多いだろうが、念の為と言う奴だ。幸いと言うべきか生憎と言うべきか、生産的でしかない《デザイン》を使えばそのくらいはお手の物という訳だ。

 そして、今日はつい昨日起こった印象的な出会いの話をしよう。訪問者としては自分を除いて三十八人目となる、三十九人目の参戦者の話だ。



 クレスは裏庭に回る。裏では相変わらずエルヴィンとユキノが必死に特訓していた。スパルタ教育という程のものではないが、まあそこそこ厳しいのではないだろうか。そういやスパルタ教育の『スパルタ』の語源は古代ギリシアの都市国家のことだったか、などと考えながらクレスはリビングへと足を戻す。

 現在時刻は丁度十二時を回ったところ。昼飯の時間だと呼び掛けようかとも考えたが、水を差すようで嫌だったので遠慮しておいた。クレスはまたソファに座り、新たなる来訪者をどんと待ち構える。と言っても、この時間だ。皆昼食に移っているだろうし、来る可能性は見込めない。一分くらいしてすぐにクレスは立ち上がり、やはり一人でも先に食べておこうとリビングと繋がったダイニングへ向かう。

 だが、予想を裏切るようにリビングに電子音が響いた。それは、何度も何度も聞いて耳にこびり付いてしまったインターホンの音。反射的にクレスの足は止まり、顔が窓の向こうの門扉の方へと向いた。

 ゆっくり昼飯も食べていられない。クレスは嬉しさ半分疲れ半分の溜息を吐いて、玄関へ向かう。靴を履くのもいい加減面倒になるも、市革――よく子供が靴を履くときに踵で踏んで潰してしまう部分――を踏むのも躊躇われるので……などとどうでもいい選択を脳内でしているうちにもう一度、次は怒気を孕んだかのような音が鳴り響く。クレスは急いで、やはりしっかりと靴を履いて、ドアを開けた。

 まず目の前に飛び込んできたのは、腰程か、それよりも更に長いくらいの赤毛の長髪。希少種の無宗教者であるクレスにはあまり関係がないが、キリスト教由来で赤毛は嫌われやすいのだ。だが、この赤髪だけはそんな忌避感を一切感じさせず、むしろ見る人全てが目で追ってしまいそうなくらいに綺麗だった。眼は宝石のような完全なる碧眼。赤毛に対照的な碧玉のような眼が、目が隠れるような長い前髪の奥で眼光炯々と光っている。服装は上は簡素なシャツの上に黒いコートを羽織っていて、下は長いジーンズ。如何にも冬らしい恰好だ。

「……何呆然としてるのよ」

 と、印象的だった赤髪に続いて服装にまで言及していたクレスの耳に、凛とした高圧的な声が届く。赤毛の人は気が強い傾向があるというが、強ち間違いでもないのだろうか。無駄に長く状況を説明して、場に沈黙をもたらしてしまう。クレスの悪い癖だ。

「あ、ごめん。とりあえず中へどうぞ」

「ありがとう」

 短く一言そう言って、目の前にいる赤毛の少女は前庭を踏み込んでくる。少女、と呼ぶには少しそぐわないだろうか。女子にしては背は高く、顔もしっかり大人の顔といった感じだ。見た感じ同級生辺りだろうと推測されるので、少女ではないかも知れない。

「……また突っ立って、何考えてるの」

「ああ、ごめん」

 また悪癖が出たのだろうか。今回はその自覚はなかったのだが。クレスはさっと身を退いて自分を玄関の中へと入れ、そのままドアを手で押さえて開けたままにする。赤毛の女子は平然と寮のクレス室内と言うべきかクレス家内と言うべきかに入って、しゃがんで靴を脱ぎ始めた。クレスは静かにドアを閉める。

 隣で同様に靴を脱ぐと、クレスは立ち上がってリビングへと案内する。いや、目で見れば解るだろうから案内は必要なかったかも知れないし、この子に限っては勝手に入っていきそうだが。

 それにしても何処かで見たことがある顔だなあ、とクレスは思った。直接会話したことなどはないはずなのだが、顔見知りくらいではあったりするのではなかろうか。

「……へえ、ここが首席のリビング。いや、あたしの所とあんまり変わらないか」

 そして、この台詞でその推測は決定付けられる。『首席』『あたしの所』。前者がクレスと同じ学校の学生であることを証明し、後者がここの寮生であることを証明している。つまりこの女子は同じ学校の同級生ということになるのだろう。そうすれば顔くらいは見たことがあるという微妙な関係も成立するし、全ての辻褄が合う。

