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全てを奪われたけど、へこたれません。香りで夢を掴みます!   作者: 季山水晶
Ⅰ.試練の幕開け

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28.さあ、作るよ。

 二人はバラの花と同じように、袋いっぱいにサザミの実を集めた。てのひら位大きさで、赤黒くパックリ開いた実の中には三つ位の茶色で栗の様な種が詰まっている。


「うん、艶もあって立派な種だわ。いい油が取れそう」


 アイリーンは一粒の種を指でクルクル回しながら光に透かし、満足げに頷く。


「大きめのたり器も蒸し器もちゃんと揃っているからね」


 バーサはすかさず握り拳を作った。當たり器と言うのはゴマなどの固形物をすり潰す為の道具で、それはバーサがサザミ油を搾る方法を理解しているという事を意味している。


「流石ね、でもそんなに物知りなのに、どうして料理も家事も出来ないのよ」


「だって、どっちも受験に出ないんだもの」


 バーサは自身の頭を掻きながらへへへと笑った。


「まあ、いいわ。これからたんと教えるから。……でも、お部屋に蒸し器はあったけど、當たり器はあったかしら?」


 アイリーンは上を向き、記憶をフル回転させた。でも、いくら考えてもキッチンに當たり器があった様には思えない。しかし、バーサは自信満々に答える。


「ちゃんとあるよ、蒸し器も當たり器も実験室に」


「じ、実験?実験室ですって?」


 アイリーンは手に持つサザミの種を落としそうになった。


「アイリーンの部屋の隣が実験室よ」


 アイリーンは目をキラキラさせながらバーサの手をグイと引っ張った。


「は、早く帰りましょう!」


  ◇ ◇ ◇


 アイリーンが実験室と呼ばれる部屋を開けると、文字通りそこは実験室だった。戸棚には綺麗に磨かれたフラスコや試験管が並べられ、温度計に圧力釜なども揃っている。


 それに何処から入手したのか、数多くの薬品も揃えられている。


「専用のコンロや、お鍋もあるわね。でも、スミスさんはここで実験したりしているんじゃないの?」


 アイリーンの問いかけに、當たり器と麻布を棚から取ろうとしていたバーサは手を止めた。


「ん~旦那様は別の実験室を使っているの。ここはアイリーンの為に用意したって聞いているよ。あなたは特別なんだね」


「特別って、凄いプレッシャーだわ。学校にも合格しなくちゃいけないし、お金も稼がないといけないのよ」


 アイリーンは自分に課されている重みを改めて感じ、ため息をつく。


「まあ、大丈夫だって、きっと何とかなるよ。さて、私はサザミ油を作るからアイリーンはバラの方を宜しくね」


「え?サザミ油を作るのは結構力仕事だよ?」


 サザミの実の入った袋をアイリーンが手に取ろうとすると、バーサはそれをサッと奪い取り背中の方へ隠してしまった。


「いいよ、だってバラの花で何をしたいのかは私には分からないもの。出来上がりを楽しみにしてるね」


 そう言ってバーサは実から種を取り出し、當たり器を使って種を細かく砕き出した。


 アイリーンは袖まくりをすると「私も頑張らなくちゃ」と言って、棚に置いてある備品を見渡す。


「あれがあったら嬉しいな……っと」と呟きながら棚のあちこちに目を配り、開き戸を開けた。


「あった!さすが実験室だわ。これで上質のバラ水が作れる」


「なになに?何が見つかったの?」


バーサは手を止めて嬉しそうに呟くアイリーンにそう尋ねた。アイリーンが手に取ったものはガラスで作られた蒸留器。


「これで上質のバラ水を作るの。それをどう使うかは後のお楽しみにしてね」


 アイリーンはすぐさま蒸留器を手に持ってコンロへ向かうと、そこに水を流し込んだ。


「あ、なかなか芸が細かいわね。まずは蒸留水を作るんでしょ?」


 バーサは声を弾ませ、早口でそう言った。


「ご名答、見ただけで良くわかるわね。蒸留水を使わないと匂いが変わっちゃうのよ」


 バーサがあらかたサザミの種を細かく砕き切った頃、ビーカー一杯分の蒸留水が出来上がっていた。


 アイリーンは蒸留水とバラの花弁を蒸留器に入れて、再びコンロに火をかけた。


「私も隣のコンロを使わせてね」


 バーサは砕いたサザミの種を蒸し器に入れた。立ち上る湯気にほんのりとバラの甘い香りとサザミの土臭い油の香りが絡み合う。


「なんか変な匂いだね」


 バーサは自身の鼻をつまみながら、失敗したとでも思っているかのように首を傾げた。その様子を見たアイリーンはクスッと笑った。


「バーサはサザミ油を作るのは初めてなんだね。この匂いは時間がたつと全く無くなるんだよ。今は我慢のしどころだね」


 鼻をつまみながら「はーい」と言ったバーサにグッと親指を突き出し、アイリーンは次の作業に取り掛かる。


 蒸留器に溜まったバラ水をそっとフラスコに移すと、少しずつ炭酸石の水溶液に垂らしていった。


 少し垂らしては鼻を近づけ匂い、指で粘性具合を確認していたがその手がピタッと止まる。


「百に対して五くらいね」


「え、なになに?」


「洗剤の洗浄力が損なわなくて、一番いい香りがする割合よ。ただし、この蒸留バラ水に限った事だけどね」


 差し出された香り付き洗剤をバーサは受け取り、鼻を近づける。


「うーん。とってもいい香り。勿論、麻でできた厚布を使うのよね?」


「勿論よ。それが無いとカラメルのないプリンのようだわ」


「そうなのね。でも、私カラメルもプリンも分からないわ。ウフフ」


「ナンデスト!今度最高のプリンを作ってあげる。ビックリするよ」

いつも読んで下さりありがとうございます。

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