過去の出来事は今回も…
ローレルは諦めることなく王子を追いかけ回し、徹底して他を寄せ付けないでいる。
「もう、婚約者や側近候補達は決まっている頃かしら?」
巻き込まれないように遠巻きから観察している。
よく見ると王子はローレルを…
「拒絶…している?」
今は婚約候補者達と最終確認中らしく一緒にいられる時間が僅かなだけだろうか?
過去のような親密さを二人からは感じられないのも気の所為かもしれない。
そしてローレルよりも婚約者になる確率が高いとされる令嬢の名前が挙がりだした時、事件が起きる。
私が普段通り屋敷に戻ると、玄関先で数人の騎士に囲まれたローレルの姿があった。
「…何かあったんですか?」
私の存在に気が付いた騎士が振り返るも、視線を受けるだけで何も教えてはくれなかった。
公爵家での私の扱いは腫れ物のようなもの。
きっとその事は騎士の間でも伝わっているのだろう。
「…令嬢はご無事でしたか?」
「はい…?問題はありません」
何かあったのだろうか?
「キャステン公爵令嬢の馬車が学園から戻る途中に襲撃にあいました。幸い我々の巡回と重なり事なきを得ましたが、捕らえた犯人の目的などはこれからです」
「えっ?」
そうだ…ローレルは帰宅途中に襲われた事があった。
襲撃犯がどうなったのかは知らないが、彼らを雇った人物は後に判明し暴かれる。
多くの生徒が見守る中、王子自ら調査を指揮し主犯である人物を断罪した。
私を…
「令嬢、今後は我々の巡回を増やしますのでご安心ください」
騎士は力強い眼差しで私に宣言する。
「ぇっぁっはい」
過去を思い出し震えていたのを騎士は義妹が襲われ恐怖を感じていると取ったらしい。
無事だったとはいえ間近で恐怖を感じたローレルは既に部屋で休んでいるらしく、騎士も上層部への報告するため去っていった。
事件の報告を受けた執事は公爵に手紙を送る。
「なんて事なのっ、学園に抗議しなくては」
娘が被害者だと知った夫人は、学園に抗議と警備強化を指示する手紙を差し出した。
翌日には登校時も巡回する騎士を昨日よりも多く感じた。
学園に到着しても門の両脇には騎士が待機し異様な雰囲気を醸し出している。
『何事なんですか?』
『ローレル様が、襲われたらしいわ』
『まぁ、怖いわ』
貴族が狙われたとなれば頷けるが、騎士の迫力に圧倒され学園内でも皆が警戒心を露にしている。
「本当に怖かったんですぅ」
当事者であるローレルは分かりやすく被害者をしていた。
側近候補達に囲まれ震える姿が目立つ。
そう、目立つのだ。
私が意識してローレルを探しているのではなく、目につきやすい場所にローレルとその仲間達が立ち止まっているのでつい見てしまう。
いつもであれば対立している婚約者候補達はローレルの行動を非難するのだが、今回ばかりは目を瞑った。
「ランフリード王子、私とっても怖いんです」
その日からローレルは「怖い」と言っては王子の側を離れず完全に独占。
『襲撃した犯人は、ローレル様が有力候補で排除しようとした候補者の誰かじゃないのか?』
新たな噂が出回ると候補者達は『今王子に近付けば要らぬ疑いを掛けられる』と判断し、ローレルを責める事を口に出来なくなっていた。
その事実に気持ちよくしたローレル。
学園では決して見せないような表情。
完全に浮かれた様子で卒業パーティーのドレスに似合う宝石を合わせている。
全体を紫で統一しているのは王子の瞳が紫色だからだろう。
「…今回も私が主犯にされるのかしら?」
結局やり直しの人生でも同じ事件は起き、同じ結果になりつつある。
私は不幸をもう一度繰り返しているに過ぎなかった…
だが、時間が経つに連れローレルの行動は目にあまるようになり、次第に令嬢達の間では不審に思われだした。
「あの事件はローレル様によるものではないですか?」
「私もそう思います」
「偶然巡回の騎士に助けられるなんて運が良いと言いますか、犯人の計画がお粗末というのか…」
「騎士が巡回する時間に襲うものかしら?」
「馬車を襲うにも事前に下調べしますわよね?」
疑いの目がローレルに向き始めた時、令嬢達の馬車が破損もしくは御者が襲撃される事件が頻発した。
学園側も警備を強化するも狙われたのが高位貴族と言うこともあり、生徒達は登下校の際に最低でも護衛騎士二名を連れ添うようになった。