Story.1 赤紙
※大幅改変中につき、内容に齟齬が見られます。
どうも、葵夜風です。
えー、今回は、初投稿ですね。
なので簡単に説明を。
タイトルは『Bullet Author』。そのまま読むと『銃弾の作家』とかそんな変な意味になりますが、直訳しないでくださいね?
この題の理由はいずれ作中で解ると思いますので。
そして今回の第一章は《フローリス・ワー ―Flouris war―》と言いまして、まあその通りの内容となっております。
――ある日、少年の許に届いた一通の奇妙な赤い手紙。そこに記されていた内容は――。そして少年は決意する。「こんなことを続けさせてはいけない。止めてやる」と――
Bullet Author開幕です!
第二次世界大戦後、フランスは大きな改変を遂げた。辛うじて戦勝国とはなったものの、既に列強国の地位が崩れかけていたフランスは、植民地を全て放棄し、新しい制度を作って国を大きく変えていった。何度も占領され、南北で分裂させられたりしてきたフランスは、それぞれの県ごとに軍の支部を置き、国全体の団結意識を強めていった。他にも教育制度を変更したりなどして学問に於いてもより高いものを要求し始めた。そうして、いつか列強国として復活できるよう、優秀な人材を育てたり、国を保護することに徹し始めたのだ。
そうして沢山の新たな施設、学校が誕生したり、無駄に思える程に豪華な学生寮が建築されたり、街にも沢山の公共施設が設置され、どんどん活気を取り戻していった。他のヨーロッパ諸国との関係も弛緩していき、戦争のない、自由で豊かな国を取り戻していったのだ。復興作業は本当にあっという間だった。敗北したのではなかったというのもあったのかも知れないが、数年で元の通り――いや、戦争前よりも明らかに活気付いた街へと変貌したのだ。
だが、その喜びも束の間、少しずつ資源や予算が無くなっていき、国が若干危うくなっていく。民間人に影響が出る程の食糧不足ではないし、公共施設を潰さねばならない程ではなかったが、少しずつ危機的な状況に陥っていったのだ。復興に力を入れ過ぎて、早く活気を取り戻し過ぎたのかも知れない。そして、終戦から六年が経過した1951年。とある県――ソーヌ=エ=ロワール県で、ついにそれが裕福な――今となっては飾りだけとなってしまった――貴族に影響が出始めたのだ。既に貴族ではなくなってしまっているが、家柄の名残でそれなりに裕福な生活を送っていた貴族は、そこに不満を感じ始めた。貴族達は、規模が小さく、動かしやすくなった軍の支部――マコン軍を動かし始め、その近隣の都会の県――ローヌ県から奪ってくるように指示したのだ。同国だから頼めば分けて貰えるはずなのだが、そこまで考えが及ばなかったらしく、その指示は実際のものとなった。
突然攻めて来られたローヌ県は、当然隣町から攻められるという予想外の出来事だったので混乱した。だが、幸いそこの支部には優秀な兵が多く派遣されていた為、すぐに体勢を立て直し、迎撃に向かった。話し合いに持ち込もうともしたが、頭の沸いたソーヌ=エ=ロワール県の元貴族には通じなかったらしく、仕方なく武力で落ち着かせる手段に出た。だが、ローヌ県の軍――リヨン軍の予想を上回り、事態は深刻化した。マコン軍は徴兵令を出して民間人を戦争に参加させる程までになり、リヨン軍はかなり追い詰められた。戦争はより酷いものとなり、民間人にも影響が出ると思ったリヨン軍は県を離れ、森の方へ戦地を変えたが、そこでも更に深刻化する一方だった。
そこでリヨン軍は国同士なのでそこまで真剣に臨む必要はない、という意味を込め、少し遊び心をもった上で何故が日本のように赤紙に召集令を書いて、一部の民間人に手紙を出した。要するに徴兵令を下すことにしたのだ。当然、真剣に臨まなくてもいいとはいっても戦争だ。死者も既に出ていたし、そこで召集された民間人だって死ぬ可能性は大いにあった。でも仕方なく、それを出すことにしたのだ。
ストッ。
そして、順調に届けられていく赤紙の一つが、とある少年の許へと届けられる。
