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記念作品シリーズ

創立記念日

作者: 尚文産商堂

「ふぁ~~~~」

井野嶽桜は、涙目になりながら、背筋を一気に伸ばした。

この日は、11月14日。

高校は創立記念日で休みとなっていた。


「姉ちゃんって…もう起きたの?」

弟であり同じ高校に通っている幌が桜の部屋に入ってきた。

「こういう休日って、どうしても早く起きちゃうのよねー」

「いつもは遅いくせに」

幌は、部屋のドアにもたれかかりながら、桜に言った。

「何か言ったー?」

にっこりと笑いながら、桜は幌を見つめた。

「朝ごはんができたから食べにこないかって思って」

「行くよー」

ベッドから飛び起きた桜は、幌について部屋から出て行った。


「やっぱりおいしい!」

「冷蔵庫から引っ張り出してきたサラダ、昨日の晩ごはんの残りのミネストローネ、オーブンで焼いた食パン。誰でもおいしくなるさ」

「でも、サラダにかかっているドレッシングは、お手製でしょ。それにミネストローネも、じっくりコトコト煮込んで作ってたじゃない。それでも、"誰でも"っていうつもり?」

食パンにマーガリンをしっかりと塗って食べ始めた。

「いつも通りだしね」

幌は自前の分をよそうと、椅子に座り食べ始めた。


テレビをボーっと見ながら、幌が食器を洗っている傍らで、桜はコップにジュースを入れていた。

「姉ちゃん、また洗い物増やす気?」

「私食べる係、幌は後片付け係」

さらっと言い切った。

「…今までと変わらないじゃないか」

「いいじゃん、それでも十分でしょ」

それから、思い出したかのように桜が幌に伝えた。

「そうだ。今日さ、琴子や鈴たちが家に来るんだけど…」

「別にかまわないさ。いつ来るの」

「約束は10時半ってしてるから、もうちょっとしたらかな。あ、そうそう、留学生の子も一緒に来るっていうことになってるから」

「留学生って、6月の第2週で帰った、あの子か?」

幌が水切り棚に食器を並べてから、桜に聞いた。

「そうだよ。あの子が休みを利用してこっちに来るんだって」

「じゃあ、久々に腕をふるうか」

そう言って、幌は即座に冷蔵庫を確認した。


10時きっかりに、玄関のインターホンが鳴り、桜がドアを開ける。

「お久しぶりです」

「お久しぶり、アクサン」

桜が、アクサンとその後ろにいる小さい子を見ていった。

「あれ、この子はだれ?」

「言ってたでしょ。私の弟」

桜はその時に、ぱっと思い出した。

「ああ、温泉の時に言ってた」

「そうそう、フィッツジェラルドよ」

そう言って、アクサンは、フィッツを前に出させて、あいさつをさせた。

「フィッツジェラルド・グラーブです。フィッツと呼んでください」

「井野嶽桜よ。向こうにいるのが私の弟の幌」

幌を紹介したとき、幌はフィッツたちに振り返って軽く手を振ってあいさつをした。

それから、桜が二人を家の中へと入れた。


「みんなは?」

「まだ。もうちょっとしたら来ると思うよ」

桜とアクサンとフィッツは、昼食を作っている幌の背中を見ながら、居間にあるテーブルを囲んで話していた。

「それで、向こうに帰ってから、元気にしてた?」

「もちろん。桜は」

「私は、いつでも元気いっぱいよ」

適当に付けているテレビでは、臨時国会で首相である山口之貴やまぐちこれたかが他党の党首と論戦を繰り広げていた。

「幌さ、今日のご飯はー」

「フィッシュアンドチップス、ガーリックベースの醤油ソース、ふっくら炊きたてご飯、お味噌汁、それと紅茶だよ」

「わぁ、カオス」

桜があっさりと感想を言った。

「ネットとかで適当に調べてやったから、本場と違うかもしれないけど、それはそれということで」

幌は、アクサンたちに苦笑いしながら言った。

「それで、ほかの連中はいつ来るんだろうね」

なべにかかっている火をトロ火にして、幌は桜の横に座った。

「今日は男のほうも来るの?」

「ああ、全員じゃないけどな」

幌は時計を確認しながら言った。


10時15分になると、次々と来た。

「おっはよおー」

一番騒がしいのは琴子だ。

「おはよ、まとまってきたね」