 そう、学校内にも一人、忌避感を持たせない綺麗な赤毛を持った人がいたはずだ。確か文武両道で学校の成績上位者に名が載ったり、はたまた体育祭で活躍したりしていたはず。その名前は、少し聞き慣れないとあるツツジ科の花の名前から取った名前だったような。

「お前は……アザレア……ニューハート?」

 改めて口にしてみてもやはり言い慣れない。名字も名前も初めて聞くタイプなのだ。名前にしても名字にしても珍しいものは沢山あるからその内の一つかも知れないが。

「何その言い方……それじゃあたしが悪役みたいじゃない」

 どうやらクレスの口調は相当に訝しむようなものだったようだ。勘がいいのかアザレアはそこに気付きクレスに窘めるようにそう指摘した。

「ごめん。あー、えっと」

「あんたはクレスでしょ。首席の名は割と有名だから名乗られなくても解るわよ」

 と、アザレアはクレスを右手で制しつつそう言う。どうやらお互いに名前と顔くらいは知っていたということらしい。ふと、昨日のフランツとエルヴィン程は行かないが、成績上位者同士でこうやって対峙していると、ユキノの眼には輝いて見えるのだろうか、などと馬鹿なことを考えてしまい、すぐに考えることを中断する。

「で、何面白いことやってんの、秀才君」

 女子改めアザレアがからかうように少し口角を吊り上げた。相変わらず高圧的な所があるが、少しそれが消えたというか、警戒心がなくなり始めたように見える。

「面白いことって、そんな軽い気持ちでやってないよ」

「解ってるわよ。って、それも変ね。今日初めて会話したのにもう性格を把握してるわけないものね」

 アザレアが鼻で笑う。クレスは早く昼を食べたいという気持ちもあって、無駄話も程々に本題に移るよう促す。

「じゃあ早速本題に移ってもいいか?」

「構わないわよ。ごめんね、今から食べるところだったんなら邪魔したわね」

 クレスの心中を読んだかのように、アザレアは苦笑しながら謝る。クレスがダイニング側のソファに座り、今回の面接会場を作る為に対面に移動させておいたもう一つの窓側のソファにアザレアが座る。二人が座って顔を上げると、完全に対峙する形となった。

「いや、本題と言っても訊くことは一つだ」

「何? まさか、本当に覚悟があるのかとか念押しみたいなことしようとしているなら無意味だと思うわよ。こんな面白そうな戦いからあたしが外れる訳ないじゃない。って、あんたはあたしの性格知らないわね」

 アザレアが勝気な笑みを浮かべ、胸を張ってそう答える。性格など、長い付き合いがなくとも一発で――この数分で解る。アザレアの性格は、相当に、それこそ自信過剰と言えるほどに自信に満ち溢れた性格だ。少々傲慢とも取れるだろうか。

「面白そうってなあ……。まあいい、それだけ自信満々なら訊くまでもあるまい」

「面白そうって言っても、嘗めて掛かっている訳じゃないのよ? 死ぬ可能性があるなんてこと、解ってるわよ」

 と、まるで解っていなさそうな口調でアザレアが言う。だが、その眼差しが想像以上に真剣なものだったので、強ち嘘でもないのかも知れなかった。

「じゃあ終わりだ」

「えらくあっさりしてるわね……」

「普通はもっと長いんだけどな。ある程度素性が割れているというのと、お前の覚悟が強すぎるというのが相俟って早く終わった」

「そっか」

 アザレアはあっさりした顔だ。もう用は済んだという感じか。いや、もう用が済んだのか、という疑問形の気もする。アザレアはソファから腰を浮かせ、対面するアザレアから見て右側の背凭れに掛けてあるコートに手を出す。それを羽織りかけて、アザレアは動きを止めた。

「うーん、何か物足りないなあ。そうだ、ちょっと話さない?」


挿絵(By みてみん)


 それは予想外の提案だった。このまま淡白に帰っていくものだとばかり思っていたのでクレスは最後に銃器を創り出していたのだが、アザレアは再び座り直して、コートを握る手を離した。

 アザレアの左手がテーブルの上に載せられる。右肘がすっとテーブルに載り、そこで殆ど角度のない鋭角に折れて、一番上の右掌に頬が載った。表情は頬杖を付く体勢に対して輝いており、頬杖を付くときの心理法則をぶち壊している……とは大仰か。

