01 旅の途中
僕は朗読家を目指す朗読人。
朗読が好きで、朗読をすることしかできない、ただの旅人だ。
僕は旅をする。
さまざまな景色を見て楽しみ、通りがかる人々に僕の朗読を聞いてもらう。
それだけで生きている。
そんな何でもない日、僕はいつものように、ひとりの少女に朗読を聞かせた。
――それは、とある不気味な村の話だった。
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旅人が、とある村に足を踏み入れた。
とても賑やかで、楽しげな雰囲気の村だった。
その空気にあてられ、旅人の心も自然と浮き立つ。
酒に酔った村人が、楽しそうに言う。
「もうすぐ、天からの捧げ物が降ってくるんだ」
話を聞くと、その村には古くからのしきたりがあった。街路樹の葉が幾度も色を変え、季節がひと巡りしたとき、神に捧げ物をすると、天から恵みの水が降ってくるという。
そんな話の最中、着飾った老人が、顔色を変えて割って入ってきた。戸惑い焦る村人。不思議に思う旅人。
次の瞬間、険しい表情から一転し、満面の笑みで老人は旅人に告げる。
「今日はもう遅い。泊まっていきなさい。
ただし、夜は村の捧げ物の儀式を行う。
その間は決して外に出てはいけません。
それが嫌なら、今すぐ村を出ることです」
不気味に感じながらも、旅の疲れがたまっていた旅人は、村に留まることにした。
旅人は、しきたりについて村人に聞き回った。
だが誰も、詳しいことは話そうとしない。
とくに「捧げ物」という言葉を口にした途端、彼らは顔色を変え、逃げるように去っていった。
諦めて川辺で休んでいると、ひとりの少女が近づいてきた。
少女は、旅人が作った朗読に興味を示した。
旅人はひとつ咳払いをして声を整え、少女に向けて自作の物語を朗読し始めた。
朗読を終えたとき、少女は顔色を変え、強く訴えた。
ーーー「今すぐ、村から離れて」
理由を尋ねても、少女は首を横に強く振るだけで、もう一度同じ言葉を残し、村へ早々と戻っていった。
夕暮れ、旅人は宿へ戻り、身体を休めた。
夜。
皆が寝静まったころ、好奇心に駆られ、外へ出る。
それは昼とはまるで別の村だった。
魔物が現れる直前のような、重苦しい空気が漂っている。
そのとき、旅人はあることに気づく。
どの家にも、明かりが灯っていない。
それどころか、ネズミ一匹の気配すらなかった。
不気味に思いながら、村の奥へと足を進める。
村の奥には、大きな森があった。
森へ続く道は、異様なほど綺麗に整備されている。
奥へ進むにつれ、周囲は昼のように明るくなった。
松明の光だった。
そこには、異様な光景が広がっていた。
喜ぶ村人。
笑う村人。
嬉し涙を流す村人。
その輪の中心にいたのは、
昼に出会った、あの少女だった。
縛り上げられ、逃げることもできず、そこに吊し上げられていたのだ。
旅人は悟る。
神への捧げ物とは、少女だったのだ。
少女の命こそが、神への捧げ物だった。
居ても立ってもいられず、旅人は駆け出した。
――だが、間に合わなかった。
次の瞬間、少女は真っ赤に染まった。
助けられなかったと悲嘆する旅人に向かって、少女は泣き叫ぶ。
笑う村人たちの中、
旅人の身体は、燃えるように熱くなり、同時に凍りつくような寒気に包まれた。
そのとき、旅人は気づいた。
少女が赤くなったのではない。
赤くなったのは……自分だったのだ。
「この村のしきたりを知ってしまった以上、
生きて帰すわけにはいかない」
その声には、聞き覚えがあった。
――あの老人だ。
あのときの言葉は、忠告だったのだ。
視界が暗くなる。
旅人の眼差しに、最後に映ったのは、
焼け燃え、泣き叫ぶ少女の姿だった。
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僕は朗読を終えた。
すると、目の前の少女は顔色を変え、こう言った。
「今すぐ、村から離れてください」




