07 朗読家になりたい朗読人
胸を高鳴らせながら、僕は男の話に耳を傾けた。
これまで、自分が能力者であるなどと考えたことは一度もなかったからだ。
だからこそ、自分にどんな摩訶不思議な力が眠っているのか、想像するだけで心が躍る。
「俺の能力は、相手の能力を分析する力だ。
ただ、残念なことに欠点もあってな……相手の力の“ごく一部”しか読み取ることができないんだ。」
男はそう前置きしてから、過去の出来事を語り始めた。
「実際にあった話なんだが、俺が分析した能力者の中に、相手を眠らせる力を持つ奴がいた。
そいつが能力を初めて使用した翌日、能力を受けたそいつの仲間が、まったく知らない他人の記憶を見たと言い出したんだ」
僕は思わず息をのむ。
「つまりだ。
俺が“眠らせる力”だと思っていたものは、実際は相手に他人の記憶を見せる力だったってことになる」
男は静かに言い切った。
「これが、今の俺が使える力の限界だ。
だがな……能力を“認識している”のと、
“認識していない”のとでは、天と地ほどの差がある」
そして、にやりと笑って続ける。
「試してみる価値はある。やってみようぜ」
そう男は言うと、僕の目をじっと見つめ、ゆっくりと僕の額に手を当てた。
「……どう、ですか?」
恐る恐る男に尋ねるが、返事は返ってこなかった。
「だ、大丈夫ですか?」
僕は目の前にある男の手をそっと避け、男の顔を覗き込んだ。
「あ、あぁ……ごめんごめん。分析してたんだ」
男はそう言って、
僕の前にあった手を自分の方へ引き戻す。
ほんの一瞬だったが、その表情は、まるで何かに酷く怯えているかのように見えた。だが、きっと気のせいだろう。
そんな僕の疑問を振り払うように、男は口を開いた。
「よし! 分析完了だ!」
男のその一言で、先ほどまで胸に残っていた疑念は嘘のように消え、僕の心は再び高鳴り始めた。
――実際に起きた出来事、そしてこれから起こるかもしれない出来事を、朗読を通じて相手に伝えることができる力。
それが、男の言う、僕の能力だった。
朗読。
それは、僕が好きで、そして旅を続けてきた一番の理由でもある。
その“理由”そのものが、自分自身の能力だったと知り、僕は驚きながらも、胸の奥で静かに喜びを噛みしめていた。
ただ、不思議なことに、僕はその力を今まで使ったことはあったのだろうか。
そう考えた瞬間、胸の奥に小さな違和感が生まれ、やがてそれは確かな“異変”へと変わっていった。
――今まで、僕はどんな朗読をしてきたのだろう。
思い出そうとした、その刹那。
電流が走ったかのような鋭い痛みが頭を貫き、視界が白く弾けた。
次の瞬間、僕の意識は闇の中へと沈んでいった。
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豪雨の中、雷鳴が轟く。
その激しい騒音の奥から、かすかな“何か”が、記憶の欠片のように滲み込んできた。
「こいつ、魔族と仲良くしてやがったんだ!」
「俺の名前は◯◯◯◯だ。大丈夫、君の味方だ!」
「あなた、もしかして……」
「これがお前たち人間が出した答えなんだな」
「君とぼくは、いつまでもずっと友達だよ」
どれも身に覚えのない記憶のはずなのに、
不思議と胸の奥がざわめき、どこか懐かしさを覚えるものだった。
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「お…………い」
暗闇の奥から、ぼんやりと声が聞こえた。
「お……い」
その声が、確かに“近づいてきている”と気づいた瞬間
ーー真っ暗な闇の中に、ぱっと光が差し込んだ。
「おい、大丈夫か? いきなり倒れたから、びっくりしたぞ」
目を覚ますと、男が慌てた様子で声をかけてきた。
話を聞くと、意識を失ってからの数時間、僕はずっとうなされていたらしい。
これまでに経験したことのない出来事に、僕は少なからず不安を覚えた。
男の知り合いだという僧侶にも診てもらったが、身体には何一つ異常は見られなかった。
ーーそれどころか
倒れる前と比べて、少しだけ身体が軽く、気持ちが高揚しているのを感じた。
それはまるで、
長いあいだ探し続けていた宝物を、ついに見つけた瞬間のような昂りだった。




