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ルディル 過去の記憶

 過去、俺はウェルトンリンブライド王国の学園に入学していた。

 ウェルトンリンブライド王国の人間がウェルトンリンブライド王国の学園に通うのは当然の事。


『フィルディカル様は今、決まったお相手いらっしゃらないんですよね?』

『フィルディカル様、もしお時間があれば私とお茶でも……』

『フィルディカル様、父がフィルディカル様と狩猟でもと申しておりますの』


 疑問や不満などは感じず学園に入学すると、婚約者探しと言わんばかりに獲物を狙う令嬢達に巻き込まれた。

 見た目、爵位、将来性などから男達を品定めし、より良い条件の男に我先にと自身を売り込む。


「魅力的な誘いに、とても決められないな」


 俺自身を見て欲しい等と言うつもりはない。

 令嬢達の『家門を守るために条件の良い男と婚約する』という意思は理解できる。


「……隣国の王子が?」


 それでも令嬢達からの誘いを躱し、我慢した一年を過ごすと隣国の王子が治療の為に訪れているという情報が入った。


「相手はギディオン・オーガスクレメン王子か……」


「王妃の息子で、病気の為に王位争いから一線を引いたらしいです」


 王族代表として年齢の近い俺が挨拶に出向いた。


「この度は受け入れてくださり、ありがとうございます」


 会った彼は病気と聞いていたが思ったより元気そう。

 彼にはこの国の最先端の治療法が適していたらしい。


「やぁ、今日は調子どうだ?」


「大分いいよ」


 一度挨拶を交わしてから気が合う事が分かり、定期的に彼の屋敷を訪れるようになった。

 その時に外交官として何年も滞在していたヨシュアルト侯爵の存在を知った。

 二人は今回王子の後見人兼護衛として選ばれたそうだ。

 第二王子が表向き身を潜め、王妃派閥の一人がウェルトンリンブライトに出向いたと知られると治療中であることが誰に勘づかれるか分からない。

 第二王子がウェルトンリンブライト王国で治療中と知られれば、一気に騒がれ第一王子派閥からの刺客が送られる可能性がある。

 それらを考え、外交官として何年も滞在していたヨシュアルト侯爵であれば帰国が延期になったとしても目立つことが無いだろうと白羽の矢が立ったらしい。


「今日はヨシュアルト侯爵もどうだ?」


「では、同席させていただきます」


 ギディオンとの会話を楽しんでいたがヨシュアルト侯爵達の雰囲気も気に入り、かなりの頻度で彼らの滞在先に通うようになっていた。


「ルディルは婚約していないんだね。それだと学園では大変なんじゃないの?」


「辟易している」


「ハハッ。なら、オーガスクレメン王国へ留学してみたら?」


「オーガスクレメン王国か……」


「オーガスクレメン王国……孫は元気だろうか? 私の孫は娘に似て美人で優秀でお淑やかで非の打ち所がないほど完璧。あぁ、孫に会いたい」


「また、始まった……」

 

 ヨシュアルト侯爵はオーガスクレメン王国の話になると、すぐ娘・孫自慢になってしまう。

 毎回同じ話を聞かされるのは、何年も孫に会っていない為に思い出が更新される事なく止まっているから。

 娘の夫から孫の近況を手紙で知るもそれだけでは物足りないらしく、今では未来の姿を語るようになっていた。

 そんな侯爵に『孫自慢は聞き飽きた』と言いたいが、孫を産んで数日後に体調を崩し娘が亡くなってしまった話を聞いてからは侯爵の孫自慢を止める事が出来なくなってしまった。

 あまりにも侯爵が溺愛するので一度くらい会ってみたいという興味は湧く。

 侯爵が絶賛する通り完璧な令嬢なのか。

 それとも実際は普通で親の欲目からくるものなのか。

 それとも老人の戯言か。

 顔も知らない令嬢に対してその程度の興味しかない。

 留学を決意した本当の理由は、学園で令嬢に追いかけ回されることに耐えられなくなって来ていたからだ。

 身分を隠し留学すれば穏やかな日常が送れるのでは? と希望を持つ。

 孫自慢を語る人間の国に癒しを求めた。

 今すぐにでもと行動したいが、他国への留学には事前準備が必要に。

 整えていくうちに、中途半端な時期となってしまい無駄に目立ってしまうという話になり三年に上がるのと同時に留学することになった。

 そして、俺の留学が決定すると侯爵から無事を祈る言葉が…


「孫の名前はニルヴァーナ・キャステンだ。一目見ればあの子の素晴らしさに惚れるだろうがそんなことは許さない。だけど、どんなに愛らしいかを誰かに報告したいという欲求を押さえられないのならば手紙を送っても構いませんよ」


 義理の息子からの手紙だけでは飽きたらず、俺にまで学園での孫の様子を催促。

 まぁ、月に一度くらいなら…


「分かりました……月に……」


「毎週がいいでしょう。それでは書き足りないというなら毎日でも私は構いませんよ」


「毎……週……?」


 侯爵は孫の近況を知る手段が増えた事に、満足そうな笑みを浮かべている…

 孫を溺愛している者を甘く見てしまい、了承してしまった事を後悔。

 見たこともない令嬢の行動を観察し毎週報告の手紙を書くのは苦行でしかない。

 毎日なんてもっての外だ。

 そんな事は全力で遠慮したく交渉の末、二週間に一度ヨシュアルト侯爵の孫の様子を報告する手紙を送る事に落ち着いた。

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 おじーちゃん…(笑)
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