少し楽しかった
式が終わるとそのまま屋敷へと向かう。
『ねぇ、誰にエスコートされるの?』
『それはすぐ分かるわ』
『もう、仰ってくれないんだからぁ』
『パーティーでね』
『うん、パーティーでね』
数時間後のパーティーの事で頭がいっぱいで、今日で学園に登校するのが最後ということに未練がないようだ。
彼らを責める気はない。
私も学園には全く未練がない。
この場所は、私とは関係の無い場所になっただけ。
私には早く屋敷に戻り準備しなければならないことがある。
それは、卒業パーティー…ではなく、屋敷を追い出される為の準備。
「どのくらいで出来るかしら?」
限られた時間で宝石と荷造りを済ませなければならい。
屋敷に到着しても当然誰の迎えもなく、部屋に入っても同じだ。
「マイヤ? ……いないの? んふふっ」
マイヤくらいは居てもおかしくはないのたが、今ではローレルに寝返っているのを隠しきれていない。
詰めが甘いのか、私が見下されているのか…
「きっと今頃ローレルに流行遅れのドレスを私に渡すよう指示されているかしら? だけど、好都合ね」
マイヤが居ないのを良いことに、私は宝石を入れるのに良さそうな袋を制服のポケットに隠し宝物庫の鍵を持つ執事のもとへ向かう。
「ニルヴァーナお嬢様、如何なされました? 今はパーティーの準備では?」
制服姿の私を見た執事は少々驚いたように見える。
この執事だけは過去も今も私に対して嫌がらせ等することはない。
ローレルや夫人やベネディクトに肩入れせず中立な立場。
執事は一貫して公爵の執事。
「はい。以前ローレル様に贈って頂き、大切に宝物庫に保管してある素敵なネックレスを今日身に付けようと思っています。なので、宝物庫の鍵を貸していただけます?」
「そうですか、分かりました」
執事は私を疑うことなく鍵の束の中から宝物庫の鍵を差し出す。
「ありがとう」
「お嬢様、私がご案内致しましょうか?」
執事の思いもよらない提案に緊張が走る。
もしかして私が他の宝石を盗むと怪しまれただろうか?
「…いえ、結構です」
平静を装いながら微笑むも口の端がひくひくと痙攣しているのが分かる。
「そうですか」
「はい」
私はそれ以上怪しまれないよう、執事の視界から消えたかった。
私は背中に神経を研ぎ澄ますも振り返ることなく宝物庫を目指した。
宝物庫まで到着した時、周囲を見渡し誰も居ないことを確認する。
「…はぁ~緊張した…」
執事から借りた宝物庫の鍵で扉を開け、以前発見したお母様の遺品を手にしては何の感情もなく袋に入れた。
「こんな物があるからいけないのよ。死んだのだから、全て売り払うなり別の加工して新たな公爵夫人に贈ればいいものを」
悪態をつきながら袋に入るだけ持って行き、入らないものは諦めるつもり。
……だったが、意外にも全て入り満足。
「これで当分は生活出来るでしょ」
宝物庫から部屋までの間に誰かに目撃されては私の計画は台無しになるので、宝物庫から退出する瞬間から神経を研ぎ澄ます。
扉を開け、廊下に誰もいない事を確認する。
「ふぅぅ……良かった」
宝石を抱えているので少しでも目撃されては直ぐに犯行が知れ渡ってしまうので、細心の注意をして部屋まで向かう。
思った通り、使用人達は私の行動よりローレルを仕上げる事に夢中で私の部屋付近には誰も居なかった。
第一段階である宝石を頂くという目的をやり遂げるとまるで盗賊にでもなったようで、少し楽しんでしまった。
次に、私は宝石を隠す場所を考えた。
私が卒業パーティーに参加している間にマイヤに発見されてはいけない。
「ここで平気かな?」
在り来たりだが、ベッドの下に隠す。
過去、私は公爵に追い出されるまで自ら外出したいと口にしたことはないので、マイヤは私が家出するとは考えたことはないだろう。
なので、急いで荷造りをした荷物もベッドの下に。
扉や窓、壁際に立ちベッドの下に隠している物が見えないか何度も確認をした。
「……大丈夫よね」
私が準備を終え気持ちを落ち着かせていると漸くマイヤが現れる。
ベッドの下が気になるも、視線で気付かれないよう必死に見ないように。
だが自然とある物に視線が釘付けに。
予想通りマイヤは過去と同じドレスを手にしている。