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クレアルージュ  作者: 由布 叶
3/24

【3】  ローザ2

お待たせしました。


本編の終わりに余談があります。

「別に読まなくてもいいし」という方は自己回避願います。

この世界には魔物が存在する。人前には滅多に姿を現さず、生息圏(せいそくけん)樹海(じゅかい)峡谷(きょうこく)、人間の手が届かないような辺境の地に多い。

 魔物は攻撃的で凶暴なため、普通はそんなところまでわざわざ魔物に会うために出向かない。しかし、テン・テンの毛皮のように魔物の中には体の一部が高値で取引されるものがある。

 それらを手に入れようと危険を(かえり)みない者たちが少なからずいる。コズがテン・テンの毛皮を売却したのもそういう者たちだ。


「いやー、ホントいい買い物しました」

 コズ、心の底から嬉しそうね。とてもいいお顔だこと…。

「ね、クレア。ものは相談なんだけど」

「な、何かしらぁ?」

 どこからくるのか分からないローザの気迫に圧されたが、平静を装いいつも通りに返事をする。

「まだ冬までしばらくあるよね?」

「そうね」

「このコートが必要になるまでしばらくあるよね?」

「そうねぇ」

「ローザの仕立屋始まって以来の最高傑作(さいこうけっさく)と言っても過言ではないこのコート。もうしばらくここに置いておいちゃ駄目かな?」

 ローザにここまで言わせるほどの出来だったのね。

 ローザの言うとおり、冬までコートは使わないから別にかまわないのだけれど。…ここで駄目だと言ったら怖いわね。そうすると答えは一つしかないわ。

「かまわないわ。でも私が必要になるまで、よ」

「分かってる。ありがとう、クレア。大好き!」

「えぇ、知ってるわ…ところでローザ」

「え、何?」

「今回の分のレースなのだけど」

 緩みに緩みきっていた顔がその瞬間職人の顔になる。

「どれどれ…はぁー。いつ見てもクレアが編んだレースは職人技だよ。一般的な編み方から珍しい、見たことない編み方まで、ホントどこで覚えてきたの」

 しかし、すぐに崩れた。

「昔、ね。暇だった時に覚えたの」

「昔ね~。ま、いいよ。えーと…今回はクレアにしては珍しく簡単なものばかりだね。何かあった?」

「占いで素敵な結果が出たの。それが楽しみで落ち着かなかったの」

「占い?どんな結果が出たの?」

 興味津々といった様子でローザが訊き返す。

「再会、よ。近い未来に会いたかった人と再会できるのですって」

 いつ、どこで、とまで分からなかったけれど再会できると分かっただけでも収穫だわ。世界中どこを探しても見つからなかったのだから。もう一度出会えるのは奇跡にも等しいわ。

「再会?」

「会いたい人がいるんですか?」

 ローザとコズ、同時に訊き返された。

「えぇ、そうよ」

 にっこり笑って頷く。


「…これ知ったら町の男どもが泣くわね」

「いやいやいやいやいやいや。まだそうと決まったわけじゃ」

 口元に手を添えて、視線だけはクレアに向けローザとコズが小声で話す。


 クレアは売ったレースの代金で糸を買う。またレースを編むためのものだ。

「クレア、その会いたい人って…」

「ローザ、これだけ頂いて行くわ。はい、料金」

 差し出されるままローザは手を伸ばす。

「それじゃ、今日はこのへんで。また来るわ。さようなら」

 ローザに最後まで言わせず、ヒラリと身をひるがえす。

「ありがとうございましたー」

 工房から出てきたクレアに気づいた店員がその背中に声をかけた。


「クレア、言い逃げは卑怯だよ」

「さすがは神秘の女性(ひと)…」

 さよなら、とつられら手を振った体勢のまま、残された二人はポツリと呟いた。



           ◇◇◆◇◇余談◇◇◆◇◇

(これより後は本編とは関わりがありません。読み飛ばして頂いても問題はありません)







 しばらくしてハッと我に返る二人。

「コズ、神秘の女性(ひと)って何?」

「あれ、ローザさん知らないんですか?有名ですよ?」

「話の流れからそれがクレアのことだってことは分かった。でも、他は分からない」

 

 こもってないでたまには町に出た方がいいですよ、とコズ。 

 面倒だからイヤだよ、とローザ。


「誰が言い出したかは不明ですけど、曰くその微笑みは聖母のよう。その姿は女神のよう。その漂う威厳は魔女のよう。だ、そうですよ」

「前二つは何となく分かるけど、最後の一個が意味不明」

「あ、やっぱりですか?同感です」

「魔女のよう、ってクレアは魔女じゃない」

「そうなんですよ。正真正銘魔女なんですよ」

「こんなのどこぞの若いのが言い出したに決まってるよ」

「またどうして言い切れるんですか?」

「だってこんな訳の分からないことを言うのは若い奴らしかいないよ」

「若い、若いってローザさんだって若いじゃないですか。まだ ピ―――――――― (ローザによる自主規制)でしたよね?」

「コ~ズ~」

 地を()うような声でローザがコズを呼ぶ。

「あ…」

 己の失態に気づくが、時(すで)に遅し。

「今度、生地の買い付け私が行こうかな。たまには町に出なきゃいけないし?」

「すみません、ローザさん。言い誤りました。失言です。今のは無しでお願いします!」

「…」

 無言でジト目を向けるローザ。冷や汗をかきかき言い訳をするコズ。


 この後、糸を取りにシナが来るまでの約一時間、コズの必死の言い訳は続いた。


ローザは三十路。コズはローザより十ほど年上。

ローザは若くして自分の店を持っています。大盛況です。

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