*****
さて、何故人類は争いを絶えず行うのだろうか。決して争いが好きという訳ではなかろう。それが嗜好というのは考え難い。では仕事なのだろうか。いや、争うことが仕事だなんていうのは認める気にならない。そもそも軍隊というのは戦争をする為に置かれた訳ではないのだ。本来は恐らくその国を保護する為に作られた組織なのだろう。それが自ら戦争を起こすなど以ての外という訳だ。
だが、現状は今も各国で戦争が続いているという状況なのだ。この国は急に軍の考え方が変わり、直前で何とか植民地を放棄して植民地戦争を回避したのは今考えれば賢い判断だったのだろう。流石母国フランスというべきか。街もたった六年の間にかつてない活気を取り戻した。今帰り道である学校――フローリス高等学校も、この六年の間に新設された国内最大クラスの進学校である。色んな意味で馬鹿みたいな規模の学校である。まあ、またそこは後で語るとしよう。
ここと同じように、大きく法律を変更した国がもう一つあるという。いや、もう一つ、といっても詳しく調べた訳ではないので有名どころ――つまり列強国内での話なのだが。唯一原子爆弾なる巨大な爆弾を落とされたその国は、現在は軍隊を持っていないという。何でも三大原則の中の一つに『平和主義』なるものがあるらしい。この国はそこまではしていない――つまり、まだ軍隊を所有しているが、それも今は国の統治や整備の為に存在しているのみ。万が一に備えてはいるのだろうが、それでも戦争する気は毛頭ないようだ。
まあとにかく平和が戻ってきたのだ。冒頭からいきなり語られても何の事かよく解らないだろうが、結局はこの一言に尽きる。それ以外はどうでもいいのだ。そしてこの僕――クレス・オーソリアは今の平和なこの国に誇りを持っている。これからもこの平穏が守られてほしいものだ。
だが、何しろ軍隊がまだ残っているので完全に平和が守られるとは限らないのだ。軍や政府の魂胆は知るところではないが、いずれは再び発展途上国を植民地にしてやろうと考えているのかも知れない。復活試合的なものを派手に開催する為の準備期間だったりするのかも知れない。可能性は低いがありえなくはない以上、恐怖は付き纏う。嫌な時代に生まれてきてしまったものだ。
そうこう考えているうちに大分自分の部屋に近付いてきた。クレスは寮生なので帰る場所は寮なのだが、何せ一人一人に与えられる部屋が一軒家クラスという広大な敷地量である。それが数百戸と軒を連ねるのだから大規模で入り組んだ住宅街が出来上がるという訳だ。そして、学力や身体能力の高い方から順に部屋数や家具の多い部屋を取れるという格差制度も存在する。自分で言うのも何だが学年トップクラスの秀才であるクレスは一人では使い切れないくらいの大量の部屋が存在する豪邸を部屋として宛がわれており、距離も校舎に近い方である。だが、学力の低い方の人は寮生なのに校舎まで数十分掛かるというのだから驚きだ。その辺りに行ってみたこともあるが、確かにかなり遠かった。大変な格差制度だ。しかも、これで国立だというのだから色々とイレギュラーな学校なのだ。
と、考えを巡らせているうちに部屋の前へ。近くて助かった、そう思いながら家の門扉を潜り、敷地内へ入っていく。門扉から家のドアに続く石の道と、その間の木々、そしてコンクリートの駐輪場からなる前庭、ガーデニングでもしろというのか、辺り一面砂の裏庭に、三階建ての7LDK。当時この規模の部屋を渡されたときは全力で断ったのだが、他の生徒の対抗心を向上させる為とかで強引に住まわされた。そんな庶民には大き過ぎる大豪邸だ。
石で出来た何回か湾曲した通路を進み、床上浸水対策か少し高めに作られているドアへ行く為に、直前にある数段の階段を上る。鞄から鍵を取り出して、防犯対策として付いている二つの鍵を上から順に開錠する。ドアノブに手をかけ、それを引いてドアを開け、豪邸のような部屋に入っていく。靴を揃えて脱ぎ、鞄をとりあえず玄関に置くと、疲れた身体を回復させる為早速ソファに座り込んで凭れ掛かる。今日も簡単な授業の連続だったのだが、やはり何となく疲れてしまうというのが学校の不思議なところだ。
ふと、何かを忘れていた気がしてもう一度靴を履いて外に出る。ぐるっと前庭を見渡すと、ある一点――家のポストに目が留まった。そうだ、ポストから届いているかも知れない手紙や広告を取ることを忘れていたのだ。
