ルディル 観察
悪評しかないと言うのに普段の令嬢は大人しく、俺には噂と同一人物であるのか疑問に思う。
「俺は騙されてるのか?」
人の気も知らずに自分の欲望のままに追いかけ回す令嬢は見てきたが、キャステン令嬢のように一見お淑やかで無害な令嬢にしか見えない人物は初めてだ。
「改心した…とか?」
問題行動ばかりで敵しかいないことに王子の婚約者候補として危機感を感じ、過去を省みて考えを改めたのだろうか?
噂からここまでの変化を遂げれば悪評も収まりそうだが、いつまでもニルヴァーナ・キャステンの印象は変わらず。
『高慢で威圧的』
『権力で人を従えさせている』
令嬢は常に一人で、誰かに謀略をかける指示や会話している姿はない。
授業も真面目で成績は常に上位。
目立つ行動はしていないが自然と目を引くのは容姿や所作が美しいからかもしれない。
だが、それを利用し王子の気を引くような素振りはない。
「あっちの方が下品だろう?」
観察していると、キャステン…ニルヴァーナよりも義妹のローレル・キャステンの方が俗気を隠さない誘惑の仕方をしている。
さほど優秀でもなく秀でる何かが有るわけではないが人身掌握に長けている。
僅かに批判は有るものの、それを掻き消すように熱狂的な信者の方が目に映る。
令嬢と直接関わっているラルフレッドにどう見えているのかは分からないが、客観的に観察している俺からすると次期王妃に相応しい人材とは言えない。
「王子の好みが壊滅的でなければ選ばれることはない…だろう」
ローレルという人物の評価が異常に高いのは、悪評しかない義姉の存在が大きいと言える。
他の候補者も虎視眈々と婚約者の座を狙っているようだが、側近候補達に阻まれている模様。
側近候補の彼らは既にローレルと徒党を組んでいるように見受けられる。
婚約者も側近も互いが選ばれれば王子に助言し、協力者も選ばれやすくなるという分かりやすい目的で彼らは繋がっている。
ここまであからさまだと彼らを候補者から除外しても良さそうなものだが、それをしないことに王子には別の思惑があるのではと考える。
彼らの一挙手一投足を見逃さないよう注意しているが、候補者達の能力を見る限り権力が欲しいだけの連中にしか見えない。
「次期国王と謳われている王子がそんな奴ら、選ぶ訳ないよな?」
あんな奴らをこのまま婚約者・側近に指名するとは考え難い。
「…やはり何かを…探っているんだよな?」
彼らとの繋がりで王族の利益になるようという情報は得られなかった。
公爵令嬢となったローレルはともかく、他の側近候補達の家門は貴族の基準を満たしてはいるものの特別に側近として必要不可欠な家門ではない。
いくら考えても王族に利益がなく本人の能力も優れているとは言い難い場合、側に置く理由は大抵何かを探る時。
謀反など大袈裟な事は言わないが、何らかの策略に関わっている家門…
それならば、今までのラルフリードの行動も納得できる。
そう結論付けると、彼らを側にいることを許可しているのも、異常な学園の雰囲気と生徒の反応も理解できる。