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受付の日の王子

やがて王立学園の入学試験の受付の日が来た。

王子が列の後ろに並ぶのを見て、みな列を譲ろうとしたがマイケルは遠慮した。

皆より先に受け付けることに何の意味もないと思えるからだ。


「訳の分からないことを言うな。おーい、警備係! この二人を摘まみだしてくれ!」

前の方で大声を上げている者がいる。

見ると警備の者が粗末な身なりの少年を棍棒で打ち据えようとしている。

だが少年の連れとみられる少年が前に出て、首一つ分背の高い警備の男をあっという間に制圧した。この少年も身なりが汚い。

「大変だっ、警備がひとりぐがっ」

警護の者を呼んだ受付の青年が声を上げたが先ほどの少年が素早く何かをして黙らせた。

警備らしい男たちがあちこちから駆け付けて来た。

少年は大声で言った。

「この受付は第二王子殿下の紹介状を持ったアンナ様を侮辱して摘まみだすように警備に命じました。ここにうずくまっている警備の者は棍棒でアンナ様を打ち据えようとしました。第二王子殿下に招待を受けて来たアンナ様に対する数々の無礼はダニエル王子殿下に対する無礼でもあり、不敬だと思いますが、いかが?!」

アンナ様? もう一人の少年は女だったのか? それでは今喋ってる者も女か?

そして兄上の紹介状を貰ったアンナ嬢なら、あのアンナ・ナウリー子爵令嬢だな?

集まった警備の者たちは兄上の名前を出されて戸惑っている。

するとこの従者の少女はさらに強い調子で声をあげた。

待てよ、この少女の声は、夢に出て来る少女の声に似ている。

「どなたか紹介状の真偽を判定できる方はおりませんか? この受付の者はアンナ様がダニエル殿下とのつながりを示唆したにも拘らず確かめもせず、警備に命じて私たち二人を摘まみだすように言ったのですよ。これでは話になりませんね。どなたか紹介状を見る資格のある方はおりませんか?」

これは私が出るしかないだろう。

「私が見よう」

私は前に出てアンナ嬢の男装の姿を見て、辺境の子爵領で見た姿と重ね合わせた。

「だが見るまでもないようだ。身なりは男装して荒んだ形をしているが、あなたはナウリー子爵家の令嬢のアンナ・ナウリー嬢ですね。それならば間違いありません。でも受付を責めるのはお門違いです。兄の紹介状を受けて何故そのような形で受付に来たのですか?」

「それはーー「待ってください、マイケル王子殿下」」

そのとき私はびっくりした。あのもう一人の従者の少女が私を見ていきなり名前を当てたのだ。

なぜ私のことを知っているのだ?

だがここは彼らの不心得を諭さなければならない。兄上の紹介状をそんな粗末な形で持って来ては、兄上の名を辱めることになるのだということを。

だが言葉を詰まらせたアンナ嬢の代わりに気の強い従者の少女は続けた。

「もちろん、身なりを整えてこの場に臨む積りではいましたが、辺境の地から馬に乗って来る途中護衛の数を倍も上回る二十名近くの盗賊に襲われ戦って来たのです。

血糊を洗って身を清め服装を改めて来たのでは、今日の受付には間に合いません。間に合わなければ紹介状を頂きながらそのご好意を無駄にしてしまうことになります。辺境から来るということは王都に住んでいて都内から駆け付ける場合と違うことをお察しください、マイケル王子殿下。あなた様も辺境においで下さったとき、その過酷な環境をご覧になっていったはずですので、お分かりいただけますでしょう」

こんな理屈はその場で打ち消すことくらいはできるが、自分の恩人かもしれないこの少女の言葉にはなにか抗えない力を感じた。それに辺境のことを引き合いに出されると二の句がつげない。

「うむう、それを言われたのでは何も言えない。ところでその方は女性なのか?名を伺っても良いか」

「とるに足りない村娘ですので、どうかお見逃し下さい」

従者の少女は首を横に振りながら笑顔で胡麻化した。これには横にいたアンナ嬢が顔色を変えた。

そうだ。身分が上の者に名を尋ねられて答えぬのは不敬であり、打ち首にされても文句は言えない。

「うむう、私が名を問うて、名乗ってもらえなかったのはこれで二回目だ。待てよ?そなたは私と最近会ったことはないか?」

私がそう問いかけると、突然その者は今までの態度からは想像できぬほど慌てた様子を見せて話を逸らした。

もちろん、これも不敬である。前回のも入れれば、この娘は三回首を刎ねられている。

「とにかく殿下、私たちの身分を保証して下さりましてありがとうございます。ここが無理なら別の受付に並び直さなければいけませんが」

もう私はどうでも良くなった。この娘は何故か正体を知られるのを恐れている。

そんなこと調べればすぐ分かることだというのに。

「いや、その必要はない。誰かこの者の代わりの受付を呼ぶように。それとこの者と、その警備の者は捕縛するように。兄上が招待した方を侮辱し打擲しようとしたのは明らかに不敬である」

「「「はっ、殿下」」」

警備の者たちは二人を連行して行く。

そしてすぐに代わりの受付が来てアンナ嬢から紹介状を受け取って通常の業務に戻ったようだ。

彼等は急いで退散して行ったが、私の番が来て受付を済ませた後、係の者に聞いた。

「アンナ・ナウール嬢の従者の少女の名は?」

「シャイン・トロット騎士爵の娘のサリー・トロット嬢です」

「そうか、なかなかやんちゃな娘だな」

私はそう言うと、王宮に戻ることにした。

読んでいただきまして、本当にありがとうございます。


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