【14】 探索3
短くなってしまいまいた。
睡魔に敗北。
何という失態。自分で自分が許せない。
動揺していた、意表を突かれた、なんて言い訳する気もないわ。
慎重になりすぎた、手間取りすぎた、なんて言い訳にもならないわ。
そう、全ては過ぎてしまったことよ。自ら犯した失態は自分で挽回しなくてはいけないわ。
地中虫、偽物でも災厄の箱と相性が合ってしまったために狂暴化したのね。ある意味被害者と言えるかしら?
地中虫が偽の災厄の箱の影響で暴れたせいであの雑木林一帯に棲息していた生き物は別の場所へ逃れたかもしくは、地中虫に魔力を奪われたか……。
魔物の活性化と言うよりは魔物の狂暴化、かしら?
災厄の箱により魔物は凶暴化した。その狂暴化した魔物のせいで棲み処を追われた魔物が人と遭遇して襲いかかる。
地中虫は地下を自由に移動できるから雑木林を離れた所にも行くことができるわ。
出向いた先でそこを棲み処にしている魔物を追い出した。それか魔力を奪い災厄の箱に贄を捧げる。
地中虫にそこまで考える知能があったとは思えないけれど、殺して魔力を奪ったなら結果は同じこと。
その結果私たちには魔物が突然活性化したように見えた、ということかしら?
食虫食植物に至っては魔物ですらないのよ!?
先程の食虫植物、動物を捕食して実の中にあった偽の災厄の箱に魔力を贄として捧げていたのだわ。
あの食虫植物はもっと北に生えていると本で読んだ事があるわ。暖かい地域では育たないらしいのよ。大きさだって本来なら虫を捕食しているのだからもっと小さいと書いてあったし。
虫をおびき寄せるために甘い匂いを発生させる、という特性はそのままのようだったけれど。
テン・テンがしきりに食虫植物の臭いを嗅いでいたのはそのせいだと思われるわ。
偽の災厄の箱を実らせるなんてもうそれ自体が災厄だわ。
わざわざ人が踏み入られない場所に行ってまで偽の災厄の箱で何がしたいのかしら。
偽の災厄の箱に触れてあの食虫植物は枯れなかった……と、いうことは地中虫と同様に相性が良かったということ。
この二つのこと鑑みるに、魔物でも災厄の箱を扱える可能性があるということだわ。意思を持たない植物も然り。
災厄の箱を扱うのは人でなくてもいいということ。
災厄の男は災厄の箱に似た魔具を造ることができる。もしくは、造らせる宛がある。
最初の魔法使いの魔具を再現できるなんて……。
これはとても恐ろしいことだわ。災厄の箱は人以外も扱うことができて、それに似せた魔具を造ることができる。
災厄は一つではなくなった。
全てにおいて規格外。
どれもこれも災厄の箱が原因よ。滅茶苦茶だわ……。
全ては私の憶測にすぎないけれど、当たらずといえども遠からず、だと思うわ。
救いはまだこの事を知るのが私だけだということ。
知られてしまえば、必ず災厄の男のように箱に魅せられる愚か者が現れるわ。災厄の男が箱を手にして生きていることが奇跡に等しいと理解できない愚者たちは恐れずに災厄の箱に手をのばすでしょう。
その前に、それよりも先に元凶を、原因を潰さなくてはいけないわ。
偽物の災厄の箱なら私にも壊すことはできたわ。でも、始まりの魔法使いが造った本物の災厄の箱を壊すことは私にはできないでしょう。
私では始まりの魔法使いに劣るわ。いえ、この世界に始まりの魔法使いに勝る魔術師が何人いるのかしら?
私に並ぶ魔術師ですら極少数しかいないのに。
それでもやらなければいけないわ。
アリシア様と約束もしたし、この件は私が引き受けたのよ。責任をもって最後まで完遂すべきだわ。
それに、あの男。災厄の男だけは私の手で……。
あの時、突然現れて偽の災厄の箱を持って行った子どもも気になるわ。災厄の箱に触れられるということは……そういうこと。
あの表情とあの声音。違和感があるのよ。
呪文なしで『転移』の魔術を施行した技量といい、とてもあの子どもの実力とは思えないわ。
子どもは偽の災厄の箱を持って消えてしまったけれど、私の前で『転移』の魔術を施行したことは失敗だったわね。
魔力を辿ればどこへ行ったのか、どこに居るのか探すことはでるのよ?
今、私がいる位置から……東?つい先日まで居たパルメヒアの王都ではないわよね?そうでないことを祈るわ。
一刻も早く探して見つけ出さなくては。
『転移』の魔術を使い、クレアは東へ向かった。
次の話より少しクレアから離れます。
「王都」で通すつもりでしたが名前出ました。国の名前です。思いつきで決めたので意味はありません。




