【10】 アリシアの思い (アリシア視点)
説明回です。クレアの立場?立ち位置?の説明です。
説明役はアリシアで彼女の視点でお送りします。
「待つ」ということはどうしてこうも辛いのでしょう。
クレア様にお手紙を出して早三週間。未だ何の音沙汰もございません。
魔物の活性化は我が公国にも多大なる被害を与えております。いくら倒しても減らぬ魔物。本来ならおとなしい魔物までもが牙を剥き被害は増える一方です。
報酬を常時よりも上乗せし、討伐隊を組むも成果は見えず……。原因究明を急ぐも報告に上がるのは謎の男の目撃情報。
調査を進めていくうちにその男が目撃された付近で魔物の活性化が起こることが判明し、続いてその男の正体も明らかに。
その男は「災厄の男」と呼ばれる存在なのです。世界に災厄をもたらす者。わたくし共ではとても手に負えません。
そう判断したわたくしは直ぐ様クレア様へ手紙をしたためました。
クレア様との連絡手段は幾つかございますが、わたくしはたまたま城下へ商いに来ていた海の民に手紙を託しました。
彼らの一族はクレア様の所在を知る希少な存在でもあるのです。
クレア様がお出でくださるまでにわたくし共でできることは「他国へ流れる魔物をできうる限り減らすこと」「この情報を漏らさないこと」です。
もちろん、いつまでも隠し通せるなどとは思っておりません。ですが、相手が相手です。折を見て他国へも内々にお教えいたします。我が公国も被害者の一つですから。
クレア様へお手紙を差し上げると同時にわたくしは各国へ魔物活性化についての調査報告を内密にお伝え致しました。
コンコン、と執務室のドアを叩く音に我にかえります。
「はい、どうぞ」
「失礼致します。アリシア様、想い人がいらっしゃいました」
室内に素早く視線を走らせ、わたくしが物心つく以前より側仕えをしてくれているゼハスは冗談めかして言いました。
確かにここ最近、わたくしは注意力散漫で頭の中はクレア様のことでいっぱいでしたけど?
「直ぐに参りますわ」
ゼハスの言葉を聞き流してやりかけの仕事を一度脇に避け、執務室を出ます。
限られた者しか知らぬ秘密の通路を通り予め施されている『転移』の魔術をいくつか経由しとある一室へ向かいます。
室内には既にクレア様が待っておられます。
クレア様への対応はゼハスの妻であり彼同様わたくしが物心つく以前より仕えてくれているサリサに任せてあります。
深呼吸をしてドアを叩きます。
コンコン。
「どうぞ」
「失礼致しますわ」
ゆったりと、優雅に見えるように完璧な礼を心がけます。
「堅苦しいのは無にしましょ?公の場ではないのだから楽にしてちょうだい」
クレア様はとても気さくでお優しい方ですが、相手は国主であった父よりも目上の方です。緊張しないはずがございません。
「ごきげんよう、アリシア様。時間があまりないのでしょ?早速本題に入りましょう」
「承知致しましたわ」
しかし、そういった感情を表に出さず押し隠すのは常のこと。その経験を最大限に生かし優雅に微笑んで見せます。
きっとクレア様ならわたくしが緊張でガチガチに固まってしまっていても気にしないでしょう。間違ってしまっても「初々しいわ」などと言い、許してくださるでしょう。
クレア様は寛大な方ですから。外見年齢はわたくしとそう変わらないのですが。
「お話を聞きましょう」
わたくしが腰を下ろしたのを見計らってクレア様がおっしゃいました。
「クレア様は魔物の活性化についてはどれ程ご存じですか?」
「詳しいことは知らないわ。公国の方面から魔物が流れて来る、という事くらいかしら?」
「流石クレア様ですわ。お耳が早い。この度ご足労願いましたのはその魔物についてなのです。魔物の活性化はこの公国の領土にて何カ所か発見されております。……実はわたくし共はその原因を半ば突き止めているのですが……」
クレア様、正確にはクレアルージュ様。いえ、これも正しいとは言い難いのですが……。
クレア様は家名を名乗りません。ご子息のエリ様も妻であるマリー様も同様です。
わたくしは父の後を継いだ際に口伝で伝わる秘密の一つとしてクレア様のことを知りました。
呼び方につきましては、クレア様の希望により、そう呼ばせていただいております。
「何も問題ないわ。続きを聞かせてちょうだい」
「災厄ですわ。災厄の男と思われる者が目撃されたのです」
「災……厄の……男で……すって?」
わたくしたちとクレア様は持ちつ持たれつの関係をしております。
クレア様は――――正確な数字は存じ上げませんが――――おおよそ五百年を生きる大魔女様です。
「はい。相手が災厄の男では我らには到底力及ばず……どうかお助けくださいませ。クレアルージュ様」
基本、政や国家間の争いには不干渉を通すクレア様ですが、今回の「災厄の男」のようにどうにもならない時、知恵を貸してほしい時などはクレア様に誠心誠意お願いします。
「災厄の男……。承知したわ。アリシア様の願い、確かに承ってよ」
ホッと胸を撫で下ろします。
「有り難うございますわ。部屋を一室用意致します。滞在中はそちらをご利用くださいませ。何かご入用な物がございましたら、侍女を一人付けますのでその者にお申し付けくださいませ」
しばらく世間話に興じておりましたが、クレア様がお疲れでしょうとサリサに案内を任せてわたくしは一旦執務室へ戻ります。
「クレア様のお世話はフリーデルに任せますわ。手配してくださいませ」
滞在中、クレア様に対して不備があってはなりません。どんなご要望にも応えられるように準備をしておきます。
クレア様のお世話はゼハスとサリサの娘であり、わたくしの幼馴染であり信頼できる友人でもあるフリーデルに任せます。
一通りの指示を出し、椅子に深く座るわたくしにゼハスがそっとお茶を出してくれました。サリサは今他の侍女とわたくしが言ったことを実行すべく奔走中なので代わりにゼハスが淹れてくれようです。
「ありがとうございますわ」
お茶を飲んでホッと一息つく、至福の瞬間ですわ。
「少しは気が楽になりましたか?」
「ええ、そうですわね。これで何もできずに手をこまねいている、という状況から脱出することができましたわ」
クレア様に頼りきりになる、というのは心苦しいですが。
「何でも一人でできる人間はおりませんよ。たまには他人に頼ることも大切です」
「理解しておりますわ。ですから、わたくしはわたくしにできることを致しますわ」
茶器を置いて、執務室を出る前までやっていた仕事に取り掛かります。
クレア様がわたくしたちに手を貸してくださる代わりに、わたくしたちはクレア様の国での権利を保障します。どの国でも自由に使える「名」を持っているのです。その名を聞けばどの国もこちらを優先するでしょう。
永い時を生きるクレア様には訪れたことのない所など殆どないのでしょう。多くの国が少なくとも一度は必ずクレア様と関わりを持っております。
クレア様へ寄せられる案件は人命がかかっていることが殆どなので断る国はないでしょうが。
各国の上層部には極一握りの者に、けれど連綿とクレア様の存在が語り継がれているのです。
書きたいことが多くてグダグダになってしました。行間がすごいことに…。アリシア視点なので多少の美化もはいってますが間違ってはいません。
ちゃんと伝わっているでしょうか?
>>前話の一部を編集しました。詳しくは前話のあとがき参照。
気が向きましたら読み返してみてください。