「ねえ、秀才君。何で突然こんなこと始めたの? 突然、って言うか、突然じゃなくても普通はやらないわよね?」

「とりあえず秀才君はやめろ」

「じゃあクレス、何で?」

 ぐいぐい押し込むように訊いてくる。何となく答えなければならないのでは、という義務感を感じた。そんなもの感じなくても拒否する理由がないので答えるが。

「何となく、赦せなくなったんだよ。世界大戦以後反省したと思っていたのに」

「つまりは何となくでやり始めたってことなの?」

「それも違うが……まあ何事も始める動機なんて案外適当なもんだよ」

「あ、誤魔化したわね」

 アザレアが頬を膨らませはしないがむすっとした顔になる。奸艶たるアザレアの容姿の割に、表情は豊かなのだろうか。だが、アザレアはすぐにその顔を消し去り、元のクールな無表情に戻った。

「そっか、まあ理由は何だっていいけど、凄いわね。いや、あたしももしかしたらこんなことやってたかも知れないけど、でも凄い」

「最初の一歩を踏み出すくらい誰だって何だって出来る。難しいのは成功させることだろう?」

「まあね。でも、あんたなら成功させそうな気がする。何となく話していて解った。理由ははぐらかされたけど、それでも覚悟というか、やる気は本物みたいね。だから、きっといけるんじゃないかなあ、って。知ってるかしら? 失敗を想定するから失敗するって。それはある程度の実力が伴っていることが条件で、そうじゃないと猿猴捉月になるけど、後は不安になっても仕方がないからとにかく前を向いておけばいいの。上でもいいわ」

 アザレアの言葉は、一理あるようなないような微妙な言葉だった。つまり、説明し切れていない点があったということで、そこを明白にして貰わねばならないのだ。

「それで失敗したら反動は大きいんじゃないか?」


「それで失敗することなんてない」


「それで、失敗することなんてない」

 滔々としたアザレアの言葉。迷いがなく、自分の理論を絶対と信じる様は、本当に恰好良いと思った。容姿ではなく、中身までもが恰好良いのである。アザレアは、たとえそれが客観的に見て詭弁であってもさも正論かのように捲し立てるだろう。そしえ、あまりの自信満々さに、逆に詭弁を正論だと勘違いするものも出てしまいそうだ。それ程に、アザレアの発言には、迷いがない。

「要は、絶対に成功できるよう精一杯努力しろってことだろう」

「ま、要約するとそんな感じ。途中でうじうじせず、とにかく成功だけをイメージして努力を続ければ夢は叶うから。まあ、今回は夢とは違うけどね」

 そして、懸河の弁は案外適当な言葉に要約されてしまった。ユキノと会ったとき、この子は意志の強い子だと思ったものだが、悪いがアザレアはその比ではない。意志が強いとかそんな次元ではなく、もう自信そのもの、自信の権化なのだ。

 透き通るようなアザレアの眼がクレスを見据える。前向き過ぎて一周回りそうなその強い視線に当てられ、少し自信を無くしかけていたクレスは自己嫌悪に陥った。こんなにも強い人間がいるのに、自分は何をやっているのだ、と。

 クレスは眼から迷いを消し、アザレアのそれには劣るが眼光炯々と見詰め返す。暫くして、アザレアはうん、と小さく頷いた。

「と、今度は逆にあたしからクレスの覚悟を試させて貰ったわ」

「逆に試されてしまったな、はは」

 クレスは素で参ってしまった。エルヴィンでも逆に試してくるようなことはしなかったと思うが。いや、エルヴィンには反射速度や戦闘能力を試されたのだったか。だが精神的な方を試されたのは、これが初めてだ。

「じゃあ帰るわね」

 次こそ本当に帰るらしく、アザレアはコートを再度掴むとばさっと羽織り、腰を浮かせて立ち上がる。ふとクレスが時計を見遣ると、針は十二時半を回ろうとしていた。最初は史上最短速度だったのだが、いつの間にか史上最長くらいになっていた。三十分も掛かったのは意外と少ない。

 その時、ぐぅう、と唸るような音が鳴る。腹が悲鳴を上げ、空腹を訴えているのだ。だが、それはクレスのものではなかった。アザレアの頬が僅かに赤らむ。

「ほら、持っておけ」

 クレスはサンドウィッチを即座に創ってアザレアに放る。アザレアはそれを受け止めた。

「べ、別にさほど空腹でもないのに……」

 尻窄みなアザレアの言葉。しかしクレスはそれをしっかりと聞き取って、微笑を浮かべた。クレスは目が悪い分耳はいいのだ。

「後は、これだ」

 そして、もう一つ。あるものを手渡す。こちらは恒例行事だ。こちらは危なく、硬く、とても放れないので手から手へと文字通り手渡す。

「これは……銃?」

「そうだ。今の時代、ファンタジーみたいに剣で突撃しても勝てないからな。文明の進化には付いていかないと」

「文明の進化って……銃器が出来たの何百年前の話よ……」

 クレスは銃の扱い方について簡単に説明を加えるか迷ったが、そのくらいは知識としてアザレアも知っているのではと思い、遠慮した。アザレアは銃を物珍しそうにまじまじと見詰めている。

