24.協力し合いましょう
アイリーンの驚く様を見てバーサも言葉を失ってしまう。時が止まったような沈黙を破ったのは、「ガタン」と窓を揺らす風の音だった。示し合わせた様に窓を見ているお互いに気付く。
「ウフフ。ごめんなさい。バーサさんってとても若く見えるのね。私よりも年下だと思っていたわ。あ、ごめんなさい、私失礼な事を言っちゃって」
クスッと笑うアイリーンにバーサも釣られて笑みを浮かべる。
「私こそ、アイリーンさんが年下だと思っていましたよ。お互い様です。ただ、私は単なるメイドなのでこんな事をして頂くわけには……」
雇用人なら既に働き出している時間、よって、バーサはアイリーンを特別な人だと思っている。
鏡の前で意味もなく手をモジモジさせながら、今にも立ち上がろうとするバーサをアイリーンは制止した。
「フフフ。あなたと同じ私も雇われ人よ。それに同じ年なんだから敬語は要らないわ。私の事アイリーンと呼んでね。私はあなたの事をバーサと呼ぶわ、仲良くしてね」
「うん。分かった、こちらこそ、アイリーン。それで、私に何を聞きたいの?」
「あのね……」
聞きたいことは山ほどあった。自活をしろと言われているので、食材はどうすればよいか。勉強する為の教材は?お金も稼がなくちゃいけない。頭の中で色々な事柄が渦巻く。
だが、バーサに何を聞いていいのか言葉の整理もつかない。一番困っている事はと考えた時、ふと頭に浮かんだ。
「そもそも、日々の役割を与えて貰っていないのよ。どうやって過ごせばいいのかも実は皆目見当がつかないの」
バーサはその言葉を聞いて「実は私も……」と口を開いた。
「私は来年ランバーグ専門学校を受験しろって旦那様から言われているんだけど、勉強はいいから日常生活を身に着ける様に申し付けられて……」
「ランバーグ専門学校?私も来年受験するよ!」
ガタンと大きな音をさせ、勢いよく椅子から立ち上がるアイリーン。
「そうなんだね。じゃあ、同級生になるね」
二人ともが受かる前提で、しゃあしゃあと答えるバーサに、アイリーンは目を泳がせる。
(超難関校なのにそんなに軽くて良いの?)
「それでね……」とバーサは言葉を続ける。
「お勉強の方は図書室で本を読めばわかるんだけど、家事の事が書かれてある本が無くてうまくいかなかったの」
(きっと、バーサってとても勉強のできる子なんだ。でも、それ以外はまだポンコツだから来年寮生活になった時の事をスミスさんは心配しているんだわ……ん?図書室?)
「ねえ、今図書室って言った?ここに図書室があるの?」
「うん、何時でも好きなように使っていいって言われているの。たくさん本があるよ」
アイリーンの目の前に、いきなりお花畑が出来たような気持になり、胸の奥がふわりと熱くなった。
──図書室があれば学費も何とかなるかもしれない。
「ねえ、バーサ。物は相談なんだけどね、私はランバーグ専門学校の学費を自分で稼げって言われているの」
「え?学費って家を買うくらいのお金が要るんじゃないの?」
目を見開いたバーサの声が裏返り、言葉の端がかすれた。
「うん、そんな事は別にいいのよ。私、ものを作って売るわ。そこでね、バーサに手伝って欲しいの。代わりに私が家事を教えてあげる」
「教えてくれるの?嬉しい。私もアイリーンに精一杯協力する」
二人はがっちりと手を結びコクリと頷いた。
「じゃあ、先ずはボタンのかけ方からね」
アイリーンは意地悪く笑みを浮かべる。
「ああ、酷いアイリーン。たまたま間違えただけなんだよ」
バーサはアイリーンを指で突きながら頬をぷくっと膨らました。
◇ ◇ ◇
「ところでバーサのお仕事って何なの?」
「私の仕事はですね。このエリアのお掃除なの」
バーサは両手を広げて一階のエリアを示す。
「ここの掃除だけ?」
「うん、ここの掃除だけ。後、トイレのお掃除もあるけど」
アイリーンはキョトンと首を傾げる。何故ならこの大きな屋敷はまだまだ上の階もあるのだから。それに、不思議な事にメイドで出会ったのはバーサだけだ。
「他のメイドさんは居ないの?」
「うん、一階は私一人。結構時間かかるんだよ。この間もお皿割っちゃった。へへへ」
アイリーンはバーサのはたきを思い出し、自身の額に手を当てる。
(へへへじゃないよ。確かにあの叩き方だったら割っちゃうよね)
「二階に他のメイドさんを呼びいかないの?」
「さあ、私は二階に上がってはいけない事になっているの。きっとアイリーンもだよ。あ、そう言えば、その事を伝えなさいってフィリップさんに言われていたんだった」
バーサは何とも思っていないようだが、明らかに異様である。言っては悪いがポンコツメイド一人置いてどうするつもりだろう?アイリーンの頭にクエスチョンマークが咲き乱れる。
「バーサはご飯はどうしているの?それにお部屋は?」
「部屋は一階の端。ご飯はね、えへっ、マックさんが配達してくれるんだけど、私料理が作れないからパンと野菜とソーセージを毎食、食べてるの」
「毎食それなの?」
「うん、毎食。とっても美味しいよ」
──だめだ。これは絶対ダメな奴だ。
「バーサ、あなたの食生活を変えていきます。それと、私が最初に作るものも決めました。ヘアオイルを作って販売します」
アイリーンは腕を組み鼻息荒く胸を張った。
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