クレスはすたすたと歩いていき、ポストから手紙を取り出す。新聞の夕刊やら広告やらが沢山出てきてうんざりしながらもそれを片手に掴んで家に入れようとすると、一つ奇妙な封筒に目が留まる。
その封筒は、至って普通の大きさ。だが、色が一様に赤いのだ。赤い、といっても鮮やかな赤――紅という訳ではなく、少し濁った感じの色だ。血の色というのが適切だろうか。そんな不気味なものが当然売っているはずもなく、個人で塗ったのだろうが、全くその意図が掴めない。わざわざそんなことをするような趣向をした友人はいないし、教師からの緊急の連絡というのも考え難い。クレスの想定できる範囲では、差出人を推測することは出来なかった。
開けてみれば全てが解るだろうととりあえず新聞や広告ごとそれを家のテーブルに広げる。乱雑にテーブルに置かれたその紙束の中から、目立つ血色の封筒を手に取り、裏返す。差出人は――。
フランス軍リヨン支部。
果たして、そんなことが有得るのだろうか。落ち着いて考えよう。軍、というのは街を統治したり、他国の進撃を迎撃したりする組織だ。リヨン支部ということは、法律が改変されたときに新しく置かれることになった各県ごとの小隊の中で、この寮を含むローヌ県に置かれた支部だ。ローヌ県の県庁所在地リヨンに建物があることからそう名付けられている。そして、そこから軍の関係者でも何でもない庶民に何か意味がありそうな赤い封筒に入れられた手紙が届けられる。やはり、判らない。
なかなかどうして何かを想起させるその色にもやもやして、その気持ちを振り払う為に手紙を開けた。レターカッターを取り出すのも面倒だったので手で破った為、若干汚くなってしまったがこの際どうでもいい。何か重要事項の気がして早く中身を見なければという焦燥感に駆られていたのだ。そして、封筒から便箋を取り出す。便箋の色は、やはり赤い。血を想像させるので過去の戦争のイメージが蘇ったが、それを無理矢理頭の外へ追い出し便箋に書かれた文字を読んだ。
読めばすぐ判る内容だった。完全に読まなくても、冒頭を見るだけで痛い程によく判った。赤より少し色の濃い血色の便箋に黒い文字という読みにくい組み合わせの中なのに、何故かはっきりと脳内に飛び込んできたその文字は、クレスが何よりも嫌う事柄に関することが記されていたのだ。
徴兵令状 クレス・オーソリア殿。
忘れるはずもない。それは、まだ齢一桁の子供の頃に見た情景。ただただ銃器と、炎と、血で埋め尽くされた文字通りの地獄絵図。これはその地獄の時代に無数の民間人に贈られていた、徴兵制度を廃止したはずのこの国では決して届くはずのない、緊急の戦争参戦令だ。
これから、再びあの悍ましき戦争の時代がやってくるのか。戦争に参戦させられて、早々に殺されるのだろうか。戦慄。ただその感情だけに支配された。戦慄くように震える口を無理矢理閉じ、歯軋りをする。憤怒と恐怖を身体全体に湛え、肩を震わせ、気付けばクレスはとんでもない決意をしていた。
――この戦争を、止めてやる。
*****
『徴兵令状 クレス・オーソリア殿
突然のことで吃驚しただろうが、まあ落ち着いて聞いて貰いたい。
最初に、便箋の血色と徴兵令の文字には大変不快感を抱いたことだろう。書いている俺ですらそう感じたのだ、まあ無理はない。緊急ではないことを伝える為にあえて和式にしてみたのだが、却って地獄絵図を想起させてしまう見た目になってしまったのは謝罪しよう。
さて、本題だが、徴兵令というのは当然嘘ではない。これは戦争への誘いだ。だが、戦争といっても内戦だ、こちらの方が優勢だから死亡率も低いし、安心してくれ給え。後、戦争を公表していなかったのは、民間人に再び恐怖を与えたくなかったからだから、その為の隠蔽に関してはあまり責め立てないでくれ。
この戦争は、隣――ここからだと北に位置するソーヌ=エ=ロワール県のマコン軍との戦争だ。何故そんな小規模な内戦を行っているのか、と大層疑問に思うだろうが、それは俺にもよく解らない。襲撃されたので迎撃しているというのが現状だ。だが、その迎撃が少し危うくなってきたので、一部の《魔法可使用者》へこの便箋を出している。何処で《魔法可使用者》かを知ったかというのはまあ様々だ。そこはあまり詮索しないでくれ。