「これで特訓しておけばいいのね?」

「まあ、そうなるが……場所は確保できるか? 無理なら庭を貸すが……」

「いや、大丈夫よ。あてはある。まあ借りにくるかも知れないけど。それにねえ、首席君。あたしも一応学年三位な訳で、6LDKの部屋持ってるんだからね」

「それもそうか。まあ空砲でもいいが実弾練習もしておいてくれ。場所が確保できるならそれでいい。じゃあな」

 少々事務的なことを告げ、その後手短な別れの言葉を告げる。

「じゃあね」

 アザレアは右手を上げ、長髪と共に後ろに残して靡かせるように手を振る。ドアの隙間から、挟まれるかどうかの瀬戸際の所でアザレアの手が完全に消えた。

「はぁ」

 邪気を吐き出すような大きな溜息を一つ。別にアザレアにうんざりしていた訳ではなく、むしろ気に入ったくらいだったのだが、そこはかとなく疲れた。恐らく、逆に試されたりしたあたりで精神を削られたのだ。

「さあ、昼食べるか」

 クレスはリビングへ戻る。料理してダイニングに置いてあったパスタは冷めて固まってしまっている。時間が経っても大丈夫なものにしておけばよかったと思いながら、油を入れたりして質を初期状態へと近付ける努力をする。

 クレスがその加減に悪戦苦闘している内に、ユキノが帰ってきた。リビング、ダイニングに隣接するキッチン横に付いているもう一つのドアから入ってきたのだ。表情こそ憔悴しているが、額に汗の一滴も溜めていないことが少し不思議だった。

「タオルで、拭いた?」

「汗なら最初から掻いてないよ」

「そ、そうか」

 確か、余程のことがない限り一切として発汗しない体質の人もいたはずだ。だが、ユキノのこれは少し異常ではなかろうか。まあ、髪や瞳の色の菫からして既に人種不明な存在だ、今更不思議な体質の一つで大して驚きもすまい。

 続いて、開いたドアからエルヴィンが顔を覗かせる。こちらは汗を掻いているが、少量だ。汗を拭った形跡もない。こちらは、戦闘慣れしているのでユキノの特訓に付き合ったくらいでは汗など掻かんといったところだろうか。

「お、何やら苦戦してるな?」

「先客と色々話していたもんでな」

「先客? なに、親しくなったのか?」

 エルヴィンがぐいぐい来る。ああ、鬱陶しい。そんなことを内心で思いながら、簡潔に告げる。

「同級生だったから話が合ったってだけだ。友達ではなかったがな」

「へえ、ここに来てまた学生か。それはまた度胸のあることで」

「お前の年齢は知らないが、容姿から推測して遡行するに世界大戦時はお前も学生と言うことになるぞ? 勿論、年齢だけで義務教育は終わっているが」

「御名答」

 いつも通りの飄々としたトーンでおどけてみせる。相も変わらず剽軽者であるエルヴィンを見て、クレスの顔も少し綻んだ。

「話、といっても、一本取られた感じだけどな。逆に覚悟を試されたよ」

「はは、鼠口終に象牙なしって言ってな、クズは大したこと言えないんだよ。クレスを試そうって言うんならそれは相当の実力者と見ていいんじゃないか? 俺と同じでな」

「性格もお前と同じ自信家だったよ」

 クレスは調節を終える。それなりに元通りの味というか食感に戻ったのではなかろうか。最悪デザインで復元できるが、鮮度が落ちる為結局はこのくらいの微妙な味しか再現できないだろう。仕方なく、今日はこの鮮度の落ちたものを振る舞う。

「そんなことよりお腹空いたよ……それ、出来てるんでしょ?」

「そうだよ、今からダイニングに運ぶから先座っていろ」

「はーい」

 ユキノに座るよう催促し、クレスは慎重に両手を皿の下へと滑らせる。持ち上げ、次は慎重に歩を進め始めた。

 アザレア・ニューハート。今日の昼、そう名乗る赤毛の女子を仲間に迎えた。学生の参戦者は、ユキノに次いで二人目だ。そして、あの高圧的な態度と絶対的自身は、彼女が自信に満ち溢れていることを証明してくれている。エルヴィン並みに期待できる参戦者だった。

 クレスの心中には、再び実感と言う名の蟠りが居座り始めた。

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