【6】 アル2
後半部分を投稿します。
あの顔と対面してまだ捨て台詞が吐けるなんてあの男たちは意外と根性があるのかもしれない、とクレアはどうでもいいことを考えた。
「怪我はない?」
「えぇ、ないわ。大丈夫よ」
先ほどとは一転。優しげな目をクレアに向けて自然な動作で手を取り唇を寄せる。
「とても困っていたのよ。ありがとう、アル」
「どういたしまして、クレア。馬車からクレアの姿が見えたから急いで引き返してきたんだよ。そしたら美しい花に群がっている虫を見つけたんだ」
運命が君と僕を引き合わせたんだよ、と大袈裟に言うアル。そんな大それたことではないわ、とクレアはくすくす笑う。
「どこかへ行こうとしていたのでしょ?ごめんなさいね、巻き込んでしまって。馬車は近くで待っているのかしら?」
「気にすることないよ。ちょうど帰る所だったから馬車は先に帰したよ。それにクレアと一緒に過ごす時間を犠牲にしてまで優先することなんてないよ」
「まあ、おだてても何も出ないわよ。私もこれから帰るところよ」
「急いでる?ローザの店の近くに、この前新しくカフェができたの知ってる?あそこのピーチメルバが美味しいって評判なんだ。一緒にどう?」
ちょっと心揺れるお誘いだ。
「ローザの店の近くに?今日行ったけど気が付かなかったわ。魅力的なお誘いだけど急いでいるのよ。残念ね……。今日は行けないけどまた今度、誘ってくれたら嬉しいわ。ごめんさない」
「そっか……。また一月後に来るんだよね?その時に必ず誘うよ」
アルは肩を落とすがすぐに気を取り直して直ぐに約束をした。
「えぇ、一月後にまた来る予定だけれど」
ありがとう、と言いつつ形のいい顎に手を添えてクレアは小首を傾げる。
「そういえば、急いでるって言ってたね。何かあった?僕にできる事なら協力するよ。これでも顔は広い方だからね」
「それは心強いわ。ちょっと西の方に旅行へ行こうかと思っているだけよ。思い立ったが吉日って言うでしょ?」
王都で西、と言えば公国かその周辺地域をさす。
「西だって!?クレア、悪いことは言わないから今西に行くのは止めた方がいい。どうしても行きたいなら今度僕が連れて行ってあげるから」
いまだ握っている手に力を込めてアルはクレアを止める。
「何か危険なことでもあったかしら?西の公国は今も昔も平穏だったと思ったけど?」
「表向きはね。この情報はまだ秘密なんだけど、最近魔物の動きが活発になっているのは知ってる?」
「ええ」
それは市場で、店で何度も聞いた。
「その原因がどうも西の方にあるらしいんだ」
耳元で声をひそめてアルがそう言った。はた目には恋人に甘い言葉を囁いているようにしか見えないだろう。
けれど言う前に素早く周囲に視線を走らせ近くに人が居ないかを確認することは忘れない。
「西に?」
怪訝な顔をしてクレアが訊き返す。
「そうだよ。僕が得た情報によれば、わずかなんだけど西から魔物が流れてきているらしいんだ」
別の土地から突然自分の縄張りに迷い込んだ敵。元々そこを縄張りにしていた魔物の方が強ければ流れてきた魔物が倒されて終わり。しかし、逆ならば?
縄張りを追われた魔物は別の魔物の縄張りに入り込む。そして縄張り争いが再びおこる。
争いに敗れた魔物は別の魔物の縄張りへ行くだろう。そうしてそこでまた同じことがおこり、それが繰り返される。
魔物は気配に敏感ゆえにそういう不穏な空気はすぐに察知するのだろう。本来ならばおとなしい魔物までもが人に危害を加えるのはそのせいだと思われる。
「クレアが優秀な魔女なのは知っているよ。でも今西に行くのは止めるべきだ。僕はクレアが心配なんだ」
「ありがとう、アル」
互いに視線を外さない。道行く人々には見つめ合う恋人同士に見えているだろう。
「クレア……」
でも、とクレアは口を開きかけた――――
「は……気安くクレアに触るな」
が、突然横から割って入った誰かに遮られてしまった。
本日二人目の乱入者は言い終わる前にアルをクレアから引き剥がした。
「君、誰?」
不機嫌を隠そうともせずアルは問う。
人相の悪い男たちを追い払った時より、何倍も恐ろしい視線を受けても平然としている乱入者はそれどころかアルを睨みさえしている。
「それは俺が知りたいです。あなた誰ですか?」
「質問してるのは僕なんだけど」
「不審者に名乗る名前はありませんので悪しからず」
睨み合う二人。
「二人とも止めなさい!エリ、アルは私の友人よ。不審者ではないわ。アルごめんなさいね」
「クレア、彼とはどういう関係なの?」
「彼はエリ、エリオットよ。エリ、マリーはどこにいるの?一緒ではないの?」
「嫌な予感がしたから俺が一足先に来たんですよ。そしたら案の定。マリーはあとから来ます」
「つまりはマリーを置いてきたってことね。もうっ!」
腰に手を当てて肩を竦める。
「アル、心配してくれてありがとう。エリのことを悪く思わないで。私を心配してくれただけなのよ。ただの杞憂だったけれどね。私、迎えに行かなきゃいけない子がいるから失礼するわね。ごきげんよう」
クレアは挨拶もそこそこにスカートの裾をひるがえし駆けて行ったしまった。
「ちょっ、クレア!?」
慌てて後を追おうとしたアルをエリが通すまいと前に立つ。
「邪魔なんだけど、どいてくれない?僕を怒らせたいの?」
「もう既に怒っているのでは?それに、はい分かりましたと、どくと思っているんですか?」
呆れたと言わんばかりに肩を竦めるエリ。
「あなたが怒っていようが誰を想っていようがどうでも良いんです。ただクレアには近づかないでください」
「君には関係ないことだろ」
「クレアの最愛はあなたじゃない」
「……自分だって言いたいの?」
「……」
「マリーって誰?女性の名前だよね?君――――」
「質問ばかりですね。先ほどのあなたの言葉そのままお返しますよ。それこそあなたには関係ないこと、です」
もう会わないことを祈ってますよ、と身をひるがえすと振り向きもせずにエリは去って行った。
クレアはアルの質問に答えていません。
ちゃんと甘さはあったでしょうか?
二話以上の同時作成は無理だとようやく悟りましたので完結まではこちらに集中したいと思います。