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全てを奪われたけど、へこたれません。香りで夢を掴みます!   作者: 季山水晶
Ⅰ.試練の幕開け

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26.なかなかやりますね

 お昼のメニューはパンとサラダとハンバーグにコンソメのスープも加えた。バーサにとってはいつものソーセージがハンバーグに変わっただけだが、実はそれが彼女にとって未知の扉を開く第一歩になっていた。


 ワンプレートの皿に瑞々しい野菜と湯気の立ったハンバーグ、小さなスープカップに入ったコンソメスープは細かな泡がたち黄金色に輝いている。


 それらを上品に盛り付けられた料理は更にバーサの食欲を湧き立たせる。


「盛り付けもお料理の一環なのよ」


 さあ、召し上がれとアイリーンは両手一杯広げた。


「私、お料理がこんなに素敵なものだとは思っていなかったわ」


 待ちきれないとばかりに、夢中になって口いっぱいにハンバーグを頬張るバーサ、たちまち彼女の表情が満面の笑みに変わる。


「うーん、お肉の少し焦げた所が香ばしくて、口にお肉の味が広がるぅ。それに、玉ねぎがシャクシャクして美味しいよ。これ、私が切った奴よね」


「そうよ、お料理って楽しいでしょ、受験まで毎日教えてあげるね。マナーも含めてね」


 アイリーンはバーサの口元から垂れる肉汁をそっとハンカチで拭った。


 作ったハンバーグをすっかり平らげた二人はデザートとして、小さな柑橘系のポンチと言う名の果物と紅茶も飲み終えた。


「甘酸っぱい。食後の果物が口の中をすっきりさせてくれるね」


 食後に果物など、食べたことはなかったとバーサは口元をすぼめながらパクパク食べていく。ふうとため息をつき、お腹をポンポン叩くバーサ。その姿を見てアイリーン『よかった』と微笑んだ。


 そして、食べ終えた食器を手に持ったアイリーンはバーサに問いかけた。


「じゃあ、次は洗い物よ。バーサは食器を洗った事はあるの?」


「ええ、水で流して拭いているわよ」


「ねえバーサ、このお皿ね、水で流して拭いたものなの、触ってみて」


 アイリーンはたった今水で流したばかりの皿をバーサに差し出した。その皿の真ん中を指で撫でたバーサは顔を歪ませた。


「なんだかネバネバするね。それによく見ると、茶色い液体がまだ少し残っているわ」


「そうなの、気持ち悪いでしょ。ソーセージだけならそれでいいかもしれないけど、他の料理を乗せるならそれじゃあね」


 バーサは突然アイリーンをポカポカ叩く。


「もう、アイリーンたら。またそれだよ。もう、いろんなものを食べる気満々だから、それは言わないで!」


「あはは、ごめんごめん。そういうつもりじゃなかったんだけど。だからね……」


 そうしてアイリーンは通常のお屋敷での食器洗いの方法を説明した。そして早速実演。


「へえ、本当だ。小麦粉の溶かした水って良く落ちるのね。それと、灰だっけ?それも水に溶かすの?」


「そうよ。普通のお屋敷はそれらで食器を洗っているんだけど、私のお勧めはこれよ」


 アイリーンは黒髪をサッと搔き上げて、コッソリ作っていた水溶液をバーサに差し出した。バーサはなにこれ?と言いながら早速それを使って食器を洗ってみた。


「すごいねこれ、お皿がキュッキュッって言ってるよ」


「でしょ、それはね炭酸石を砕いて溶かしたものなの」


 バーサは炭酸石を溶かした液体の入った瓶を興味深く眺め、それを鼻先に持って行きクンクンと匂った。


「何も匂いはしないのね」


 そう言うと、手に持つたわしに再度それをかけてゴシゴシ擦り出した。ここで使われているたわしはコクリの実で取れる繊維を結び合わせただけのものだ。


 コクリの実は南の森で採れる果実で、繊維は強いが硬く、籠を作る時にも使用される程だ。


「折角いい洗剤なのに、このたわしではもったいないわ。麻でできた布ってある?それに……ねえ、アイリーンこの液体に入れたいものがあるんだけど」


(この子はやはり賢い子だ、一目でそれに気付くなんて)


 コクリ実のたわしだと先が硬い分だけ荒くなり、いくら炭酸石を溶かした液体の落ちが良いとはいえ、何度も擦る必要がある。よって、アイリーンもまだ両親と暮らしている時には、麻布を重ねたものをたわしの代わりに使用していた。


 アイリーンは胸の内のワクワクが止まらない。思わず身を乗り出すようにバーサに歩み寄る。


「で、バーサは何を入れたいの?」


「これ、入れるね」そう言ってバーサが取り出したものはポンチの皮。それを彼女は両手でギュッと絞り、炭酸石を溶かした液体の中に数滴落とした。


 バーサはその液体を再び鼻先へ持っていきクンクンと匂うと、アイリーンに差し出した。


「どうアイリーン。これで食器洗いがもっと楽しくなると思わない?」


 アイリーンもそれを匂うと、ほんのりとポンチの甘酸っぱい香りが漂う。


 だが、残念な事にその香りはほんの僅かで消滅してしまう。


「あ、残念失敗だったか」


 バーサは肩を落とす。だが、アイリーンの瞳は一気に輝きを増した。


 アイリーンの身体に興奮と言う名の震えが走った。


「食器用の洗剤に匂いを付けようなんて、思ったことはなかったわ。すごい、すごいよバーサ。このアイデアをもっと発展させましょう。私、いい事思いついたの」


 アイリーンはバーサの手を取り嬉しそうに上下に揺さぶった。興奮するアイリーンを見て、バーサも心が躍り出した。

いつも読んで下さりありがとうございます。

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