追い出された
「森から出れたのはいいんだけど、ここどこなのよ...」
開けた丘の頂上で、ミズナはつぶやいた。後ろにはさっきまでいた森の木々が、またおいでよというように横に揺れている。
―話は数時間前に遡る。
上半身は鷲、下半身は獅子の小さい(約5m)魔獣……チビグライフとの戦いを終えて、リヒトとミズナは森を抜けようと辺りを彷徨っていた。
その道中、上半身人間、下半身馬で弓を持った明らかに関わらない方が良さそうな魔物に気づかれかけたり、突然降ってきた雨をしのぐために入った広い洞窟にたまたま森の民がいて、「儀式の邪魔をした奴は殺す!」とか言って追っかけまわされて、謝ってるのに殺されかけたり、もう本当にいろいろなことがあった。
正直今日はもう今すぐベットに倒れ込みたい...
リヒトは今日あったことを思い出しながら歩いていた。
森を抜けたのはいい。しかしここがどこだかわからなければ休むこともできない。
もし、ここが討伐の難しい魔物の縄張りの死の領域なら、まず呑気に寝ている間に体がぐしゃぐしゃにされて死ぬだろう。
「あ!あそこ!何か建物みたいなのあるわよ!」
ミズナが指を刺しながら言った。
確かに、ミズナが指を刺した方向には建物がある。それもたくさん。
その場所に行ってみると、森の民族の集落だったようで、みんな優しくて、今日はここに泊まっていけと、寝床を用意してくれた。
民族といっても、割と一つの村くらいに発展していて、家も木造で耐久性のありそうなロッジみたいな感じで、お風呂もあった。
風呂に入って、美味しいご飯もいただいて、寝る用意をした後に用意してくれた寝床に飛び込んだ。
―次の日のこと。
朝起きて、ご飯を食べさせてもらうために食堂に行こうとしていたら、声が聞こえてきた。
「儀式が終わったぞ!今夜は祭りじゃあ!って、お、お前は!儀式を邪魔してきた野郎ども!?なぜここにおる!?」
そう声を荒げながら近づいてきたのは、昨日洞窟で殺そうとしてきた人だった。
雨か何かで濡れた灰色の髪の毛に白い髭、白いローブ、細い手足の老人が立っていた。
周囲の人たちの視線が温かいものから、冷たい、まるで親の仇を見るかのようなものになっていった。
「いや、あれは私たちそんな大切な儀式をしてるなんて思ってなくて......」
「問答無用ッ!皆の衆!奴らを村から追い出せ!殺しても構わん!村長命令じゃぁぁ!」
叫びながらオーブのついた木の杖を振りかざす。すると、黄色いモヤが出てきて……森の民に吸い込まれていった。
森の民の長、リアゲサ。彼は活気の魔術師。
自らの活力をオーブに貯め、人に分け与えることができる。
親しい人には親切で人望がある反面、儀式の邪魔をした者や一族の安寧を脅かす者は容赦なく殺害する冷酷な一面もある。
気づくと森の民たちは剣、斧、ハンマー...他にもいろいろな武器で武装している。
本当に大切な儀式だって知らなかったのに...理不尽すぎるよ......。
「コロセー!」
「シネェ!シネェ!」
「ヒャッハー!」
「すっごいテンション高いわね...」
色んな武器でかわるがわる繰り出される攻撃から逃げながらミズナが毒づいた。
「よくしてくれた人たちに攻撃はできない...。逃げるしかなさそうだね」
なんとか集落から逃げてきたリヒトたちは、街へ続く道のど真ん中に立っていた。辺りは低木で装飾されている。この辺りは田舎みたいだ。
―たまたま立ち寄ってしまっただけなのに、殺されかけて気持ちはかなりブルーである。そして、追い打ちをかけるように雨も降ってきた。
「はぁ、なんでこうなるかなぁ……」
リヒトがしょんぼりしながらつぶやいた。
「仕方ないわよ……。私たちにできたのはあの場を立ち去ることだけよ。」
走って乱れた息を整えながらミズナが言った。
バサ、バサ
どこかから大きな鳥が羽ばたいているような音が聞こえてくる。
空を見上げると、そこには先ほどのグライフがいた。
いや、何かおかしい。大きさだ。チビグライフの倍近くの大きさだ。これが本来のグライフなのか?
「村に向かってるわよ。どうしよう?行く?」
ビクビクしながらミズナが言った。あんな大きな魔物がいるんだ。当然ではある。
「そんなのもちろん、行くに決まってる。」
リヒトは怖いのを押し込めて言った。