入学式
入学式ではなんと席順が決められていた。
今度はは成績順ではなくて爵位順になる。
従者といえども主人の隣に並べないのだ。
そして見間違いではなく、席も最末席だった。
そして自分より上席に騎士爵の子弟がいる。
すると隣にいた女子がサリーに言った。
「あなたの席はあそこにいる騎士爵の子たちが自分たちの上にいるのが気に入らないといって、こっちまで下げたのですよ」
「あなたは?」
「私はエルドランド準男爵家のメアリー・エルドランドと言います。女が自分たちの上にいるのが気に入らないと言って、あなたのと一緒に私のもこっちに持って来たのです」
「ふううん? そうなの? 椅子を持って一緒に来て下さる?」
サリーは自分たちの最初の席の場所まで来ると、そこに座っている男子生徒二人の襟首を掴んでいきなり後ろに引き倒した。
ドシーン、ガッターン! 「うげっ」「ぎゃっ」
そして二人の耳を引っ張って末席迄連れて行くと、膝裏を蹴ってそこに倒した。
「な…・・・なにするんだ、てめえ!うっ、あっ」「女のくせにっ。いっ、ぐっ」
サリーは二人の目と耳を素早く叩くと、止めに鼻柱にグーパンチを入れた。
「王都のもやしっ子が、なめた真似してんじゃないよ」
二人とも目も耳も鼻も三器官やられてその声も届かなかったみたいだ。
そこへ上席の方から騒ぎを聞きつけて男子生徒が数人集まった。
よく見ると先日二階の行き止まりの部屋まで追いかけて来たマイケル王子のとりまきだった。
「おい、大丈夫か?この女にやられたのか?」
その二人に声をかけている様子から、サリーはこの馬鹿二人組がマイケル王子のとりまき予備軍だと分かった。
「あなたたちがこの馬鹿どもに余計な知恵を付けたわけではないのですよね?」
「席順のことか? 同じ騎士爵なら成績のこともあるし末席で良いだろうとは言った。それが不服か?」
「失礼と存じますがあなたのお名前を伺っても?」
「ふん、田舎から出て来たから相手の爵位も名前も知らないのか? 俺はゾーンバリー伯爵家のバルド・ゾーンバリーだ」
「何故、家名を名乗られたのですか? ご自分の家名を辱める気ですか?」
「な……なにぃーー? きさま、騎士爵の家の分際で」
「つまりあなたは伯爵家のお坊ちゃまでありながら、辺境伯さまとご自分の家が同等だと仰るわけですね」
「なにを?! いつそんなことを俺が言った?」
「辺境伯様が侯爵様たちと同等であると言うことはご存じなのですね? ではその理由をご存じで?」
「わかってる。国境からの脅威、大森林からの魔獣のスタンピードから国を守っているからだろう?」
「それなら知るべきです。辺境伯様の元には辺境子爵さま、辺境男爵様がいて、その方たちも一段階上の爵位と同等であると。
そして私は辺境騎士爵の娘です。もしこの席順が爵位に基づくものなら私は準男爵家と同等の席になる筈ですが?」
「おのれ、ああ言えばこう言う。だがお前は誰に物を言っている?俺は伯爵家のものだぞ」
「すみません。私も辺境子爵の娘なんですけれど? 今そこで聞いていたらこの二人の騎士爵の者は準男爵家の娘さんとうちの侍女である辺境騎士爵の家の者の席を勝手に下げたそうですね。いまそこのお嬢さんに聞きました。これはどうなんですか?」
現れてサリーの前に立ったのは、アンナ・ナウリー子爵令嬢だった。その横に先ほどのメアリー・エルドランド準男爵家令嬢が立っていた。
バルド・ゾンバリーは言葉を返せずにいたが、その背後から来たのはマイケル王子だった。一番前にいたから騒ぎに駆け付けるのが遅れたようだ。
「この騒ぎはいったいどういうことなんだ? バルド、何があった?」
「そ……それは」
「さあ、サリー、そしてメアリーさん。あとは殿下にお任せしましょう」
「はい、サリーさん、私たちの椅子は正しい位置に並べておきましたので、戻りましょう」
アンナ様に続いてメアリー嬢がそう言ったので、サリーは頷いて席に戻った。
マイケル王子ととり巻きたちは暫く小声で話していたがそれも解散してそれぞれの席に戻って行った。
それから入学式が始まり、学園長の言葉があった。
学園長は長い白髭の長身の老人だったが、背筋を真っ直ぐして鋭い眼光で全体を見回した。
「なにやら入学式前に会場でひと騒動があったようだが、聞くところによると爵位と席順のことでのもめごとらしい。勘違いして貰いたくないのだが、爵位はこの王国の秩序を守るための決まりだ。その為席順をそのようにした。だが同時にこの学園で学ぶ者は爵位に拘っていてはいけない。学ぶ行為そのものまで爵位に縛られては自由に学ぶことができなくなるからだ。しかしながら爵位はなくなる訳ではない。これは別に謎かけでもなんでもない。すべて良識に従って行動すればすむことなのだ。さて。この学園に入学した新入生の諸君は……」
学園長の話はその後も続いた。
サリーがあくびが出るのを必死にこらえた。
そして新入生代表の挨拶になった。
主席の第三王子マイケル・ロータス・グリーラは登壇して、一礼して全体を見回してから、真っ直ぐサリーの方を見た。
サリーは王子と目が合ったのでドキッとした。もちろん眠気はふっとんだ。
「さきほど学園長様の話にもありましたが、席順のことで揉め事がありました。できれば学園内では暴力沙汰などは避けたいと思います」
そ……その通りです、王子様。申し訳ありません。あの馬鹿どもが勝手なことをしなければ……。
サリーは心の中でそう訴えた。その間王子は話を止めていた。
「…そして勝手に席順を変える行為も……許されない事です。そういう場合は主催者側に言って頂ければ良かったと…」
そうなんです。それは思いつきませんでした。王子様あなたのとりまきが彼らに指示したことはご存じですよね?
不思議にサリーが目力を込めて心の声を言ってるときは王子の言葉は続いていない。まるで、その声を聞いているように。
「とにかく入学試験受付のときにも同じようなことがありましたが、できればこういうことはなくして、学園内
での争いはなくしたいと思います」
あの件につきましては、受付のときは私たちの身なりも悪かったですが、アンナ様を棍棒で殴ろうと。その為やむをえなかったのです。どうかご理解ください。
「…ぼくもまだまだ未熟で分からないことがたくさんあります。何が正しいことなのか、そういうことを皆さんんで考えて答えを出して行きたいと思います。これから4年間の学園生活、一緒に有意義なものにして行きましょう……」
マイケル王子の挨拶はその後一般的なことに触れて終わった。ただ、王子本人も聞いていた全員も、何故前半の挨拶で三か所くらい大きな間をあけたのか分からなかった。




