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朗読家になれない朗読人  作者: 白餅りんね


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09 禁書

光の結界に包まれ、宙に浮かぶ一冊の本。


――禁書。

それは本来、人の手に渡ることのない、禁じられた書物。


その結界に封じられた書物へと、俺は手を伸ばす。

これ以上、村の“生贄”として、犠牲を出さないために。


その瞬間、禁書を封じていた結界が、先ほど手のひらに刻まれた紋章に反応し、まばゆく輝き始めた。


次の瞬間、冒険者の身体は、その光の中へと、瞬く間に飲み込まれていった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


眩しい日差しが差し込む昼下がり。

木々を撫でるように風が吹き、その間を抜けた先には、見たこともないほど大きな町が広がっていた。


町は人で溢れ、商人が集い、広場では子どもたちが駆け回る。

それぞれの声が混じり合い、町全体を包み込むような、活気に満ちた場所だった。


その風景を眺めながら、俺はあることに気づく。


――記憶だ。


この景色、心地よい風の流れ、活気に満ちた町の声や音、そして匂い。

そのすべてが、この町が辿ってきた“記憶”そのものだった。


この記憶を辿ることが、村を救う手がかりになる。

微かな希望を胸に、俺は流れに身を任せながら、記憶を辿っていく。


町が感じる“時の流れ”は、人間のそれとは遥かに異なり、瞬く間に過ぎ去っていった。

それでも、数年後の町の風景は変わらず、なおも活気に満ちていた。


――そんな、ある日。

それは、突然起きた。


賑わう町の中で、フードを深く被った“何か”が、天に向かって手を掲げる。


一瞬の出来事だった。


フードを深く被った“何か”の手のひらが、紫混に輝いた瞬間。

その周囲を満たしていた活気と賑わいは、一変して静寂へと沈んだ。


人々は倒れ、町の中央は血の池と化していた。


その惨状の中、フードを深く被る“何か”は、ただひとり佇み、高らかに、笑い声を上げていた。


「滑稽だな。人間というのは、群れをなして肩を寄せ合い、集落を作らなければ生きていけない、か弱い生物だ。まるで虫そのものだな」


町の中央で起きた惨劇に気づいた人々は、我先にと悲鳴を上げ、町の外へ逃げようとする。


それに気づいた“何か”は、もう一度、手のひらを天へと掲げる。そして、ゆっくりと握りしめる。


次の瞬間、町の外へ逃げようとしていた生き残りのほとんどが、

その“何か”の周囲に、立ち尽くしていた。


そして、何が起きたのかも分からぬまま、恐怖に駆られ叫ぼうとする。

だが、不思議なことに悲鳴を上げることはできなかった。


「まあ、待て。そんなに慌てるな」


そう言って、“何か”は、ゆっくりと深く被っていたフードを取る。


――長く尖った角、長い耳。

その容姿には、見覚えがあった。魔族だ。


「ごきげんよう。虫のようにたかる人間の諸君。

ひとつ聞きたいのだが、この集落で、一番身なりのいい服を着た者はいるかな?」


人間とは異なる、見たこともない姿。

血に染まり、息絶えて横たわる人々の悍ましい光景。

そして、動くことも、喋ることもできない状況。


あまりにも多すぎる“異常”に、人々の思考は追いつかなかった。

そこにあったのは――ただ、恐怖だけだった。


「まあ、よい。どうせ喋ることはできんだろう。

そうだ……誰でもいい。私と“契約”してくれないか?

口を解放すれば、悲鳴を上げられてもうるさくて面倒だ。今から、手だけは動かせるようにしてやろう。

私と契約してもよい者は、手を挙げろ」


そう言って、“何か”が指を鳴らす。


その瞬間、人々は片腕だけが動かせるようになった。

だが、すでに精神は限界まで追い詰められており、

誰ひとりとして、手を挙げることはなかった。


「……誰もいないか。残念だ。

ならば、こちらで決めればよい」


そう言うと、“何か”は手を叩く。


その瞬間、大勢の人間が、次々と崩れ落ちた。

腹部から血が滲み出し、地面を赤く染めていく。


人々が倒れ、山のように重なっていく中――

二人の男女だけが、その場に立ち尽くしていた。


「人間は、オスとメスで生殖行動を行うのだよな。

よし、今から、お前たちに“役割”を与える」


そう告げ、魔王は淡々と条件を突きつけた。


一つ。

今起きた出来事、そしてこれから話すことを記録し、

伝承として書物を残せ。

今から伝える“封印”と“解除”の詠唱をもって、その書物を封じよ。

その詠唱は、絶えず一族へと伝えること。


二つ。

この町で生まれた人間は、町の外へ出ることを許さぬ。

さらに、年に一度、幼な子を“捧げ物”として火にかけよ。

さもなくば、町に飢餓の呪いが訪れる。

その中で、子孫を残し、町を存続させ続けよ。


三つ。

この呪いを解こうとする者が現れるまで、

この真実を他言することを禁ずる。

もし露見した場合、その者を殺さぬ限り、

町の人間は一か月ごとに死に絶える。


四つ。

これらすべては――

“ボク、魔王が行ったこと“として、最後に必ず記せ。


もし、これらを破ったなら

死よりも恐ろしい苦しみを与えるとする。


そう言い残し、

“魔王”と名乗る者は、その場から姿を消した。

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