「運良く途中で出会ってね」

琴子と鈴が一緒に来た。

その直後に、氷ノ山、文版、星井出がやってきた。

「ちーっす」

星井出が中にいる幌にあいさつする。

「おはよーさん。お三方か」

「宮司は寮にこもって何かしてたよ。何してたかはよく分からないが」

「わかった、まあ、仕方ないね。忙しいんだったら」

幌がそういうと、4人とも居間のテーブルのところに集めた。

「それで、幌のご飯はいつできるんだ」

「12時ぐらいにはできるつもりだよ。それまではなんか適当に遊んどいて」

「とはいってもな、遊べるものなかんか……」

星井出が周りを見渡すと、鈴が持ってきていた大きなカバンから何かを取り出した。

「これで、遊びません?」

それは、『Wii』だった。

「よくカバンに入ったね……」

氷ノ山は、机の上に置かれたWiiの本体とコントローラーを手にとって見ながらつぶやいた。

「それは、このかばん、ゴムに似ている素材でできてるのよ。だから、カバンよりちょっとぐらい大きくても、ちゃんと入るっていう仕組み」

鈴が説明している間に、さっさとフィッツと星井出がテレビに回線をつないで動かせれるようにしていた。

「鈴さ、ソフトは?」

「ああ、このかばんの中にあるから、好きなの持ってっていいよ」

鈴が持ってきたカバンをそのまま星井出に渡すと、口を開かせてフィッツと選んでいた。

「二人ともまだまだ子供だね」

「だねー」

氷ノ山と桜が、楽しそうにセットをしている二人を見ながら、笑いあって話した。


12時ぐらいになり、ようやく宮司がやってきた。

「おはよー」

「こんちわー、遅かったね」

中からご飯を作り終わっている幌と、宮司の彼女である文版が返事をした。

「ちょっとしておかないといけないことがあってね。でも大丈夫。終わらしてきたから」

そう言うと、靴を脱いで家の中へと上がってくる。

「ちょうどご飯もできたから、食べるかい」

「じゃあ、そこでゲームしてるやつらをこっちの世界へ連れ戻さないとな」

そういうと、ゲームに熱中しているフィッツと星井出の頭を押さえて聞いた。

「今から昼飯食うんだけど、どうする」

「もちろん食べるさ」

星井出はすぐにゲームを一時停止し、テーブルへと向かう。

ちょっと遅れて、フィッツもやってくる。


「では、歓迎会パーティを開きたいと思います。かんぱーい!」

「かんぱーい」

幌が作った数々の料理がふるまわれ、たったいま作った理由で乾杯が行われた。

それから、30分もかからずに、全部がそれぞれのおなかの中におさまった。


「じゃあ、私たち、ちょっといかなきゃならないところがあるんだ」

3時ぐらいになるまで、ひたすらみんなでWiiをしていたが、アクサンが鈴に一瞬目配せをしてから立ち上がって言った。

「そうか、そりゃ残念」

しっかりと遊んでいた氷ノ山が、アクサンが言うとすぐに一時停止をして、その時点でセーブをした。

「これは、次にアクサンたちが来た時に取っておかないとね」

ゲームの本体の電源も切り、鈴が持ってきたカバンの中に、一式全部をしまいこんだ。


「よっしゃ、次来るときもまた連絡をしてくれよな」

玄関で、幌がみんなを見送っていた。

「幌の料理、うまかったな」

「いつも通りでしょ」

「じゃあ次は誰かの誕生日の時にということでー」

桜が幌の前に立っていった。

「姉ちゃん、勝手に決めんなって」

そう言いながらも、幌の顔は、ほころんでいた。


アクサンたちが帰ったあとの、幌の家は、すっきりと静まり返っていた。

「…嵐の後っていう感じだな」

シンクに入ったままになっている、使用済みの食器の山を見て、ため息をつく幌。

しかし、桜はテーブルの椅子に座り、幌をじっと見ているだけだった。

「それで、今日の晩御飯は?」

「姉ちゃん、相変わらず、飯のことしか頭にないんだな」

液体洗剤をスポンジに軽くつけながら、幌は桜にぼやいた。

桜は、椅子から立ち上がり、急に幌に後ろから抱きついた。

「なんか言いましたかー?」

「いや、なにも」

幌はため息をつきながら、抱きついてくる桜を払い、食器を洗い始めた。

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