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マイケル王子の夢

マイケル王子は仰向けに寝ていた。


すると彼に覆いかぶさるように『男装の君』が自分の唇で王子の口を塞ぐ。


そして生温かい息を思い切り吹き込んで来る。


頭の芯がクラッとして気が遠くなるくらい良い気持ちだ。


駄目だ。あの男装の君の唇の感触が頭から離れない。


それを思い出すたび早鐘を打つように心臓が拍動して痛くなる。


ああ、あなたはいったいどこにいるのだ。


どうして僕の前から消えてしまったのだ。


シャルロッテ大叔母さまから受け継いだペンダントを僕に残して消えた人。


柔らかい唇の感触を遺して去ってしまった人。


いま貴女はどこにいるのだ。


あなたが姿を消してしまったから、代理にあの山猫娘のサリー・トロットに僕は振り回される羽目になったんだ。


あんな娘は、貴女の足元にも及ばないというのに、何故か貴女の代理にあの娘にティムされている。







すると暗闇から声が聞こえて来た。


聞いたことがある声だ。


これは自分の親衛隊を自認する面々の声だ。


『おい、あの山猫を始末しないか?どうせ辺境の騎士爵の娘だ。行方不明になってもそれほど騒ぐまいよ』


『入学式の雪辱を晴らそうと剣術の実技でコテンパンに打ちのめしてやろうと思ったのに、なんだあれは反則ばかりじゃないか』


『勘弁ならないのは、態度が大きくて王子殿下に対して無礼千万だってことだ。なんだって殿下はあんな女を許してしまうんだ』


『殿下にできなければ俺たちが代わりに天誅を下してやろう』



駄目だ! 彼女を殺してはいけない。 彼女がいなくなると代理がいなくなって、僕は宙ぶらりんになる。


ティムされているのに、その相手がいなくなったら精神的に不安定になってしまう。狂ってしまう。


代理でも、生意気で鼻持ちならないサリーでもいなければ困るんだ。


近づく積りはないが、消えてしまっては困る。そうでなきゃ僕の逃げ場がなくなる!



マイケル王子はガバッと跳ね起きた。


いつの間にかベッドでうたた寝をしてたらしい。


いまのは夢だったのか?


だが正夢だったとしたら?



彼らがサリー・トロットを襲うとしたらどうやるだろう?


学園から寮迄の道は人通りも多くすぐ近くだ。


それにいつもアンナ・ナウリー嬢と一緒に行動している。


とすると、まずアンナ嬢だけを誰かの名前で呼びだす。


時刻は夜だろう。


そうだ、今日は僕は一日中安静にしていなくてはならない。


だから彼らも僕の目が届かないところで自由に行動できる。


だからやるとしたら今夜だ。


アンナ嬢は関係ない所に呼び出しておいて、そこでずっと待たせる。


そしてアンナ嬢が危ないとかなんとか言ってサリー・トロットを別な場所に呼び出す。


そこには彼らが得物を持って待ち構えていて、全員で一斉にサリー・トロットを……。


駄目だ。いま僕が動かなければ間に合わなくなる。


彼等にも罪を犯させたくない。


マイケル王子は立ち上がり、学生寮に向かって急いだ。




丁度その時、学生寮から血相を変えて飛び出して来るサリーを見た。


間に合った。


サリーは手に剣を握っていた。鞘をつけたまま手に握って。


マイケル王子は彼女の後をつけて走った。


サリーはアンナ嬢が危険に曝されていると思っているにちがいない。


その場所を目指すことだけ考えて、自分が後をつけられていることに気づいていない……と思った。


だがある場所まで来た時、立ち止まって背中を見せたまま、言った。


「で……? あんたは誰? あいつらの仲間?」


そして振り返って目を見開いた。


「で……殿下?! マイケル王子様、どうしてここへ?」


「私の友らが間違いをする前に止めに来たんだ。たぶん、君がそこに行ってもアンナ嬢はいないだろう。


 君はここで引き返して寮で待っていればアンナ嬢は無傷で戻って来ると思う」


 ここでサリー嬢が僕の言う通りに引き返してくれたら万事うまく行ったと思う。


 だが彼女は違う道を選んだ。


「もしあいつらがそこで私を待ち構えているとしたら、大事なことを教えてやらなければ」


「な…何をする積りだ。いくら君でも大勢の者たちには敵わないぞ」


「大丈夫、私は一人じゃない。後ろを見て」


「えっ?」


マイケルが振り返って見たのは、矢筒と弓を二組ずつ持ったアンナ嬢だった。


「マイケル王子殿下、ある秘密の方法で、私はサリーと連絡を取り合っていました。だからこれはサリーに対する罠だと分かったのです。でも罠と分かれば罠に嵌る振りをして逆襲ができます」


「たった二人で何をする積りなんだ? よすんだ。いまなら引き返せる。そして僕は彼らに諭すことができる」


「王子様、あなたはまだ静養中です。大人しくお戻りください」


何故かその言葉はサリーの言葉と同等にマイケルの心を支配した。


いつもはそんなことはないのに、何故かアンナの言葉に従わさせられた。


アンナがそう言うと、サリーはアンナから弓と矢筒を受け取りながらマイケルに言った。


「王子様。私たちはこの王都で何て呼ばれているかご存じですか?


『二呼吸のアンナ・ナウリー』と『股間射抜きのサリー・トロット』って言うんですよ。


今回は股間はやめときますけれどね」




そういうと走り出した。すぐアンナ嬢も走る。


お互いに凍場を交わさなくてもやることが分かっている感じだった。


そしてマイケルは何故かアンナの言葉通り宮殿に戻って行くのだった。




翌日マイケルは知らされた。マイケルのとりまきである、侯爵、伯爵以下騎士爵の子息ら刑17名が全員足を矢で撃たれ痺れ薬で動けなくなったところを全員顔をボコボコに殴られたことを。


次の話で最終話になる予定です。あくまで予定ですが。

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