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朗読家になれない朗読人  作者: 白餅りんね


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03 魔物と小さな人間

森の中で輝いていた大きな灯火が、ひとつ、またひとつと消え、やがて森に静寂が訪れる。

生き物たちも寝静まり、世界は深い眠りについた。


それから少し時が経ち、眠っていた世界を撫でるように、朝日がそっと昇っていく。


僕は、昨日出会った女性と共に、次の町を目指していた。


不思議なことに、昨日出会った時とは比べものにならないほど、彼女は明るい表情をしていた。


「旅人さん、見てください。町が見えますよ」


嬉しそうに話す女性の指先に見えたのは、朝焼けに照らされる大きな城下町だった。


「ここまで一緒に来てくださって、ありがとうございました。旅人さんのお話を聞けて、本当によかったです。諦めずに、息子を探し続けようと思います」


賑やかな城下町。

女性は決意を胸に、人混みの中へと溶け込むように消えていった。


そんな人混みに紛れ、人が住む街では滅多に目にしない種族の姿があった。


尖った角に、長い耳。

それは紛れもなく――魔族だった。


魔族。

それは、魔物が知恵と言葉を得て、言葉で意思疎通を図る。人間を模すように進化した存在。

ある者は魔物を従え、ある者は言葉で人を欺く。

またある者は国を築き、人間と友好的な関係を結ぶ者もいる。


人間にとって、魔族は今なお未知の多い、狡猾な一族だった。


そんな一族が、どうしてこの町にいるのだろう。

気になった僕は、町で情報を集めてみることにした。


町の人によれば、この町は魔族との交流が深く、彼らが町を歩くことも日常茶飯事なのだという。


それなら、そこまで怯える必要はないのかもしれない。

胸を撫で下ろす僕に、若い男性は陽気に魔族の話を続けた。


「最近は特に交流も深まって、前よりも多くの魔族と関わるようになったんだ。こういうのも、悪くないなって思ってるよ」


その話を聞きながら、僕はふと、昔の出来事を思い出した。


「そういえば……昔、魔族と関わったことがあるんです。少し、昔話をしてもいいですか?」


そう言うと、若い男性は静かに手を差し出し、話を聞く姿勢を示した。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


森が生い茂る、自然豊かな場所。

そこに、生まれて間もない幼い魔物がいた。


その魔物は、ひとりぼっちだった。

気がついたときには、人間でいう“家族”という存在はいなかったのだ。


それでも、魔物は色鮮やかな世界を楽しんでいた。

青く透き通った水。緑豊かな木々。その中で必死に生きる生命たち。

見るものすべてが新鮮で、魔物にとっては幸せな日々だった。


ある日、いつものように水に触れ、木々の間を駆け回っていたとき――

誰かに見られているような視線を感じた。


魔物の幼体は、生存本能が非常に強い。

そのため、視線や敵意、気配にとても敏感だった。


気配のする方へ威嚇する魔物。

それに応えるように、飛び出してきた生き物がいた。


それは――人間だった。


「あいおううあお!おうあいいおいあああお!おあああええおえうえ?」


小さな人間は、魔物には理解できない音を放ってきた。


敵か味方かも分からない相手にとれる行動は、ただひとつ。

魔物は、再び小さな人間を威嚇した。


すると小さな人間は、ゆっくりと、優しく、もう一度音を放つ。

「ぼ、く、は、み、か、た、だ、よ」


そう放ちながら、近づいてきた小さな人間は魔物の頭を優しく撫でた。

その行為から、不思議と敵意は感じられなかった。


そして、魔物は小さな人間と友達になった。


やがて、ほぼ毎日会うほど仲良くなった。

川のせせらぎと、鳥たちの優しい囀り。

森の奥、陽の光が差し込む大きな岩――そこが二人の待ち合わせ場所だった。


その岩に並んで座り、小さな人間が物語を聞かせる。

魔物は物語を通して言葉を覚える。その時間が、魔物と小さな人間の日課になっていった。


魔物は、生き残るために狩を覚える。

そして、一人前の狩ができない魔物から生き絶えていく。


だからこそ、幼い魔物は学ぶ力に長けている。

その魔物は、狩の代わりに言葉を覚えることに学ぶ力を注いだため、言葉の習得に時間は掛からなかった。


「キョウハ、ボクニ、ナンノ、オハナシヲ、キカセテ、クレルノ?」


覚えたての言葉を繋ぎ、話そうとする魔物に、小さな人間は優しく答えた。


「きょうは、ぼくがだいすきなお話をもってきたよ。

やさしいまおう、ってお話だよ」


そう言って、小さな人間は、いつものように物語を語り始めた。

魔物にとって、その話は、とても心を惹かれるものだった。

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