まあそんな訳でだな、戦争をしているという訳なのだが、少し力を貸してはくれまいか。殺傷が目的ではない、目的は説得だ。結構頭が沸いているらしく向こうは野蛮な生物と化しているが、何とか抑え込むことに協力してくれ。殺傷が目的ではないと言っても、マコン軍の人間を何人も殺してしまっているのは事実だから、何とも恐縮なのだがな。
フランス・リヨン軍総帥 フランツ・アルベルト・ジェラルド・バスティア』
以上、徴兵令状の全文だ。
クレスがこれを最後まで読んだとき、最初に抱いた感想は『滑稽』だった。緊急ではない。死亡率は低い。戦争をしている理由は解らない。市民には隠蔽していた。全く意味が解らない。理由も解らず迎撃している、というのも酷いものだろう。口で言っても訊かなかったというのは解ったが、それは説得力がなかっただけで、すぐ武力行使に出るのはよくないのではなかろうか。いや、決して正解ではない。間違いだ。
そして、マコン軍の方は一体何を考えているのか。そもそも目的をリヨン軍に伝えていないという時点で疑問符が浮かぶが、こちらは戦争を仕掛けた側なので非は大きい。リヨン軍はともかくとして、こちらは赦し難い所だろう。
だが、結局最後は双方とも戦争をしている。銃器を人に向け、殺傷し、血塗れた死屍累々たる戦場を作り出しているのは、両軍共に争っているからこその現状なのだ。結局、喧嘩両成敗という言葉があるように、双方ともに非はあるし、咎められるべきなのだ。赦されざる出来事なのだ。
この手紙――徴兵令状を読んでいる最中は心底拍子抜けしたものだったが、結局クレスは戦争を止めるという結論に至った。マコン軍に付くつもりは端からないが、リヨン軍に付くつもりもない。迎撃している――つまり、戦争しているのならリヨン軍もマコン軍も一緒だからだ。だからクレスは、仲裁者となって双方を鎮める。出来れば話し合いで解決したいところだが、それはこの手紙によると不可能らしいので、武力行使となってしまうかも知れないが、それでも死者を出さずに片を付ける。軍に叛逆すればそれは大変なことになるだろうが、それでもおいそれと従属することなど到底出来ない。何でも仲裁したがるのは見方によれば悪癖かも知れないのだが、昔からのクレスの『極端な正義感』がそれを許さないのだ。
かくしてクレスは今、貼紙作成作業の真っ只中だった。貼紙の内容は言わずもがなだろうが、戦力募集だ。流石に一人で戦地に乗り込んで全員を蹴散らせる自信はないので、覚悟のある人間を仲間に取り入れて共闘して貰うのだ。恐らく集う人数はかなり少ないだろうが、それで何とかするしかない。貼紙を貼る場所は大通りに大きく貼るのもどうかと思うので、そこから少し折れた辺りに貼る予定だ。路地ではあるがそれなりに人が通る場所なので市民の目には留まりやすいだろう。
デザインは特に取り上げる要素のない簡素なもの。凝ったデザインは一切なく、ただ単に必要事項を書き記しただけの、学校から配られるプリントのような感じだ。だが、このくらいの方が逆に重要であることを切に訴えかけることが出来る。そこも考慮してのことだ。
そして、それは数十分程で出来上がってしまう。簡素なだけに出来は良いのか悪いのか判断し兼ねるが、共闘してくれる同志を募るだけの目的なら充分だ。クレスは一旦それをくるくると巻いて、棒状になったそれに輪ゴムを通して留める。それを手に持って部屋を出、クレスは貼紙を貼りに行った。
初の参戦希望者がクレスの部屋に来訪したのは、それから四日後のことだった。
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これから到来する冬の前兆のような身に堪える寒風に晒されながら学生寮へ向かって街を横断する。
今日もいいところは一切なし。今までの人生と何ら変わらない、平凡な一日。突飛さも、極端さも、物珍しさも何もかもが皆無な人生の中に無為に積み上げられていく白紙の一ページ。そんな一日を今日も何となく送る。
