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全てを奪われたけど、へこたれません。香りで夢を掴みます!   作者: 季山水晶
Ⅰ.試練の幕開け

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23.とんでもメイド

 フィリップが出て行ったあと、アイリーンは保管庫にあったパンを焼き、それをもしゃもしゃ頬張っていると、部屋の外から微かにパタパタとはたきを叩く音が聞こえて来る。


(あれ?誰かいるのかしら。もしかしてバーサさん?)


 その音が気になった次の瞬間「ガチャガチャガチャ」とけたたましい音が鳴り響いた。


「きっと手紙の置いてあった部屋だ」


 その音の元へ急いで向かうと、そこには若いメイドが幾つかの装飾品を抱きかかえ、床に腰を付いている。


「良かった良かった。割れたかと思ったよ」


 メイドはそれらをゆっくり床に置き、袖で額の汗を拭い、ふぅとため息をついたあと、目を丸くして呆然と見つめているアイリーンに気付く。


 メイドはアイリーンを見てポッと頬を赤らめた後ゆっくりと立ち上がり、エプロンをパタパタと叩いてコホンと一度咳払いをした。


「あなたがアイリーンさんですね。私はこの屋敷のメイドでバーサと言います」


「は、はい。私もここで雇われましたアイリーンと申します。よろしくお願いします」


 少し顔を引き攣らせたアイリーンは挨拶を返し、彼女をじっと見つめた。


(勝手な想像だけど、バーサさんっておばあさんかと思っていたわ)


 見た目の年頃は十一、二歳程でアイリーンよりも少し小柄な彼女の髪は赤毛でぼさぼさ。よく見るとシャツのボタンも掛け違えている。フィリップは何かあればバーサに聞く様にと言っていたが、本当に彼女の事なのだろうか?とアイリーンは少し不安になる。


 言葉を詰まらせていると、バーサもその間が気まずかったのか軽く一礼をした後、装飾品を飾ってあるラックに向かうとはたきを振りかぶった。


 その姿は素人が木刀を構える姿にそっくりだ。


「ちょっと、待った待った!そんな叩き方をするとまたお皿が落ちちゃうわよ」


 アイリーンはバーサの振り上げたはたきを、慌てて押さえた。


(なんてことを……本当にこのメイドなの?)


「へ?」と首を傾げるバーサの腕にアイリーンは軽く添えると、そのままゆっくりとはたきを振るった。


「ね、これでも十分に埃は落ちるわよ」


「本当ですね。有難うございます」


 バーサは目をパチクリさせながらぺこりと頭を下げた。キョトンとしてアイリーンを見つめるその顔が何とも愛らしい。


(……にしてもこれじゃあねぇ)


「バーサさん。ちょっとこっちへ来てくれる?」


 アイリーンはバーサの手を取り、自身の部屋へと引っ張る。


 バーサを三面鏡の前にちょこんと座らせたアイリーンは、ずれたシャツのボタンを留め直した後、ブラシを使って乱れた赤髪をゆっくりと梳きだした。


(少し髪が固いな。ヘアオイルがあると良いんだけど)


 アイリーンが時間をかけて梳いた髪は次第に真っすぐに伸びて来る。それらを三つ編みにして胸元に垂らすと、バーサの開いた口が塞がらない。


「ほら、こんなに可愛くなるわよ」


 バーサは目を大きく広げて三面鏡を覗き込んだ。


「これが私ですか?あ、ありがとうございます」


(この今まで髪を梳かしたことがなかったのかしら?)


 首を傾げるアイリーンをよそ眼に、バーサは三面鏡にかぶりつき、自身の頬を触りながら嬉しそうに右、左と首を動かし眺めている。


 すると突然、彼女のお腹が「ググゥッ」と大きな音を立てた。


 頭から湯気が出そうなほどに顔を赤らめたバーサは、両手で顔を覆った。


「は、はしたない」


 ネズミのように丸くなるバーサを見てアイリーンはと噴き出す笑いを必死に堪えた。


「クスクス……気にしなくて大丈夫よ。あなたお腹が減っているのね。何か作ってあげる」


 バーサはそのセリフを聞いて勢いよく立ち上がる。


「そ、そんな事。アイリーンさんにさせられません。それにわたくし仕事中ですし」


「何を言っているの。腹が減っては戦は出来ないって言うでしょ?お腹が減っているとちゃんと働けないわよ」


「でも……」と眉を下げるバーサを振り切り、アイリーンはさっと卵を焼いた後、レタスを手でちぎりパンの間に挟むとそれにケチャップを塗りバーサに渡した。


 ふんわりとしたパンと瑞々しい光沢のあるレタスに挟み込まれた焼き卵から、ほんのりと湯気がたちのぼる。


「はい。卵サンドって言うのよ。食べてみて」


 バーサはそれを見てゴクンと唾を飲み込んだ。


「い、いとも簡単にこんな美味しそうなものを」


 遠慮気味に手を出し卵サンドを受け取ると、バーサは大きな口を開けてそれをガブッと銜えた。温かく滑らかな焼き卵とケチャップの甘酸っぱさが口の中に広がっていく。


「お、おおお」


「美味しいでしょ。でも、ちょっとはしたないわよ。お茶も入れるからテーブルに着いて」


「あわわ。私としたことが……」


 卵サンドを持ったまま覆ったバーサの頬に、べっとりとケチャップが引っ付いた。


「あら、可愛い頬紅。ウフフ」


 アイリーンはバーサの頬についたケチャップを拭うとテーブルの椅子を引いた。


「さ、ここに座ってゆっくり食べて。その後で色々な事を教えて貰うわね。フィリップさんからバーサさんに聞いてって言われているの」


「う?むぐっむぐっ。お、お水……『ゴクゴク』ゴホンゴホン、へえ?私がアイリーンさんに何かを教えるですか?」


 バーサは鳩が豆鉄砲を食ったよう表情でアイリーンを見つめた。


(キョトンとした幼顔可愛い。バーサさんって本当は幾つなのかしら?)


「ねえ、バーサさんって幾つになるの?」


「え?私ですか?私は次で十五歳になります」


「な、なんですって?私と同じ年!?」


 アイリーンは引き攣った笑顔でバーサを二度見した。

あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします。

いつも読んで下さりありがとうございます。

皆様にとって良い年であります様に。

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