05 誰かの物語
城下町を後にした僕は、木々が生い茂る山を越えた先にある、小さな村を訪れていた。
僕が城下町を早々に発ったのは、この村に一刻も早く辿り着きたかったからだ。
この村には、他人の記憶を“夢見”を通して見せる能力を持つ者がいる――そんな噂が広がっていたからだ。
朗読人は、さまざまな経験を重ねることで、その見解を広げていく。
今回も、その一環に過ぎないのだ。
――能力者。
突如として不可思議な力に目覚めた者たちを、そう呼ぶ。
能力者の力は未だ解明されておらず、その多くは魔法使いすら超越する存在だ。
その能力者が、この村にいるという。
僕は村の中で聞き込みを始めた。
小さな村だったこともあり、見つけるのに時間はかからなかった。
村の奥地にある、ひときわ大きな家。
そこが、僕の探していた場所だった。
扉に掲げられた看板には、
「どうぞお入りください」
と書かれている。
その文字に導かれるように、僕は家の中へ足を踏み入れた。
「こんにちは。不思議な力を持つ方がいると聞いて来たのですが、どなたかいらっしゃいますか?」
家の中には、見たこともない骨董品が所狭しと積み上げられていた。
それは、以前訪れた占い師の家とどこか似ている。
「こんにちは!お客さんですね!今行きます!」
少し離れたところから、元気な女性の声が聞こえる。
ガタガタと物音がして、扉が開いた。
そこには、乱れた髪に眼鏡をかけた女性が、息を切らして立っていた。
「驚かせてしまってごめんなさい!どうぞこちらへ!」
僕は女性に言われるまま、骨董品に囲まれた細い通路を進んでいく。
辿り着いた先には、先ほどまでの光景が嘘のような、不自然なほど整えられた部屋があった。
ほとんど何もなく、ただ中央に一人用のベッドが置かれている。
その異様さに言葉を失う僕に構わず、女性は明るく言った。
「ようこそ、夢見の館へ!さぁ、ベッドに横になってください!」
促されるまま、僕は横になる。
「これから夢見の力で、あなたに他者の記憶をお見せします。
この力をにはデメリットがありまして、相手も内容も選べませんし、完全にランダムです。
あと……たまにいるのですが、みだらな行為を求めた場合は処刑対象となるので、お気をつけくださいね!」
少し恐ろしい注意も含まれていたが、今は気にしないことにした。
「それでは、夢見の物語を楽しんできてください。いってらっしゃい!」
そう言った女性は僕の額に手を当てる。
その瞬間――
意識は闇へと沈んでいった。
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雨に打たれる村に、ひとりの冒険者が立っていた。
彼の足元には、燃え尽きて灰と化した物と、灰の中に残された小さな骨。
それは、間違いなく人の子どものものだった。
「……酷すぎる」
拳を握り締め、涙が頬を伝う。
紅藤色のスカーフが、静かに濡れていく。
「おやおや、冒険者様。こんなところにいらっしゃったのですね」
背後から、妙に明るい声がした。
振り向くと、着飾った服の老人が不気味な笑みを浮かべていた。
不気味に思った冒険者は老人に問いた。
「これはなんですか。」
老人はとぼけたように首を傾げる。
「さぁ、何のことでしょう」
惚ける老人に嫌気がさし、冒険者は核心を突く問いを投げかけた。
「なぜここに、子どもの骨があるんですか」
その問いに、老人は即座に答えた。
「余所者が、村のしきたりに口を出す資格はありませんぞ」
冒険者は声を荒げる。
「命を奪うことが、しきたりだとでも言うんですか!」
老人は、少し間を置いて淡々と語り始めた。
「いつからでしょうか。
この村には、はるか昔より――
捧げ物をしなければ、天からの恵みの水が降らなくなるという、恐ろしい呪いがかかっていたのです。
私たちは、最初は必死に抗いました。
祈り、耐え、あらゆる手を尽くしましたが、空はついに応えてはくれなかった。
草木は枯れ、畑は死に、村は飢えに沈んだ。
そして――生きるために、私たちは“選択”をしたのです。
生贄を捧げれば、雨が降る。
そう信じて、大人たちを差し出しました。
……ですが、空は沈黙したままだった。
そして気づいたのです。
この呪いは、子どもでなければ解けないのだと。
だから――
生き残るためには、やむを得なかったのです。」
老人の話を聞いて、冒険者は、何も言えなかった。
ただ、己の無力さを噛みしめる事しか出来なかった。
それでも、冒険者は諦めきれなかった。
村に残された古い書物を調べるうち、やがて――ひとつの記録を見つけ出す。
――それは100年前、自らを“魔王”と名乗る魔族が、この村を訪れたという記載が記された書物だった。
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「大丈夫ですか?」
声に呼び戻され、僕は目を開けた。
心配そうな女性が、覗き込んでいる。
女性の話によると、僕は一日以上も眠り続けていたらしく、あまりに長く戻ってこないことを案じて、何度も声をかけていたのだという。
どうやら、今回のようなことは初めての例だったらしく、長時間目覚めなかった理由については、彼女にも詳しいことは分からないようだった。
それでも僕は、不思議な体験ができたことに満足し、彼女に礼を告げて村を後にした。
夢というのは不思議なものだ。
奇妙な夢を見たことだけは覚えているのに、その内容のほとんどは、村を出る頃には霧のように消えてしまっていた。
夢の中で何か大切なものを見たはずなのに――
それを思い出すことは、もうできなかった。




