スカートのマント以外の使用法
ところが肝腎の子爵令嬢アンナ・ナウリーが第三王子の命を救ったというエピソードについては詳細に描写するような物語はどこにもない。それは王族のプライベートな情報なので緘口令が敷かれているからだ。
ただ子爵令嬢が第三王子の命の恩人で当然謝礼を受け取った筈だが、兄の第二王子がそれだけではすまないと王立学園に入るのを勧めたことくらいが伝わっているだけだ。
だいたい辺境の貴族で王都まで来るのは辺境伯くらいでそれ未満の爵位の貴族は滅多に来ない。まして王立学園ではなく平民の通う学校に混ざって入学することの方が普通らしいのだ。
何故なら辺境伯でさえ田舎貴族と陰口を叩かれるのに、それより下の爵位では何を言われるか分からないと、敬遠するがためである。
ところが今回はダニエル王子殿下の紹介状を貰った手前入学しなければ不敬になるということなのだ。
アンナ・ナウリー子爵令嬢とサリー・トロット騎士爵令嬢の二人は神に祈るような気持ちで合格発表が貼ってある王立学園のキャンパス内に訪れた。
木の板を貼り足した看板に黒々としたインクで合格者の名前が書いてあった。
あった。
アンナ・ナウリー、そしてサリー・トロット。
「アンナ様、ありました!」「あったわね」
「後は頑張ってねばるだけですね」「そうだね」
サリーはほっとした。かなりズルしたけれどなんとかアンナ様の体面も保つことができたし、私も面目が潰れずに済んだ。
「君たちも合格したらしいな」
声に振り返るとマイケル王子がいた。
「しかし、サリー・トロットというのは誰なんだ?
こんなに最後の方に書かれるなんて、よほど出来が悪かったに違いない」
「「えっ?!」」
王子は看板の一番最後に書かれている名前を指さした。
まさか成績順に書いてあるとは……サリーは自分の名前を指さす王子の名前を探した。
なんと、自分とは逆にマイケル王子の名前は一番最初に書いてあるではないか!
主席と末席の差である。
サリーは恥ずかしさでいっぱいだったが、思わず負けん気を出して言った。
「そうなんだ、このサリー・トロットさんは一番ビリだから、後は上に上るだけだよね。
その逆の人はそれ以上上がるのは無理だから、後は下がるだけだよ」
「なに?」
マイケル王子の顔色が変わったときには、もうサリーはアンナ嬢を引っ張って逃げ出していた。
「殿下、今の無礼な女を捕まえましょう」
「許さん」
マイケル王子のとりまきとみられる合格者たちがサリーの後を追って学園の中に駆け込んで行った。
そうなのだ。合格者は学園の中に入って見学することが許されているのだ。
「二階だ。二階に上がったぞ」「そっちの方は行き止まりの筈だ。追い詰めろ」
なんとマイケル王子のとり巻きはひとりや二人ではなかった。
6・7人はいそうだ。
そしてサリーはアンナと共に二階の突き当りの部屋のバルコニーにいた。
「この部屋に入ったぞ。中から鍵をかけている」
「この部屋の鍵を借りて来い!」
一方バルコニーではサリーがスカートを脱いで上のベルト部分の紐を引っ張って閉じた。
スカートの下には同じ色のズボンを履いているので瞬時に女装から男装に切り替わった感じだ。
サリーはスカートの下の縁の三か所を口と両手で持って、下に飛び降りた。
パラシュートである。
4mほどの高さから飛び降りる訳だが、これを使うと着地が楽になるのだ。
「呆れた。そういう使い方をする予定だったの?」
アンナは早速真似をして飛び降りた。
そんなことをしなくても足腰を鍛えているので、よほどのことがない限り足を挫くことはないと思うが、こっちの方がずっと楽だ。
そして、そのスカートは止めているフックを外してマントのように肩に羽織った。
更に二人は頭から自分の髪で作ったウィッグを外し
、サリーの持っている狩猟用のポーチに入れた。
これはラルクがもっていた貴重なマジックポーチで、狩った獲物の死体を入れて歩く為のもので、特別に譲り受けたものなのだ。
今はアンナ様のを含め二人分の荷物を入れるのに使っている。
もともと二人は辺境の田舎者という開き直りから長い髪を切り落として短髪にして来たのだ。
切り落とした髪を職人に頼んでウィッグにして貰い、令嬢として正装するときにつけることにしているのだ。
「あっ、もしかしてあいつらじゃないか?」
「いつの間に男の格好を?!」
「ここから飛び降りたのか? 信じられないっ」
鍵を開けて入って来たらしく、王子のとりまきたちがバルコニーから二人を見下ろして喋っている。
まったく呆気にとられている様子だ。
そのうちマイケル王子も顔を出した。
「なんだ、あれは?スカートをマントにして羽織っているではないか。なんという破廉恥な」
サリーはそれを聞いて、心の中で言った。
(見解の相違ですよ。落馬の殿下)
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