【7】 マリーを迎えに
エリったら、マリーを置いてくるなんて駄目じゃない。
せっかく手紙を書いたのだからここまで来ないで家で待っていればいいよかったのに。わざわざ探しに来て私がもう家に帰ったあとだったらどうしたのかしら?入れ違いにならなくてよかったわ。
もう一通の手紙のために西に行くから会えないかと思ったけれど久しぶりに顔が見られて安心したわ。
便りがないのはよい便り、なんて言うけれどやっぱり手紙をもらえると安心するわ。
まあ、その手紙はまだ開けてすらいないのだけれど……そんな些細なことはいいでしょう。それよりもマリーだわ。
あの子は目立つからすぐに見るかるはず……ほら、いたわ。クレープ片手に露店を冷かしているのは間違いなくマリーだわ。相も変わらずマイペースな子。
朝と変わらず賑やかな市場だけど、人と人の合間を縫って目的の場所へ行くのは大変だわ。
「マリー、ローズマリー」
「……発見……見つけた。一大事……大変。エリが……迷子」
アイスブルーの瞳に同色の髪。色素の薄い彼女の色はこの辺りでは珍しい。
感情の起伏があまりなくて淡々とした印象を受ける人もいるけれど、長い付き合いの私からしたらころころ変わる表情は見ていて可愛らしいわ。分かりずらいと言われるけれど。
「そうね、エリが迷子だわ。先に家に帰っていましょうか。どうせあとから来るでしょうし」
人混みではぐれないように手を繋ぎましょう。似ていないけれど仲のいい姉妹のように見えるかしら?
小さな口でクレープを食べるマリーも可愛いわ。
「クレア!」
突然に呼ばれた声に辺りを見回せば見知った顔を見つけたわ。
「やっぱり……ク、レア……だ」
肩を上下させ、荒く息を繰り返す。そんなに焦ってどうしたの?
「デューク、大丈夫?」
空気を求めて喘いでいる姿があまりにも辛そうで心配になるわ。
「だい、大丈夫。クレアを見かけたから……追ってきた……んだ」
「お店の方はもういいの?」
「もういいと言うか、これも仕事って言うか。仕入れに行ってきた帰りだよ」
その割には身軽ね、と言うか手ぶらじゃない?
「あぁ、量が多かったから直接店に届けてもらうように頼んだんだよ」
なるほど。言いたいことを察してくれたみたい。
「だから何も持っていないのね」
納得だわ。
「それはそうと……クレア、そちらは?」
……マリーのことかしら?そう思って横を見ればマリーと目が合う。
「疑問。お……ねえ……さま?」
分かっているわ、マリー。貴女の言いたいことは承知していてよ。
「マリー、彼はデューク。いつもお世話になっている雑貨屋の息子さんよ。デューク、この子はマリー、ローズマリーよ」
家に帰らないのって言いたいのでしょ?
「クレアの妹?でも――」
「ごめんなさいね、デューク。私たち少し急いでいるのよ」
「え?あ、そ、そうなんだ。ごめん、引き留めて」
言葉を遮ってしまってごめんなさいね。でも、私とマリーが似ていないって言おうとしていたのでしょ?
全体的に赤が基調の私と水色が基調のマリーとでは受ける印象から違うわ。似ていないけれど仲はいいのよ?
まぁね、確かに姉妹ではないけれど。
「また今度ね、デューク」
「あ、クレア!ちょっ、ま。せっかく会えたのに」
デュークの慌てふためく姿を見て道行く娘たちが頬を染めているわ。ホント、爽やか好青年はモテるわねぇ。
娘たちの熱い視線が違う意味を持ってこちらに向かないうちに帰りましょう。
デュークもそうだけど、アルと話をしていても視線を集めてしまうのよね。ただ世間話をしているだけなのに。
そういえば、前にアルの知り合いの女性に私はアルの何なのか、と聞かれたことがあったわ。それはもう美しい方で。眼福ね。
友人よ、と言ったら――――
「そんなことわたくしは信じませんわ」
と何故か否定されて。
あれは場所が悪かったのよ。
その知人女性を説得(?)していたら――――
「それにつきましてはわたくしも詳しく話を聞きたくってよ」
と一人、また一人と知人らしい女性が増えてきて……。気がつけば如何にアルが素敵かについて延々と聞く羽目になっていたわ。
場所が貴族街だったからか、お洒落なカフェで優雅にお茶会が始まってしまって……。
最後には私の話なんてどうでもいい雰囲気になっていた気がするし。あれは完全に当初の目的を忘れていたわね。
でもまあ、皆さんお茶会がお開きになる頃には晴れやかなお顔で帰られたからよかったのかしら?
後日、偶然会ったアルに――――
「アル、東国では女が三人集まれば『姦しい』と言うそうよ」
と言いながら遠い目をしてしまった私は仕方がなかったと思うの。
「え?突然どうしかした?」
と言われたけれど、説明する気力もなかったわ。疲れたのよ。精神的に。
姦しい(カシマ・シイ)=やかましい、騒がしい。…といった意味だったと思います。