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全てを奪われたけど、へこたれません。香りで夢を掴みます!   作者: 季山水晶
Ⅰ.試練の幕開け

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27.素材集め

「ところでバーサ、このお屋敷のお庭って表と裏では随分違うのね。表はまるでお化け屋敷なのに、裏の方はまるでおとぎ話に出て来るお花畑のようだわ」


 アイリーンは部屋から見える窓を指さした。


 窓から見える景色は、手入れがされている立派な樫の木が緑色の葉を贅沢に纏い、赤や黄色、青など、色とりどりの種類の花が全く枯れる事もなく綺麗に区分けされ植えられている。


 窓から見える範囲だけでもそれなのだから、見えない部分はどれほど素晴らしい事になっているんだろうとアイリーンは胸を弾ませた。


「そうなの、とても綺麗でしょ。私、お庭は大好きなの。表が怖いのは世間を欺くためだとか、よく分からない事をフィリップさんが言ってたよ」


 バーサの言葉から彼女がよく庭を出入りしている事が分かる。


 ──ふうん、どうやら表にある柳の木や屋敷に絡まる不気味な蔦も、目つきの悪い牛の顔の彫刻も趣味の悪い牛の鼻輪をドアベルにしているのも、意図的なものだったのね。


(スミスさんって誰かから身を隠したいの?)


 アイリーンに新たな疑問が湧き出すが、スミス氏については父の知り合いだったという事以外何も分からない。それに、執事のフィリップからもきっと何の情報も得られないはずだ。だとすれば……


(何かを考えても、今は無駄だ。私にできるのは……)


「今、出来ることだけをする」


「え?急に一体どうしたの?」


 突然方向性の違う発言に首を傾げるバーサに、アイリーンは苦笑しながら「ごめんごめん、独り言」とこめかみを掻いた。


「ねえバーサ、お花って少し分けて貰ってもいいのかしら?」


「大丈夫だよ。この家の物は好きに使っていいってフィリップさんが言っていたし」


「じゃあ、早速お庭に案内してくれる?」


 コクンと頷いたバーサに連れられた屋敷の裏にある庭は、窓から見る以上に広かった。煉瓦で仕切られたいくつもの花壇に加え、それを守る様に所々に植えられている樫などの常緑の木。


「凄い、こんなに広いのね。まるで植物園のようだわ。それに、ほんと色々な花が植えられているのね」


 アイリーンが大きく息を吸うと体中に甘く心地よい花の香りが染み渡る。


 あまりにも美しい光景に目のやり場の失ったアイリーンに、バーサは花壇を指さした。


「あの可愛く水色の花弁を持っているのがパンジー、ピンク色で貴婦人のような花はダリア。服のぼたんの様な形の花はセンニチコウで、炎のような形のオレンジの花はケイトウ」


 嬉しそうに話すバーサにアイリーンは意識を持って行かれた。


「凄いね、バーサはここにあるお花全部と友達なの?」


「うふふ、友達になって貰っているか分からないけど図鑑で読んで名前は憶えているの」


「ニルスの植物図鑑でしょ。私も読んだ、挿絵も書いてあってとても綺麗な本よね。だから私も……ロゼットみたいな白い花はオキザリス、紫で可愛いコスモスに、棘を持つ王女様の様な真っ赤なバラ」


 バーサもそれを聞いて大きく目を見開いた。今度は彼女がアイリーンに意識を持って行かれたのだ。


 並々ならぬ記憶力と知識を披露した二人は、お互いの顔を見てクスッと笑った。


「実はバラの花が欲しいんだけど、少ししかないから無理よね」


 アイリーンは真っ赤で美しい花弁を持っているが、ほんの数本しかないバラの木を見てしょんぼりと眉を下げた。


 バーサはそんなアイリーンの肩をポンと叩くと、花壇の奥を指さした。


「この奥にバラ園があるの。そこに沢山咲いているから大丈夫よ」


 バーサに案内されて花壇の奥の方へ歩くと、目の前に豊富な種類のある広大なバラ園。きちんと管理された赤白黄色のバラが見事に咲き誇っている。


 アイリーンの表情が開花したバラの様に明るくなる。


「見事なバラ園ね!誰が管理しているの?」


「庭師のジムさんだよ。朝早くに来て帰っちゃうの」


「こんなにきちんと育てていらっしゃるのに、勝手に取って怒られない?」


「絶対大丈夫、『いつでも好きに取っていけ』って言ってくれるの」


「嬉しい、バラには申し訳ないけど花だけでいいの。バーサも手伝ってくれる?」


 二人は『絶対無駄にしないからね』と気持ちを込めて、美しいバラの花を黙々と摘み取り始めた。その時、バラの花弁の一枚がハラリと地面に落ちた。


「花びらが落ちると変わりゆく自分を想像しちゃう……」


 アイリーンがしんみりとそう言えば、バーサはハッと首を持ち上げた。


「アイリーンも読んだのね。『バラの花びらが風の抵抗を受けながら一枚一枚ひらひらと落ちていく。ゆっくりと姿を変えゆくその花は変わりゆく自分の未来を想像させる』キルクの小説『森のバラ』の一節でしょ、それも五十三項の十二行目」


「もしかしてバーサも?とってもいいお話よね。私は八十五項の三行目にある主人公が足を悪くしたおばあさんに大切なバラの木を切って杖にしてあげる所。あそこを読んだ時には涙がこぼれちゃった」


 その後、二人が二人して相手の記憶力に感心しながら小説の話に華を咲かせた。


 ひとしきりバラの花を集め終えた後、アイリーンがふと見上げると、花壇の隅にサザミの木があり、枝には小さな実がなっていた。


「ここにはサザミの木もあるのね。サザミは今種の出来る時期よね。丁度いいわ、取って帰りましょう」


「アイリーン、それで油を取るのね?」


「さすがバーサ。上質の油を作りましょう」


 二人は同時に頷き、サザミの種子に手を伸ばした。


いつも読んで下さりありがとうございます。

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