贈り物
ダイヤモンドもどきのネックレスは学園から帰ると、いつの間にか私の机の上に手紙と共に置かれていた。
「こちらのネックレスは、私がお義姉様の為を思って選んだ物です。ですのでぜひお義姉様に常日頃から身に着けてほしいです」
ローレルは意地でも私にあのガラスネックレスを身に着けさせたいようだ。
私としては邪魔だったので宝物庫に仕舞うよう命じる。
「本当に宜しいんですか?」
普段は何も言わないマイヤだが、ローレルからの初めての贈り物だった為か一度も身に着けず手元にではなく宝物庫に保管する事に罪悪感でも感じたのだろう。
このネックレスが本物のだと信じているのか、それともローレルの健気な行動に絆されたのか最近のマイヤは以前までのローレルに対しての頑なな態度や警戒心は和らいでいた。
「えぇ。私には不釣り合いなものだから」
遠慮しながらも「偽物を身に着ける趣味はない」と宣言する。
マイヤに宣言しても意味はないんだが、私の中に残る僅かな貴族の矜持なのかもしれない。
「そんなことはありません。お嬢様が身に着ければローレル様もお喜びになるかと」
ローレル様……
今までマイヤは「あちらのお嬢様は…」と言っていたのに、遂にローレル様と呼ぶようになった。
完全にマイヤはローレルの手に落ちた。
私は常に独りを好みマイヤには必要最低限しか接触していないので、ローレルが私付きの侍女マイヤに近付くのも容易かったに違いない。
公爵家に訪れてから今までかなりの時間があった。
ゆっくり距離を縮め信頼を得たとしても、三年という時間もあれば仲良くなることも可能だろう。
マイヤの変化にも気が付かない私が鈍感だったのか、ローレルが知能的なのか、マイヤがポーカーフェイスなのか…
ローレルになんて説得されたのか分からないが、ネックレスを置いたのもマイヤなのだろう。
マイヤはこれが本物だと信じて疑っていない。
私が『これは偽物よ』と指摘したとしても
『ローレル様には悪意がなく騙されたのではありませんか?』
と、擁護しそうだ。
私がマイヤのローレルの為の優しさを冷たくあしらうと、あからさまに残念な表情を見せる。
もうこの時にはマイヤは私の味方ではなかったのかと知る。
過去の私に流行り遅れのドレスやガラスのネックレスを身に着けさせたのは最終的にはマイヤだ。
使用人の情報網があればドレスのデザインなど耳にするだろうし、ガラスのネックレスの取り扱いが雑な事に違和感を感じたに違いない。
それでも何も忠告せず、寧ろ積極的に身に着けさせようとする姿は全てを把握していた可能性もある。
…結局、私は同じ事が起きてから過去の真実に気が付く…
私がネックレスの事に興味を完全に失くすとマイヤは諦めたように宝物庫へと去っていった。
時間を計っていた訳ではないが、私の部屋から宝物庫の往復にしてはマイヤの帰りが遅いと感じる。
きっとローレルの部屋に寄っているのだろう。
そして、しばらく経ってマイヤが戻ってきた。
マイヤの表情から私の勘は当たっていると確信する。
「ローレル様、贈り物が届いております」
卒業が間近になった最近、毎日のように公爵家には沢山の贈り物が届くようになった。
それは、ローレルの気を引き公爵令嬢の婚約者に…という物ではなく、婚約者候補の中でも有力な貴族に今から顔を売っておこうという事らしい。
そこまで高価なものではないが、今後「お近づきに」のご挨拶に相応しいものが贈られる。
貴族の質が試される品だ。
沢山の物が贈られているが私の部屋に届くことがないのを見ると、全てはローレル宛であり他の貴族から見てもローレルは有力候補だということだ。