お茶会以降の私達姉妹の評価
お茶会以降のキャステン姉妹の評価。
『私、ニルヴァーナ・キャステン様が良いと思いますわ』
あの日のお茶会以降、ニルヴァーナ・キャステンも王子の有力婚約者候補に名前が挙がるようになっていた。
支持されるには様々な理由があげられる。
『ヒルメン令嬢の最優秀作品に多大なる影響を与えていたらしいですよ』
『サイズの合わないドレスを機転で乗り越えたらしいです』
『あのデザイン流行しましたよね。私もお願いしましたもの』
『それに、学園入学試験から今まで一位ですものね』
『長年に渡って成績を売り買いしていた事実が判明しましたものね』
『そのおかげで、クラス編成の撤廃』
『学園さえ変えてしまうなんて……』
今回のお茶会で、ニルヴァーナは再注目されてしまった。
本人が気にしている出生だが、母親は元侯爵令嬢というのは確かで誰の子供かは分からないと言われているが父親候補には公爵も含まれているので明確に否定は出来ない。
そもそも公爵は自身が『父親だ』と断言し、否定しているのはニルヴァーナのみ。
そうなってくると、ニルヴァーナが誰かに脅されて、頑なに『娼婦の娘』と言い続けているのでは? と噂が広まる。
そしてある一部の生徒の推測が話題に。
『ニルヴァーナ様は「娼婦の娘」と誰かに洗脳のように思い込まされているのではないか?』
『そんなことをしそうな人物と言えば、運良く公爵家に転がり込んだあの親子だろう』
根も葉もない噂は、噂好きの者やローレルを蹴落としたい者によって一気に広まる。
『色仕掛けで公爵家に転がり込んで本妻の娘を蔑ろにするだけじゃ飽きたらず、我が物顔で公爵令嬢と名乗り厚待遇を受け問題を起こして立場が危うくなれば公爵に泣きつき相手を追い詰める』
それが、今のローレルの評価。
ローレルはある一部から反感を買い、疎まれ最近では遠ざけられ始めているので悪い噂を広める方も躊躇いがない。
ある一部の生徒とは、過去にローレルと同じクラスになりあまりの理不尽さに辟易していた者や、過去に追放された生徒の友人。
爵位が低いというだけで見下されていた下位貴族。
ローレルの前では発言さえ許されなかった平民。
彼らは態度に見せなかったが、ローレルを拒絶し嫌悪していた。
当然だがローレルを王子の婚約者に推すつもりはないし、出来るものなら引きずり落とすべく頃合いを見計らっていたくらいだ。
なので今回、義姉が婚約者候補に急浮上し噂が一気に拡散されたのは彼らが噂を振り撒いていたから。
入学式当初から学年首席でありながらFクラスを割り当てられても文句も言わずに受け入れる姿。
ローレルのような差別主義者が王子の婚約者となり次期王妃となれば自分達にどんな影響を及ぼすのか不安に思うと、比べるまでもなくローレルよりニルヴァーナの方が王子の婚約者に相応しいと考える。
ニルヴァーナが選ばれてほしいと願う者は日増しに増えていく。
他の婚約者候補達も、相手がローレルであれば様々な方法を使って引きずり下ろそうと画策するがニルヴァーナ相手では二の足を踏んでいる。
出生で攻撃しようにも、本人が噂まがいな真実を認め王族もそれを踏まえた上で婚約者候補に。
そうなると、ニルヴァーナを否定すれば王族の決定に楯突く事になってしまうのではないか? と不安になり安易に口に出来ない状況になっていた。
キャステン公爵も、後妻の娘を溺愛しつつも元妻への『娼婦』扱いは否定。
勘違いし失礼な発言をした者には強く抗議しているので『ニルヴァーナは娼婦の娘』と口にする貴族はローレルを除いて誰もいない。
『このまま、ローレルでいいのか?』
『少し様子を見るか』
王子の側近を狙い片時も離れずにいる令息とローレルは協定を結んでいる。
相手はローレルの立場が悪くなれば瞬時に手を引く者達。
手を引くだけでなく、条件次第では別の相手と手を組み以前の事を一切忘れローレルに牙を向ける事も考えられる。
その事はローレルも分かっている。
何故ならローレルがそちら側の立場なら、より優秀で可能性のある人物と手を組み彼らを一切の感情なく切り捨てる事も躊躇わないからだ。
彼らとローレルは思考が似ているので互いの考えが手に取るようにわかる。
「あいつら……私が婚約者に選ばれたら、側近になれるのも確実なのに……」
なので、日を追うごとにローレルの評価は悪化し立場が不安定になりつつあると、協力関係にある彼らが敵に回るのも時間の問題と捉え焦りだす。
『俺は、断然ニルヴァーナ様だ』
一方ニルヴァーナの方は日増しにファンが増殖し、ファンであることを公言する者が現れる。
貴族平民問わず支持を受けている状態。
学園側もあからさまな忖度はないが、入学時や試験の不正もありニルヴァーナへの後ろめたさと本人の優秀さに多少の贔屓をと思うも今のところ特別な具体例はない。
特別扱いしようにもニルヴァーナ本人が自身の能力で問題を解決していくので、学園は事後報告を受けるのみだった。
学園がニルヴァーナを気に掛けている素振りを見せているが、ニルヴァーナ本人がその事を利用する気配が無い。
それを察した生徒達はニルヴァーナに対して『気高い』『孤高の令嬢』『貴族の理想』と崇め、支持者を増やしていく。
「「どうしてこうなるのよ」」
ローレルとニルヴァーナは互いに望む評価を得られず不満を口にする。