ユキノ・バイオレット。齢十五歳。菫色の髪や瞳を除いては、特に何の特色もないただの一般人だ。一般人の中でも取柄のない部類なのだから超一般人か。いや、それだと一般人を超えてしまうから劣等種だな。
そんなユキノがその日街で見掛けた物は何とも奇妙な一枚の貼紙だった。誰が貼ったのかは不明なので、匿名の貼紙。匿名の割には深刻すぎて突飛な内容。そして、内容の割には明らかに即席のものを思わせる、雑とすら言える簡素なデザイン。そして周りには貼紙に群がる数人の市民達がいた。
その人達がそれを見終え、退散するとユキノ一人だけになった。ユキノは一歩前に踏み出して貼紙に近付き、再度よく本文を読む。そこに書かれている内容は、簡単に言うなら『戦争への戦力募集』。ふざけているようにしか思えないその内容にユキノは小首を傾げたが、事実なら相当緊急の用なのかも知れない。そして、これが事実ならこの貼紙を貼った匿名のAさんは相当の実力者なのだろう。きっと、ユキノとは遠い世界の住人だ。
遠い世界の住人、というとユキノにはかつてそんな時代があったような気がしている。今は一般人として普通に国立フローリス高校に通っているが、昔はとんでもない怪物クラスの実力をもった存在だった気がしているのだ。そんなことを思う度、それは記憶ではなく夢なんだと言い聞かせているのだが、夢にしてはやけに鮮明なイメージなので何度も思い返してしまう。そして、記憶といえばユキノには過去の記憶がない。こういうと記憶喪失の用に聞こえがちだが、過去というのは六歳くらいまでの話だ。六歳というと物心が付いたにしては遅すぎる時期なので少々疑問に思っているのだが、こちらに関しては特に気にもならず今まで過ごしてきた。そして、今のユキノはそういった、夢の中の自分のような遠い世界の住人に密かに憧憬しているのだ。本当にそんな存在になってしまうと、周りから仲間が消えて逆に普通を望み始めたりするそうなのだが、それでも一度はそんな存在になってみたいものだ。これだけは理屈でどう否定しても願望として残り続けている。平凡なユキノに宿るただ一つの夢だった。
そして、今ふと閃いたことがある。小首を傾げていたときは全く想像も付かなかったが、こんなことを考えているうちにユキノの中に浮かんだ、一つの突拍子もない考えだ。もしこれが実現されれば、のうのうと暮らしてきた約十六年の人生の中で初めての、突飛な出来事となる。
もうお解りだろうか。それは『参戦者』になることだ。
当然身の丈に合っていないことなど解っていた。当然だ、女子高生が銃器を構え、人を撃ち、返り血を浴びるなど想像するに恐ろしく、そして滑稽な光景なのだから。それでもユキノは何となく参戦してみたいと思ったのだ。その時のユキノは事の重大性などまるで理解していなかったのだろう。気付けば好奇心のままにノートに貼紙に書かれた住所を書き記していた。途中で同じ学校の学生寮内の一室の住所だということに気付き面食らったが、年齢が近いのなら尚いいくらいに思い、ユキノはメモし終わったその住所に早速向かっていた。
これが、これから始まるユキノの突飛な人生の始まりだった。
それから、浮かれた気分であれこれと思考を巡らせていたユキノは、事の重大性に気付くこともなく気付けばノートに書き記された住所にある豪邸に到着していた。学力も身体能力も低いユキノに宛がわれている2LDKの簡素な一軒家とは似ても似つかぬ荘厳な建物。そこにあるだけで圧倒される、まるで個人の力量の高さを誇示しているかのようなその建造物の正面に取り付けられた、こちらは普通サイズのインターホンのボタンを押す。まあ現にこの大きさの違いは学校の方がユキノのような底辺の生徒にやる気を起こさせる為に取り入れているシステムということなので、力量を誇示している――というより誇示させられているのは確かなのだが。その豪邸を見上げながら、もっと勉強も運動も頑張らないとな、などと考えていると、広壮な前庭の奥にあるドアが控えめに開く。
「あ、あの、戦力募集の張り紙を見てきたんですけど」
緊張してか、上擦った声を上げてしまう。それを紛らすように咳払いを一つ。おっさんみたいだと思っていると、そのドアの向こうから、茶髪で眼鏡を掛けた二年か三年くらい上だろう青年が顔を覗かせた。