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クレアルージュ  作者: 由布 叶
17/24

【17】  アルのため息 (アル視点)

アルの正体を今!!…なんて。

「はああ~」


 今日、何度目かになるため息が出た。

 机の上にはまだ手つかずの仕事がたくさん残っている。これを終わらせなければ今日は帰れない。所用で半日使ってしまったのが辛い。

「はぁぁ~」

鬱陶(うっとう)しい!」

「うっわぁ!何すんの!危ないじゃないか!」

 横から分厚本が猛スピードで飛んできた。

 正確に側頭部を狙ったそれを危なげなく受け止めて、投げた犯人に抗議する。

「黙れ。喋るな、話すな、口を開くな、息をするな」

 しかし、犯人は悪びれることなく抗議を一蹴(いっしゅう)し、そのうえ最後にこの台詞。

「殺す気!?」

「……」

 最早相手にもされないこの仕打ち。

 幼少時からの長い付き合いで互いの性格は知り尽くしている故の軽口だが、若干本音が混ざっている気がするのは多分気のせいではない。

 そこまで分かってしまうことが少し虚しかったり……。


「はぁぁ~。レオ、魔物の活性化について何か進展は?」

 暗に、西の公国はどんな動きをしているのか、と問う。

「朝議では何も。引き続き褒賞金を出して討伐をするそうだ」

 手元に視線を落としたまま答える。

「そう。やっぱり今は危険だよね。本当に西に行っちゃったのかな……」

 あの時邪魔が入ったせいでちゃんと止め損ねてしまった。

 あの男は一体誰なんだ?

 エリオット、そう彼女は言っていた。丁寧な物言いをしていたが性格は悪いと思う。

 彼女とずいぶん親しいように見えた。マリー、という名の女性のことも気になる。「迎えに行かなきゃいけない()」と言っていたから女性ではなく少女かもしれない。

 あのエリオットとかいう男の妹だろうか?

「はああー。気になることだらけで仕事が進まない……」

 机に突っ伏して泣き言をいう。

「西の事か?それともアルがいつも言っている魔女の事か?」

「両方」

「そうか。だが、仕事はしろ。帰りたければ」

 無情。

「手伝ってくれるとか、優しさがない!?」

「そんなものは持ち合わせていない」

「僕と君の仲だろ!?」

「なら、尚更」

 この幼馴染殿はいつからこんなに冷たくなったのか……昔からだ。うん、ブレてない。


「朝議では進展はなかったけどな、西の公国から父に密書が届いた」

「陛下に!?」

「あぁ、短く一文“太陽に祈りが届いた”と書かれていた」

「太陽に祈りが届いた?」

 暗号だろうか?

「誰か祈祷でもしてたの?」

「もし、そんなことしてたとしてもわざわざ密書にして出すわけないだろ。だが、それを読んだ後に父が難しい顔をして黙り込んでしまったのがな……。考えている以上に事態は深刻かもしれない」

 冗談めかして訊けばレオは珍しく曖昧に答える。

 クレアはどうしただろうか?本当に、あの時邪魔が入ったことが腹立たしい。

 クレアが実力のある魔術師であることはアルも知っている。しかし、陛下やレオがこれほど警戒している西の公国へ一人で行くのは危険すぎる。

 もし、あのエリオットとかいう男と行くのであればさらに腹立たしい。二人の関係がわからないだけに余計焦る。

 クレアと連絡が取りたいが彼女との連絡手段がない。クレアが月に一度王都に来るときに会えなければ一月(ひとつき)彼女に会うことはできない。

 クレアの住む森は入っても魔術でいつの間にか外に出されてしまう。これほどまでに歯痒い思いをするのは久しぶりだ。

 有能だ、将来有望だ、といくらもてはやられても女性一人守れないなんて笑ってしまう。

 クレアは今、どこに居るのだろう?



 密書。

 朝議では知らされず、内々に陛下へ届いたということは国家機密並(こっかきみつなみ)だ。

 その密書を見られる立場にいるレオ。彼はアルことアルフォードの幼馴染であり、このパルメヒアの王子殿下。レオニード。第一位王位継承者だ。

 ちなみに同い年。赤褐色の髪に群青の瞳。切れ長の目が冷たい印象を受けるが、そこが良いと女性には人気。怒らせてはいけない人種。

 アルは家位(かい)に「ミアー」をいただくルヅゥク家の者だ。現在は宰相を勤める養父(ちち)の元で補佐をしている。

 いずれは養父の後を継ぐ予定である。

 元々アルは他家の次男として生まれたのだが、ルヅゥク家には子どもがおらず親同士の仲が良かったため次男のアルが養子となった。

 養子と言っても生家とは変わらず付き合いがあるし、アルからしたら名前が少し変わった程度の感覚でしかない。

 家位は上から順に「パラ」「リダ」「ミアー」「ヒェガ」「ズィルソ」「リフォ」「カーメルセ」となっており、パラは最高位。一国の主とその直系にのみ名乗ることが許される。

 パラの下、リダはパラから臣下に下った者が名乗る。王と近しい関係の者だ。

 従って、その更に下のミアーは実質貴族のトップになる。

 カーメルセは一代限りで国に認められた騎士や魔術師に与えられる家位である。

 永くカーメルセを名乗ることができる家は例え家位が低くとも、へたな下級貴族よりも発言力があったり要人と見られることもある。

 今この部屋にはパラを名乗ることが許されるレオとミアーの家位をいただくアルがいる。次期国王に次期宰相。将来のトップが揃っていることになる。

 

 閑話休題(それはさておき)


「ああ、そいや例の小者がまたお前を探してたぞ」

「ゲッ!まだ諦めてないのか」

 再三「否」と答えたのにしつこい奴だ。

「今度の陛下の誕生祭に余興をやりたいからその資金を出せ、だったか?」

「うん、そう。馬鹿だよね。そんなことに国庫からお金が出るわけないのに。何をどう考えたらそういう発言ができるんだろうね?」

 頭、煮えちゃってるのかな、とせせら笑う。

 アルに言うのはお門違いなのに。どうせ財務省があまりのしつこさにウザ……面倒臭くなって宰相の許可が下りたら良い、みたいなことを言ったのだろう。

 ならば、と例の小者は意気込んだはいいが養父(ちち)に直談判する根性がなく宰相補佐であり義息子(むすこ)であるアルの所に来るのだろう。迷惑だ。

「陛下のため、と言えば全て許されると思ってるのかな?」

「だとしたら目も当てられないな。小者は小者らしく視界の端でチョロチョロしていればいいものを」

 ま、視界にすら入れないがな、とレオ。

「子悪党みたいなことは散々してたけど、何を突然そんなに張り切っちゃってんだか、ねぇ?」

 くつり、と笑う。

「精々滑稽(こっけい)に踊ってくれりゃいいさ。こちらに迷惑がからない程度にな」

 処罰はいつでもできる。やらないのは小者は小者なりに利用できるからだ。

「もう(すで)に僕に迷惑がかかってるんだけど」

「知るか。どうにかしろ」

 本当に幼馴染殿は冷たい。

「はぁぁ~」

 アルは今日、何度目かも分からないため息をついた。


アルはクレアの実力を城に勤める魔術師くらいの実力だと思ってます。


家位はパラ=国主 リダ=公爵 ミアー=侯爵 ヒェガ=伯爵 ズィルソ=子爵 リフォ=男爵 カーメルセ=騎士・魔術師 と設定しております。

ちなみに表記は「名・家位・家名」となります。(例:アルフォード・ミアー・ルヅゥク)

即席で作りました(汗)

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