卒業間近
沢山の贈り物に埋もれるんじゃないかと思う程、ローレルには毎日何かしらが届く。
今日も一段と大きな贈り物が届いたようで屋敷内は慌ただしい。
関係のない私は庭の散歩をしながら、卒業式当日の行動を考えていた。
卒業式が終わると一度屋敷に帰り、卒業パーティーの準備にはいる。
一度湯浴みを済ませマッサージを行い化粧に髪の毛、ドレスに宝石と…やる事は沢山だ。
その日の公爵家はローレルを中心として動くので、誰も私を気にする程暇ではない。
その時に素早く家を出る準備をする。
事前に準備をしてしまえばマイヤに気が付かれ、ローレルに話が行き計画を壊されかねない。
動くには当日しかない。
卒業式から戻り次第最低限の着替えと換金できそうな宝石を頂く。
あちらの家族の物には手を付けたくないので、お母様の物だと分かる物のみ持っていく予定。
宝物庫に入る理由が必要よ、鍵は常に執事が携帯している…
ふと屋敷に視線が向くと、私を睨むローレルと目があったような気がしたがすぐに視線は逸らされ姿が見えなくなった。
「あっ…あれを使えば良いのか」
あの事を思い出し、当日宝物庫に入るのは可能だろう。
私の着替えも確認するが、元々私に与えられた服は質素な物ばかりなので少し裕福な平民ぐらいにしか見えない。
私の服は全て既製品なので、平民と比べても問題ないどころか商人の娘の方が身形は良いかもしれない。
それらの洋服だけバッグに入れて出ていくのは簡単だろう。
今回もあの男が数枚の金貨の入った袋を私に投げつけるのかは分からない。
もしかしたら、私はあの男に会わないよう出ていくかもしれない。
それは当日にならないとわからない事だ。
私にとって残り僅かな公爵家での時間を静かに過ごすも、ローレルの方は今も慌ただしくしている。
何でも卒業式のパーティー用ドレスに手違いがあったのか急いでサイズ直しをしているらしい。
顧客のサイズを間違うというのはどうなのかと思うが、その事よりもその事実を知ったローレルが感情を爆発させているのではないかと想像してしまう。
気になるが近付きたくない…
けど、知りたいと思っていると耳に入ってきた。
「素晴らしい方ですね、ローレル様は」
「ん?」
私がローレルの名前を口に出してしまったのか、マイヤは何かを思い出しながら語りだす。
「デザイナーによる失態を追求することなく「パーティーに間に合うようにサイズを直してくれたら問題ありませんから…」と、優しく仰ったそうですよ」
「…そう」
マイヤから聞くローレルの反応には驚いた。
王子の婚約者の座が懸かっているパーティーになるのに、サイズを間違えたデザイナーを責任追及することなく許したことに正直驚いた。
卒業パーティーが迫っている今、サイズを間違うなんて。
ローレルはサイズ直しを依頼するだけで終わったらしい。
今更デザイナー変更や、一からドレスを作り直させるのは間に合わないと判断しそれよりも今あるドレスをなんとか間に合わせようと考えたのだろう。
周囲に言われてではなく、ローレル自身かそのように提案したのかと思うと私としては予想外だ。
その場にいた人間が宥めるように提案したのではなく、ローレル自身の言葉のようにマイヤは語った。
今では完全に心はローレルに傾いている。