森の中腹
「ちょ、諜報員!?」
僕はびっくりして、思わずそう叫んでしまった。
でも、初対面の人が急に自分が諜報員だと告白してきたら、誰だってそうなってしまうと思う。
「え?まさかほんとに信じたの?」
彼女...ミズナさんはイタズラっぽく笑って言った。
「え?嘘なの?」
逆に質問で返してしまった。
「いやいや、嘘に決まってるでしょ。諜報員はバレたらダメなんだから普通自分が諜報員だって言わないでしょ。そもそも日本とドイツは友好国なんだから諜報員送る意味ないでしょ。」
「確かに...」
畳み掛けるように喋るミズナさんの言葉に、半分押し負けるような感じで返事をした。
「ところであなたの名前は?聞いてなかったわよね。」
「僕はリヒト・ストームスラッグ。リヒトって呼んでね。ミズナさんは、なんでドイツに来たの?」
名乗ったあとに、恐る恐る聞いてみた。
ミズナさんはくすっと笑って言った。
「ミズナでいいわよ。私、魔術師試験を受けに来たのよ。日本にも魔術師試験あるけど、本場の方がいいかなって思って。」
「そうなんだ。じゃあ、行き先同じだね。僕も魔術師試験を受けに行くんだ。」
「へぇーそうなんだ...。って!後ろ後ろ!」
慌ててそういうミズナさん...ミズナとは対照的に、僕は割と落ち着いていた。
「え?後ろがどうしたの?」
そう聞きながら後ろを振り向いて、僕は悲鳴をあげかけた。
そこに佇んでいたのは、自分の身長の2.5倍くらいの大きさで、上半身は鷲、下半身はライオンのような姿をした魔物だった。
大きさ以外の姿形は、グライフのようだった。
小さなグライフ...チビグライフは、鋭い眼光でリヒトたちを睨む。
「これは、やるしかないようね。」
ミズナが覚悟を決めたように呟く。
「ギャ゛グオ゛ォォォォォ!」
チビグライフがクチバシを開いたかと思ったら、鳴きはじめた。それも、鼓膜を破るほど大きな音のやつ。どこからそんな音出してるんだよ...。
音の衝撃波で木々が倒れ、僕らの体が吹き飛ばされる。
なんとか着地をした時、
「あなた、魔術師になるっていうぐらいなんだから、魔術使えるわよね?」
ミズナがさっきとはうってかわって真剣な表情で聞いてきた。
「一応ね!」
そう言って自信満々に言ってみた。
「一応って...。ちょっと不安なんだけど...。まぁいいわ。がんばりましょ。」
正面を見ると、さっきまでいたはずのチビグライフがいなくなっていた。となると...
「上だ!」
ズドン!空から降ってきたチビグライフの前足が地面にめり込む。間一髪、僕たちは左右に跳んで避けた。
チビグライフが恨めしそうに僕らを血走った目で睨む。
「さぁ。」
ニヤリと笑って背負っていた杖を引き抜く。
「やるわよ。」