【11】 災厄の男
また説明回です。
途中で何故か「魔術師の殺し方講座」がはいっております。苦手な方はお戻りください。
「それでは、御用の際はそちらのベルを鳴らしてお呼びください。失礼します」
私が公国に滞在する間、身の回りの世話をしえくれる侍女のフリーデルそう言って退出する。
部屋に案内された後、少し一人になりたくてフリーデルにお願いしたわ。
つい取り乱してしまいそうになったけれど気力で平静を装ったわ。そこは年の功と……いえ、多くは語らないでおきましょう。
アリシア様とはごく普通に会話できていたと思うわ。
フリーデルの言う「ベル」とはいわゆる「呼び鈴」で、このベルさえあれば、常に部屋で待機していなくとも良いという優れ物よ。
ベル自体に術式が彫り込まれていて、鳴らせば二つで一組の、対になるベル同士が呼応し離れていてもすぐに駆けつけることができるの。
部屋に備え付けのベルを鳴らせば、ここにはいないフリーデルが持つベルと呼応しフリーデルは私が呼んでいることを離れた場所に居ても知ることができるのよ。
多くの人々に利用されているけれど、一口にベルと言ってもその金額はピンからキリまであるわ。
今ここにあるように、お城など貴族が使うベルは彫り込まれた術式自体が計算し尽くされた素晴らしい意匠で、目も楽しませてくれるわ。
動物や植物、時には人物画であることもあり、魔術師として職人として、両方の力量が問われる魔具よ。
二人掛けのソファに腰を下ろし、用意してあった茶器でお茶を淹れ「ふぅー」と深く息をつく。
「災厄の男」 始まりの魔法使いが造りし魔具に魅せれられし愚か者。
始まりの魔法使いは今の魔術を確立した偉人。若くしてこの世を去った……と史書には記されているけれど、実際は人里離れた場所にひっそりと暮らしながら晩年は魔具製作に没頭していたらしい。
しかし、溺愛していた娘が流行り病で亡くなった頃から造られる魔具がどこか歪で凶器を孕むようになった。
災厄の箱はその時に造られた一つで愛憎と魔力を贄として災厄を振りまく。
ある時、男は一人の女性に近づき騙して殺し、彼女の愛憎を贄として災厄の箱に捧げた。
災厄の箱は男が望むとおりに光の柱で天を貫き、辺りを一瞬にして焦土に変えてしまった。
ある時、男は魔女を串刺しにしてその魔力を贄として捧げ、疫病を蔓延させた。
災厄の男はただただ己の欲望のままに箱を使う。
災厄の男は箱の影響を受けているため年をとらない。箱に捧げた魔力を自分に還元させているのだ。
人の寿命は魔力量で決まる。生けとし生ける者は全て、必ず魔力がある。生命力=魔力、といっても過言ではないくらいに。その魔力値が多ければ多いほど寿命は延びる。
逆に考えれば、魔力さえ枯渇しなければ死にはしないということ。
長寿の魔術師を殺したいなら首を刎ねるのが一番早い。心臓を貫く、と言う方法もあるが成功の確率は低い。即死ではないので、自分で傷を治してしまう可能性があるからだ。
たとえ、魔力が枯渇しかけていても外部から供給する方法もある。災厄の男はこの方法で生き永らえている。
本来ならば魔石を使う。魔石には二種類ある……のだけど、これは災厄の男には関係のないこと。ただ共通点があるとすれば、魔力には相性があって体に合わない魔力を取り込もうとすると拒絶反応をおこす。最悪、死に至ることもあるので魔力の外部供給はそうそうできるものではない。
それを考えると幸か不幸か、災厄の箱と男は相性が良かったと言える。永く生きているために災厄の箱から魔力を取り込んでも死ななかったのだから。
災厄の男は人形師でもある。人形師とは人形やぬいぐるみ等、空の器に命でもある魔力と複雑な術式を組み込んで、まるで生きているかのように操る魔術の一種だ。
操るためには常に魔力が必要で魔力がなくなれば止まってしまう。効率の悪い、かなり術者の少ない魔術である。
災厄の男が目撃された付近で魔物の活性化がおきているとアリシア様は仰っていたわ。
災厄の男は何がしたいの?魔物を活性化させること自体が目的なのかしら。それとも、その結果おこる人への被害が目的?
魔物の中には魔術を扱うほどに魔力値の高い魔物のもいるわ。そういう魔物を殺せば魔力を得ることができるし、人を殺せば魔力と憎しみの両方を得ることができるわ。
災厄の男にしてみれば損をすることはないのね。
今はまだ誰が亡くなったという報告はないみたいだけれど、そんなの時間の問題だわ。報告があってからでは遅いのよ。
「何にしても早く原因を突き止めて災厄の男を捕まえなくちゃ」
いえ、捕まえるだけでは駄目。この事態の元凶を消し去ってこそ、だわ。
災厄の箱を持っている男、だから「災厄の男」と呼ばれているのです。




