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クレアルージュ  作者: 由布 叶
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【1】  魔女

暇つぶし程度にご覧ください。

「残酷描写」はシリアスの時のための保険です。

 朝特有の爽やかな風が吹き抜ける。生い茂る葉の間から陽射しが漏れ、地面に幾何学(きかがく)の模様を描く。

 肩から斜めに大きめの鞄をかけ、片手には籠を持ち森の中を行く。

 (だいだい)と紅蓮を混ぜたような髪はうねるように波打ち、やや垂れ目がちの瞳は灼熱の赤をしている。年の頃は二十~二十半ばほど。

 今日は森の奥にある家から町に品物を届けに行く。

「今日も晴れそうね。朝の森は気持ちがいいわ」

 空いている方の手をかざして上を見上げる。

 いつもより早めに家を出てきたから店の開店前には着けそうだ。



 森を抜けて二十分ほど歩けば町に着く。

 町の三カ所に門があり、町を囲むように建てられた塀に沿って一番近い入口から中に入る。

 町は広く、徒歩では目的の店まで時間がかかる。だから相乗りの辻馬車を広い近くに来たら降ろしてもらう。

 町の中心部はさまざまな店が並び、露店が出て市が賑わう。

 

 大通りを一本ずれた通り沿いに目的の店はある。

 カランカラン、とドアに付けられた鐘が乾いた音をたてる。

「はい、はーいっと。気の早い客だね。家はまだ開店前だよ」

 (しばら)くして不機嫌さを隠しもせずに店員が出てきた。寝癖の残る頭をそのままにブツブツと不満を漏らす。

「あら、ごめんなさいね。出直した方がいいかしら?」

 くすくすと笑いながら問う。

「おや、客かと思ったらクレアじゃないか。そういえば今日か。いつもより早いな。どうしたね?」

「おはよう、リック。別に何かあったわけじゃないのよ。いつもより早く目が覚めたから」

 そう言いながら鞄の中身を一つずつカウンターに乗せる。店員――リックはクレアが持ってきたもう片方の荷物、籠の中身の確認を始めた。

 

 その様子を横目で盗み見しながら何故落ちないのかと疑問に思う。クレアはいつも、今にもずり落ちそうなリックの鼻眼鏡がとても気になる。

 白髪の混じる髪は短く刈り込まれ、切れ長の目はスッキリとしていて若い頃はさぞモテただろう。

「えーと……こっちはジャム各種と干した果物だね。毎度思うが、重くないのかい?小分けにしているとは言え、これだけの瓶詰ジャムを持ち歩くなんて」

「そんなことないわ。重さを調節しているから、私が感じてる重さなんてせいぜい鞄と籠の重さだけよ」

 だから詰めれるだけ詰めても平気。

「それも魔術かい?魔術ってのは便利だねェ」

「うふふ。そうね。……はい、これで全部よ」

 最後の包みをカウンターに乗せる。

「はいはい。腹痛薬に頭痛薬、胃痛薬と傷に塗る軟膏(なんこう)と、これは湿布用の軟膏だね。それと加工前の薬草各種っと。……で、これが惚れ薬」

「いえ、そんな物はないわ」

 即答で否定する。

「冗談だよ。……うん、確かに。確認したよ。はい、料金ね。ジャムが今回多めだからその分上乗せしといたよ」

 渡されたお金の数を数える。

「ありがとぅ。……こちらも確かに受け取ったわ」

「魔女の薬はよく効くって評判で無くなるのがはやいよ」

「残念だけれどこれ以上は増やせないわ。作れないもの」

 こう見えて私忙しいのよ、と冗談めかして言う。

「親父―、今日はクレアが来る日だろー?忘れんなよー」

 リックが出てきたカウンターの向こうにあるドアの奥から声がして青年が現れた。

「おい、親父聞いてんのか?おい、おや……く、クレア!な、も、来てたのか」

「あら、おはようデューク。ええ、今リックに全部勘定をしてもらったところよ」

 

 今日も朝からデュークは元気ね。

 リックの息子のデュークはリックをそのまま若くしたような容姿をしている。ようするに……モテる。

 前に、町中でたまたまデュークと会った時クレアとデュークの関係を気にする視線がいくつもあった。あの時は、視線が痛くて痛くて……。

「おはよう。今日も綺麗だね」

「ありがとう」

 爽やかにそう言う顔は心なしか赤いが、それは、まぁ愛嬌でしょ?

 

 若いっていいわぁ、と自分より年下の青年に胸中でそんな感想を抱く。

 リックとデュークは外見こそ似ているが中身は全くと言っていいほど似ていない。

 リックにデューク並みの爽やかさはないわ。

「それで、忘れちゃいけないことって何?」

「あぁ、これのことだよ」

 ごそごそとカウンターの下からリックが袋を取り出す。

「先月までに家に持ってきたジャムの瓶だよ」

「ありがとう。袋ごと頂いても?」

「あぁ、どうぞ」

 少し悩んで鞄ではなく籠に入れる。

 

 ジャムの瓶は使用後回収してもらうように頼んであるのだ。

 毎月ジャムを作るたびに瓶を新調するのも面倒だものね。それに瓶なんて一家族に何個もいらないわよね?

 そうして戻ってきた瓶を消毒してまた使い回しているのだ。

ざっと見た所、今日は十個くらい戻ってきた。

 瓶十個って結構な重さなのよねぇ。まぁ、私には関係ないのだけれど。たかだか瓶が十増えた所でなんてことはないわ。


「あ、あの、さ、クレア」

「なぁに?デューク」

 視線が彷徨(さまよ)う。

「これから市場で買い物だろ?その……えっと……」

「?」

 何だろう?隣に並んでいるリックがすごく何か言いたそうな顔をしている。

「あの……荷物が増えて重くなるから俺が荷物持つよ!」

「そんな、悪からいいわ。デューク、まだこれから店の手伝いがあるでしょ?今私が貴方を連れて行ったらリック一人で準備しなくてはいけなくなるわ。だから気持ちだけ受け取っておくわ。ありがとう」

 それに、さっきリックにも話したが魔術でかかる荷の重さが調節できる。

 ガックリと肩を落として、デュークったらそんなに市場に行きたかったのかしら?……なんて。

「そ、そうだね。楽しんできてよ。それじゃ……また……」

「えぇ、また。リックもまた今度」

「ああ、さいなら。気をつけて行くんだよ」

 わかってるわ。私を誰だと思ってるの、と笑って答える。

 

 私は魔女よ。


 来たとき同様にカランカランと乾いた音をたててドアをくぐった。



「バカめが」

「うるせぇ……」


クレアは魔女です。詳しいことについては追々。


クレアの言葉遣いが難しいです。

「たおやか」はどう表現したら…。


興味がわきましたら、次回もよろしくお願います。

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