歯車は動き出す
時は3272年。春。
ある少年が、旅へと出た。
少年の夢は、大きなものだった。
少年の名は、リヒト。
これは、彼が夢を叶えるまでの物語である―
「...ヒト...リ...ト...」
なんだろう?どこからか声が聞こえる...
「リヒト〜!起きなさ〜い! 」
目覚めて一番、僕の目に飛び込んできたのは僕の部屋の中...ではなく、母さんのむすっとした顔だった。
「うるさいなぁ...もう少し寝かしてよ...」
そう返して、もう一度目を閉じようとした。
すると、母さんの困り声が聞こえてきた。
「あなたが昨日ちゃんと起こしてって言ったんでしょ?それに忘れたの?」
母さんは半分捲し立てるように言った。
「今日はあなたの旅立ちの日よ?そんなことも忘れちゃったの?」
母さんの言葉で、完璧に目が覚めた。思い出した。今日から家を出て、魔術師試験にむけて修行をすることになってたんだ。
―魔術師試験...年に一度行われる魔術師になるための試験だ。毎回参加者は1万人を超えるらしいけど、受かるのはその中でもごく少数なんだとか...
ちょっぴり不安になったのを顔から察したのか、母さんはベットの縁に座った僕の頭を撫でながら言った。
「まぁ、でもリヒトは強いからねぇ。きっと、いなくなったお父さんみたいに、すぐに試験を突破して帰って来れるわよ。」
いつも、父さんの話をするときの母さんは嬉しいような、かなしいような...複雑な顔をしている。
僕の父さんは、魔術師をしてたらしいけど、ある時から家に帰って来なくなったらしい。
歯磨きをして、いつもよりも少し豪華な朝ごはんを食べて、歯磨きをして、荷物を持って玄関のドアに手をかける。
「いってらっしゃい。」微笑んだ母さんの表情の奥に、名残惜しさが見えた。
ニカッと笑って手を振った。
「行ってきます!」