【15】 エリの苦労1 (エリ視点)
「やたー!書けた!」と思ったらいつもの二倍以上の量に…。
仕方がないので二つに分けました。前半の方が短いです。
夕食の後のまったりした時間を過ごしていた。
勝手知ったる何とやら。マリーがあり合わせで作った夕食を食べ、エリが片づけをしている横でマリーは明日の朝食の下ごしらえをしていた。
後片付けを終え、マリーを手伝おうとしたもう終わると言われたので一足先に休憩をすることにした。
エリは片づけの際、キッチンの戸棚で見つけた珍しい茶葉を、試飲しようと試に淹れてみた。
コーヒーとよく似ていて色は薄茶色、香りが深くてほろ苦い。
これは癖になりそうだ。甘い物が欲しくなる。
こぽこぽ、と和やかな音をたててカップにおかわりを注ぐ。
母、クレアの趣味全開のこの家はどこか落ち着く。この家にはまだ数回しか来たことがないが、住む人間が同じな所為かどの家も雰囲気が似ている。
永い時を生きていると、どうしても一所には留まることが難しい。
世界の各所にある家は近くを通った時に少し滞在するついでにエリとマリーが掃除をしたり手入れをしている。
クレアも時々出向いて掃除をしているようだが、各地に点在している家を掃除して回るのは一苦労だ。
クレアが各地に家を持ち暮らしているのと違い、エリとマリー夫婦は世界各地を放浪している。旅をしている。
様々な土地へ行き、人と接してそれなりに充実した人生を送っている。
そして、近くへ来たときにはクレアに会いに来て旅先の出来事を肴に三人でゆったりと語らう。
精神年齢はすでに人生を達観した老人並だ。実際エリもマリーも軽く百年は生きているので外見は別として老人ではある。一応。
因みに、クレアは齢五百年を生きると言われているが、本人曰く「まだ五百には達していない」とのことだ。重要らしい。
これは、意図したことではないがあまり遠出をしないクレアが世界の情勢や噂話を知る機会になっていることは否定しない。
クレアも、なかなか足を運ぶことができない――――行くと長期滞在をしてなかなか帰られなくなるから、らしい―――――彼の地や、旧い友人の現状が知れてうれしいと昔言っていた。
ここ数年はパルメヒアの王都付近にある森に住んでいると知っていたので久方ぶりに会いに来た。
道すがら偶然会った海の民に手紙を託し、公国を経由する道筋を辿り王都へ入った。
その日、クレアが森の家に居ないことは分かっていたから迷わずに王都へ向かった。
王都は相も変わらず賑やかで活気に満ちている。クレアの魔力を辿ればどこに居るのは簡単に分かった。
クレアより正確で広範囲を感知できるわけではないが知っている魔力は感じとることができる。
何故だか根拠のない嫌な予感がした。
「マリー、嫌な予感がするので先に行きます。ゆっくりでいいので後からちゃんと追いついてくるように。クレアと俺の魔力は分かりますね?」
はぐれないように繋いでいた手を離し妻であるローズマリーに確認する。
マリーはクレアやエリと比べると魔力を辿るのは少々苦手なのだ。
「了解……承諾……これ買ったら……行く……から」
目の前で焼かれているクレープから視線を外さずにマリーが答えた。若干不安だ。
しかし、ここは妻を信用することにしてエリはクレアの魔力を辿った。
――――そして案の定。そこにはクレアと、見知らぬ男性。
傍から見れば恋人同士、に見えないこともない。
どんな会話をしているのかエリのいる位置からはまだ分からないが、心配気に相手を見つめる視線とそれに困ったように柳眉を下げるクレア。
両者、あっまーい雰囲気を放っているように見えるが、残念なことにそれは男性の方だけでクレアには全くと言って良いくらいにそれがない。
精々クレアは「心配してくれるの?嬉しいわ。でも止めないでね」といった感じの心境だろう。
二人の世界を創る、というのは父と母が纏う空気を指すものだとエリは認識している。あれは砂が吐ける。
状況を即座に理解したエリは呼び方を間違えないように間に割って入る。
クレアの性格を分かってはいても見ていて面白くないものは面白くない。
「は……気安くクレアに触るな」
「君、誰?」
不機嫌を隠そうともせず金髪碧眼の優男風貴族は問う。
その優男に冷めた視線を寄越しながら
「それは俺が知りたいです。あなた誰ですか?」
質問で返す。
「質問してるのは僕なんだけど」
「不審者に名乗る名前はありませんので悪しからず」
睨み合う二人。
この優男は間違いなく貴族だ。貴族な時点で不審者ではないのだが「母」に言い寄る「見ず知らずの男」は「息子」の自分からしたら十分不審者であると考えるエリの思考は間違っていないと思う。
「二人とも止めなさい!エリ、アルは私の友人よ。不審者ではないわ。アルごめんなさいね」
優男は「アル」と言うらしい。愛称か何かだろう。
「クレア、彼とはどういう関係なの?」
「彼はエリ、エリオットよ。エリ、マリーはどこにいるの?一緒ではないの?」
まだバラすつもりはないのかクレアはアルの質問に答えていない。
「嫌な予感がしたから俺が一足先に来たんですよ。そしたら案の定。マリーはあとから来ます」
「つまりはマリーを置いてきたってことね。もうっ!」
クレアは腰に手を当てて肩を竦める。
「アル、心配してくれてありがとう。エリのことを悪く思わないで。私を心配してくれただけなのよ。ただの杞憂だったけれどね。私、迎えに行かなきゃいけない子がいるから失礼するわね。ごきげんよう」
「ちょっ、クレア!?」
慌ただしく去って行ったクレアを追い駆けようとしアルをエリは通すまいと道を遮る。
「邪魔なんだけど、どいてくれない?僕を怒らせたいの?」
「もう既に怒っているのでは?それに、はい分かりましたとどくと思っているんですか?」
呆れたと言わんばかりに肩を竦めるエリ。
「あなたが怒っていようが誰を想っていようがどうでも良いんです。ただクレアには近づかないでください」
親切心で一応忠告はしてやる。
「君には関係ないことだろ」
大ありだ。
「クレアの最愛はあなたじゃない」
「……自分だって言いたいの?」
「……」
「マリーって誰?女性の名前だよね?君――――」
「質問ばかりですね。先ほどのあなたの言葉そのままお返しますよ。それこそあなたには関係ないこと、です」
もう会わないことを祈ってますよ、と身をひるがえす。
こんな時にこそ父がいてくれたら、と恨めしげにエリは溜息をついた。面倒事は全て押し付けることができたのに。
なぜそんなことをするのか?昔訊ねたことがある。
曰く……悪戯が成功した時のような達成感が癖になるそうだ。まあ、父に言わせれば母のアレは「質の悪い趣味」だそうだが。
ただ仕掛ける側になると「いつ気づくのか、いつ気づくのかと陰でほくそ笑むのは存外に楽しい」と言っていた。
「性格の悪い似た者夫婦」と言ったら「喜べ!お前はそんな夫婦の実の息子だ」と返され言葉に詰まった記憶がある。
一瞬、血筋の確かな自分の出生が恨めしいと思ったのは悔しいので秘密だ。
エリはマ〇コンではないと信じてます。ただ心配性なでけです。多分。
クレアのあれは悪戯と呼べるレベルなのか?悪女ではないとこれも信じたい。




