ルディル 留学
「髪は染めれば、俺だと気付く者はいないだろう」
身分とシルバーの髪を隠し、商人の息子としてオーガスクレメン王国に留学。
貴族ではなく裕福な平民として留学しているので令嬢からの熱烈な誘いは無い。
俺としてはそれだけで留学しに来た意味があった。
「実力でクラスが決定するのか……面白い」
オーガスクレメン王国はクラスを成績で決定すると聞いたのでどのくらいのものなのか実力を隠すことなく試験に臨む。
ウェルトンリンブライドにいた頃も好成績に固執したことはないが、恥とならぬようそれなりに教養は受けてきた。
試験結果は八位。
「まずまずだな」
言い訳ではないがウェルトンリンブライトとは多少異なる教育の為、事前準備なく挑んだ割には出来た方だ。
なのでオーガスクレメン王国の学力は我が国と遜色無いよう。
「あれが……」
クラスを見渡すとラルフリードを確認。
ギディオンの兄。
第二王妃の子と聞いていたのでどんなものかと着目していた。
今回の試験結果は二位らしい。
常に上位を争っているくらいには優秀。
数日観察したが、引き連れている側近と婚約者候補は優秀とは言えない振る舞いだ。
「あの程度の人間を側に置くには何らかの理由があるのか?」
王子の判断を疑ってしまう程周囲にいる人間は理解できない人材だった。
俺なら媚を売り中身のない見た目だけの婚約者候補や何かを勘違いしている高慢な側近候補は選ばない。
「あとは……」
そちらを気にしつつもう一人、観察している対象がある。
ヨシュアルト侯爵の孫。
ニルヴァーナ・キャステン公爵令嬢。
令嬢もラルフリードの婚約者候補の一人だが、対象外らしい。
成績優秀で控えめで、獲物を狙う令嬢とは違うので俺としては他の候補より有力のように見える。
だが、周囲の反応はあからさまに令嬢を見下していた。
誰もが当然のように令嬢を侮辱する言葉をぶつけている。
令嬢も感じてはいるだろうが反論せず一人耐えている姿に、オーガスクレメンの質を疑う。
「相手は公爵令嬢だろう? 実力主義で爵位は軽視しているのか?」
何故そこまで害の無い令嬢を否定するのか、令嬢を見る限り不当な扱いと言える。
それとなく令嬢の事を調査する事に。
「それって本当なのか?」
平民や貴族関係なく誰に聞いても似たような評価を耳にした。
『ニルヴァーナ・キャステンは王子の婚約者の座を得るべく、手段を選ばない令嬢』
『格の違いから公爵家以外の貴族を認めず、過去には芸術祭で格下の婚約者候補の作品を破損させた事もある』
『極めつきが、後妻の連れ子の義妹の事を毛嫌いしていて屋敷では酷い仕打ちをしている』
俺が目撃したのは学園での令嬢の一部。
屋敷での振る舞いは簡単に得られるのもではない。
「お茶会などでは、そうなのか? 」
誇張されたとしても、ありもしないことがここまで噂されることはないだろう。
相手は公爵令嬢。
万が一虚偽だった場合、公爵が黙っていないはず。
ヨシュアルト侯爵は令嬢の姿を知らずに溺愛しているのか、それともそんな孫を丸ごと受け入れているのか…
その後も令嬢の噂は不愉快なものばかり。
侯爵の真意を確かめるにも、噂の内容を纏めなければならない。
手紙と言う名の報告しなければならないかと思うと憂鬱だ。
真実を書くべきか悩んでいると侯爵から孫の様子の催促の手紙が先に届く。
「俺の苦悩も知らずに…」
婚約者探しの令嬢から逃げる為の留学。
逃げた先でも悩まされることに。