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死……

「…んふぅん…」


 いつぶりだろうか?

 ふかふかの柔らかい布団に包まれ、とても幸せな気分。

 このままずっと眠っていたい。

 ん?


「んっぅん…」  


「起きたのか?」


 幸せから目覚め、現実を目にする。

 そこにはいるはずのない人物が椅子に腰掛け私を見ていた。


「…ル…ゴホッ…ディル…さん?」


「水飲むか?」  


 咳き込んだ私に水を差し出してくれたのは、やはりルディル。

 彼が何故ここにいるんだろうか?

 というより、この部屋は私が借りていた宿屋ではない。

 私が覚えている限りベッドと机が有っただけで、繊細な装飾が施された家具や透き通るようなガラスコップはあの宿屋には置いていない。

 ここはまるで貴族邸の客室のように思える。

 水を一口飲むと喉が乾いていたのを知り、コップが空になるまで勢いよく飲んだ。


「ふぅ~」


「もう一杯飲むか?」


 私が一気に飲み干したのを見てルディルが気を遣ってくれる。


「…いえ、大丈夫です…えっと…私は何故ここに?」


「雨の中倒れているニルヴァーナさんを見つけて俺が運んだ。ここは俺の知り合いの屋敷で、ニルヴァーナさんは三日間熱に魘され眠ってたんだ」


「…三日間」


 そんなに眠り続けたのに私は生きているのか。

 あのまま死んでも良かったのに。

 過去と同じように…

 私に生きる事への未練などない。


「何か食べられそうか?」


 倒れて屋敷に泊めてもらい、その上介抱まで。

 これ以上ルディルに迷惑を掛けられない。


「…いぇ…食事は…」


「少し話がしたいんだ、食事を終えてから時間を作ってもらえないか?」


「…はぃ」


 彼が部屋から出ていくと、代わりに使用人が現れ身支度を整えられ食事が運ばれる。

 優しい味に涙が溢れるのを堪えながら噛み締めながら頂く。

 普段であれば用意された食事を全て頂くことができただろうが、病み上がりの今は残してしまった事に罪悪感を覚える。

 食べる物がない苦しみを経験した過去があるので残す事には抵抗がある。

 私と違って貴族が食事を残すことになんの疑問も持たない使用人の配慮により、テーブルの上が片付けられていくのを眺めていた。

 全てが片付けられるとソファに促され紅茶が準備されていく。

 久しぶりに貴族扱いされている事に違和感を感じてしまう…


 コンコンコン


「はい」


 誰が訪ねてきたのかは聞かなくても分かる。

 部屋に入ってきたのはルディル。

 向かいの席に座るとルディルの分の紅茶も用意され、準備が整うと使用人は部屋から去っていく。

 今この部屋にいるのはルディルと私だけ。


「食事は問題なかったか?」


「はい。とても美味しく頂きました。ですが残してしまい料理人の方には申し訳なく思っております」


 食事のありがたみが今なら分かる分、残すのは忍びない。

 出来るなら時間を置いて残りも食したいところ。

 そんなことを口にするのはどうなんだろうか?

 既に貴族を捨てている私には問題ない?

 それでも言えないのは私の中に貴族としての矜持が僅かに残っているのかもしれない。


「いや、病み上がりなんだ気にすることはない。料理人もその事は分かっている」


 確かに食事の内容は病人の食べやすいものが準備されていた。

 相手が病人だと分かっていても残される事に料理人として不満に思うことはあるだろう…


「ニルヴァーナさんは、どうしてあんなところに倒れていたんだ?」


「あっ…私は…と…つ然の雨に打たれ、雨宿りする場所を探していたら…」


 なんとなくルディルに嘘を吐くと見破られてしまいそうで、視線を逸らしてしまう。


「驚いたよ。道端で倒れているニルヴァーナを発見した時は」


「ご迷惑をお掛け致しました」


「いやっいいんだ…ウェルトンリンブライド王国にいるとは思わなかった」


「それは…以前、ルディルさんと話してから一度行ってみたいと思ったので…」


「それなら言ってくれれば良かったのに。俺が案内を買って出たのに」


「…迷惑を…」


 迷惑を掛けたくなくて一人できた。

 結局迷惑を掛けてしまった。  


「そんなの気にする必要はないのに…」


 私の身勝手な行動に誰かを…ルディルを巻き込みたくない。

 何も言葉が出てこないまま、沈黙が流れる。


「…ニルヴァーナ」


 いつの間にか紅茶を見つめていたことに気が付き、視線を上げると先程とは違い真剣な表情のルディル。


「何でしょうか?」


「…過去を覚えてるよな?」


 彼の表情は真剣で私は彼の言葉の真意探る。

 『過去を覚えているよな?』とは、どういう意味? 

 ルディルの言葉の意味が分からず彼を凝視してしまうも、彼は何も言ってくれない。


「どういう事ですか?」


「俺も過去を思い出した」


「…思い…出した?」


 過去とはどこまでの過去? 

 もしかしたら、私達は幼い頃に出会っていたという過去?

 それとも…


「前回はウェルトンリンブライドには来なかっただろう? 貧民街の中でも外れにある小屋で、俺がニルヴァーナを発見した」


 …ルディルの言う過去は、前回の私の過去。

 過去の記憶があるのは私だけじゃなかった…


「ぁっ…それっはっ…ぇっ…」


「落ち着いて聞いてほしい」


 混乱する私に、ルディルはゆっくりと過去の記憶を話してくれた。

 過去は私の知る過去。

 その後、私が死んでからの過去…

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― 新着の感想 ―
終わりの日、内容が同じものが2つありますね
 (ノ`•ω•)وヒーロー(真)キターッ!?
ニルヴァーナが逃げることばかりで、逃げた後にどうやって生きるかの希望をもってない病みっぷりが可哀想で、幸せになって欲しいなぁ。と思っていたところにルディル!! ヒーローは遅れてやってくるってやつ!!
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