卒業試験通過祝い
『やったぁ、合格だ』
卒業試験の結果は個人にのみ明かされる。
卒業資格を得られなかった者への配慮だろう。
私は緊張することなく結果を確認する。
順位は分からないが問題ないと感じているし、もし卒業資格を得られなかったとしても私の名誉が地に堕ちる事に対して何も感じない。
…一位。
あれだけ切望していた首席の座を三年間死守してしまい、こうも簡単に手に入ると感動もない。
成績を確認した生徒達を見渡せば、表情を綻ばせる者もいれば安堵する者、目を見開きゆっくりため息を吐いた者、硬直している者と様々だった。
試験結果を受け取った本日は、午前だけで授業が終わり帰宅となる。
試験を通過出来なかった者は今後の人生を考えなければならない。
屋敷に戻ると、その日はローレルの卒業資格を家族で祝うと使用人から聞かされた。
「本日は、来客が多いので「部屋から出るな」と旦那様からの命令です」
マイヤは寂しげな表情で私に告げる。
「分かったわ」
理由は知っている。
卒業試験を無事に合格したローレルへのご褒美として、公爵夫妻がローレルの欲しい物をいくらでも買ってあげるのだ。
その後は家族四人で食事をする。
当然ながら、そこに私が含まれることはない。
私はいつものように一人の時間を優雅に過ごし、ローレルの買い物が長引いたので私の食事は部屋で取る。
「ローレル様の試験結果は、合格すれすれだったようです」
悔しさのあまりマイヤがローレルの部屋で成績を確認。
王子を追いかけ回していたり、ドレスに夢中になりすぎて今回の試験時期が一・二年生時とは日程が違う事に気付いていなかったよう。
気付いた頃には試験間近で睡眠時間を削ってまで勉強したが周囲からするとかなり出遅れていた。
到達度別クラスであったら、ローレルの成績はFクラスだったに違いない。
過去、私自身試験に必死だったのでローレルの様子は知らないが、もう少し余裕はあったように記憶している。
前回は私の必死過ぎる姿を見て早い段階から勉強に打ち込んでいたか、公爵に泣き付き成績を買ったのかのどちらかだろう。
馬車が到着し、ローレルの為に準備された荷物が次々に運ばれるのを自室の窓から眺めていた。
一人自室で休んでいると、食事前にローレルが私の部屋を珍しく訪ねてきた。
「お義姉様、少し良いですか?」
「…えぇ」
「こちら、私からお義姉様への贈り物です…受け取っていただけますか?」
ローレルの手にあるのはネックレスだった。
「これは…」
「先程宝石商の方が訪ねられ、お義姉様に似合いそうなネックレスを私が選びました」
純粋なのか悪意を持ってなのか判断できないが、過去にも同じ出来事があったことを思い出す。
過去ローレルが私に同じネックレスを贈ってくれた。
私は初めての贈り物に喜び、時期も時期だったので卒業パーティーで身に着けた。
だが、当日噂で囁かれたのは…
「あの方が身に着けている宝石って…ダイヤモンド…ではなく、ガラスですよね?」
「えぇ、あんなお粗末なものを身に着けて恥ずかしくないのかしら?」
宝石を身に着けたことが無かったので宝石に偽物が有るとは知らなかったし、ローレルが私の為に選んだ物を偽物だと思いたくなかったことを思い出した。
「…ありがとう…」
ネックレスを受け取ると、満足そうに微笑むローレルの笑みを見て直感した。
過去も今もローレルはこのネックレスがガラスだと知って私に贈ったのだと。
ローレルの目の前でフックを外すと、この場で身に着けると思ったのかローレルは次第に微笑みではないイヤらしい笑みに変わっていく。
「お義姉様、私がお着けしますよ」
「いえ…ローレル様。あちらを向いていてくれる?」
私が自分で身に着け驚いてほしいのかと思ったのかローレルは不審に思うことなく私に背を向けた。
「えっ?お義姉様っ」
私はネックレスをローレルの首に回してフックを掛けた。
「やっぱり、これは私よりローレル様の方がとっても良く似合っているわ。是非卒業パーティーで着けて欲しいくらいよ?皆がローレル様の美しさに目を奪われるわね」
何も知らないように振る舞いローレルを褒めた。
「いやっこれはお義姉様にっ」
「私にはそれは似合わないわ。まさにローレル様を表した宝石だもの。マイヤ、ローレル様をこのまま部屋に送って差し上げて」
私に偽物のネックレスを身に着けさせることに失敗したローレルは不満を訴えるも、マイヤによって部屋から追い出された。
その偽物のネックレスは私からの贈り物よ、卒業試験通過おめでとうローレル。




