野菜売りの客寄せネタ
ところが話はそれだけでなかった。
ごく普通の町民の男が野菜を売りながら、王立学園でのできごとを語るのだ。
「いやはやこれは俺の知ってる奴から聞いた話なんだけれどよ、今度の王立学園の入学試験の受付でひと騒動あったらしいぜ。
王立学園といえば貴族の子女が通う由緒正しいところだよな。でもって王都に住んでいる貴族なら大体あの人たちってのは顔と名前が一致してわかるってんだ。
で見慣れない奴は身分を証明するものか有力な貴族からの紹介状を持って行かないと、入学試験受ける為の受付をしてくれないんだとよ。
ところがそこへ薄汚い少年が二人連れでやって来たんだ。着てる服もよく見れば血の跡がポツポツついていて、当然近寄れば臭いんだ。
だから受付に並んでいる貴族のお嬢さんやお坊ちゃんは顔を顰めて離れてならんでたんだとよ。それで受け付けをやってるの王立学園の上級生なんだけど、そんな奴は問題外だから追い出そうとしたんだ。
ここは誰でも来れるとこじゃないって。ちゃんとした貴族の紹介状がなきゃ駄目だって言ったのさ。野良犬か野良猫を追い払う感じでな。
ところが少し背の高い方が言ったんだ。第二王子のダニエル殿下の招待状を持ってると。受付の男子学生はそこで確かめれば良かったんだよな。だがそんな薄汚い奴が何を言ってるって感じで警備を呼んで追い払おうとしたのさ。しかも呼ばれた警備の者は身なりが身なりだったものでいきなり警棒でそのノッポの方を叩こうとしたと思いねえ。その瞬間目にも止まらぬ速さでもう一人が懐に飛び込んで警備の大人の男の顔をバシンと叩いたんだ。頭二つ大きな男をだよ。そのチビの小僧が叩いたんだぜ。グーじゃなくてパーでやったらしいぞ。だから派手なおとがしたんだろう。でもってその男は指が目に入ってしかも鼻っ柱叩かれたもんだから鼻血もだして一瞬動きがとまったところをそのチビの坊主が急所を蹴り上げたんだよ。そりゃ悶絶して尻もちをついたんだぜ。
すると受付の学生が他の警護を大声で呼んだんだ。
でもその直後そのチビ坊主に喉を指先で突かれて声がでなくなったんだ。貫き手ってやつだよ。
それで大勢の警備の男たちが取り押さえよう来たら、そのチビが大声で言って足を止めたんだ。
つまりダニエル王子の紹介状を持って来たのにそれをみようともせずに警備を呼んだこと。
しかも警備のものはいきなり警棒で自分の連れを打擲しようとしたこと。
つまり受付と警備の両方の不備と無礼を訴えたんだな。
しかもダニエル王子の紹介状を持った自分たちに対する無礼は第二王子殿下に対する侮辱であり不敬だと宣言したんだ。
そこまで言われて前に出る警備は一人もいなかったぜ。いや俺が見たわけじゃないから、一人も手が出せなかったそうだ。
すると列に後ろの方で並んでいた人間が、自分がその紹介状の真偽を確かめるって名乗り出たんだ。
それが誰だと思う? なんと第三王子のマイケル殿下だよ。王子がほかの受験申込の者たちと一緒に並んでるんだぜ?言えば順番飛ばして受け付けてくれるものをさ。謙虚じゃねえか。試験を受けるのに身分は関係ない。みんなと同じように並ぶべきだって、供の者に言ったそうだよ。立派じゃないか。
おおそうだ。それでノッポの方の坊主の顔を見た途端、王子殿下は言ったんだ。紹介状を見るまでもない。あなたは自分が辺境で落馬して命があぶなかったときに助けてくれた辺境子爵令嬢のアンナ・ナウリーさんではないかってね。なんと二人の薄汚い少年は子爵令嬢と騎士爵令嬢だったんだよ。つまり女の子だよ。お嬢様だよ。
あんたらは知らないかもしれないが、辺境の貴族は爵位の格が一段階上なんだ。辺境伯だったら王都の侯爵と同格、辺境子爵だったら伯爵並、辺境騎士爵だったら男爵扱いになるんだ。でもそんなご令嬢たちが何故そんな恰好で男装視点だって話だよ。しかもうすぎたなくて。だから王子殿下も聞いたんだ。どうしてそんななりでってね。
そうしたら、辺境からこっちに来るとき出入りの商人が護衛と共に辺境に来ていたので王都に戻る馬車と一緒に行くことにしたんだと。しかも馬車じゃなくて、護衛たちと同じく馬に乗って行くってんだ。もちろん着替えとか荷物は馬車の屋根に載せて貰ってだ。貴族の令嬢が馬車に乗らずに何日もかけて馬で来るってんだぜ?だからドレスなんか着ないでほぼ男装って感じで来たそうだ。
ところが途中で護衛の倍の人数の盗賊に襲われたそうだ。そうだよ、その二人こそ今吟遊詩人が弾き語りしている『二呼吸のアンナ・ナウリー』と『股間射抜きのサリー・トロット』だってんだ。
つまり盗賊退治で遅くなった二人が、宿屋に剣と弓矢を置いて駆け付けたからあんな格好だったんだ。
二人は受付の時間がもうないんじゃないかって着替えもせずに来たわけだよ。王都の事情を知らなかったから仕方がないって言えばそうだよな。それでよ「にいさんっ!大根一本おくれ!」はいよっ。ほかにはないかい?おいおい話をタダで聞き逃げはいけないよ。野菜買って行ってくれよ」
つまり物売りの客寄せネタに使われているのである。そして後ほどこの部分も吟遊詩人の演目に加えられたとか。
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