私からの提案なのに…
王子が今年入学した高位貴族の令嬢達との対面をしている間、婚約候補者達は互いに牽制しあい学園内が以前にまして刺激的に。
その雰囲気を察知してか、婚約者候補として対面している一年生は婚約者の座を得ようとする動きを表だって見せる事はない。
私としては最終学年の婚約者候補の名高い四人を避けていれば巻き込まれることはないと高を括っていた。
「ニルヴァーナさん」
名前を呼ばれただけなのに心臓が反応し、振り向かずとも声で誰か分かってしまった。
「……ル……ディルさん」
彼を見ると嬉しさを追いかけるように気まずさがやってくる。
「俺……何かしちゃいました?」
あの時から私はルディルさんを避けるような行動をしている。
彼にとってはなんの説明もなく突然避けられては不愉快に感じたのかもしれない。
私としては、有りもしない噂から彼を守りたかっただけ……
「いえ、ルディルさんは何も……」
「なら以前のように……」
「それは、できないんです」
以前のように二人で会っていればローレルは私だけでなくルディルさんも利用して被害者を演じるはず。
今の婚約者候補達は横一線ではなく、ローレルだけが分が悪い状況。
なりふり構わず自身の立場を確固たるものにするべく利用できる物は何でも利用するはず。
芸術祭での事件の被害者であるソバレリー令嬢に遠慮しなければならない原因が自分ではなく、義姉である私に擦り付ける要素が出れば何がなんでも飛び付くはず。
そして過去のように私に嫌がらせされているという嘘の噂も流し周囲の同情を引く事だろう。
そうでもしなければ、今のローレルが王子の婚約者に選ばれるのは難しい。
それが分かっているので、あの日ローレルの犯行を目撃してしまったルディルさんと親しく会話している姿を誰にも見られたくはなかった。
「……何故ですか? ……やはり、俺は迷惑でしたか?」
「違いますっ……違うんです……」
迷惑なんかじゃない。
本当なら私ももっと隣国の事を知りたかったし、ルディルさんの話を聞かせてほしかった。
だけど、ローレルは自身の罪から逃れるためにルディルさんまで利用しようとしているので距離を置くしか……
何の説明もなく避ける行動を取ったのは私。
その事を説明している瞬間でさえ目撃されたくなかった。
「ではなぜですか?」
「それが……」
私はあの日、王子から聞かされたローレルの訴えや忠告を受けていたことを全て話した。
「……そうだったんですね。すみません、そんな事になっているとは知らず押し掛けてしまいました」
「いえ、ルディルさんは何も悪くありません。もとはと言えばローレルが原因ですから……」
ローレルが他人の作品に手を触れ、破損させなければこんな事にはならなかった。
「……なら、卒業するまで距離を置くべきとお考えですか?」
「……王子の婚約者が決定するまでは……その方がよろしいかと……」
「……そうですか……分かりました」
状況を知り、ルディルさんは去っていった。
私から『距離を置くべき』と言っておきながら、去っていく彼の背中を寂しいと思うのは間違っていると分かっている。
だけど……悲しくてたまらない。
「私なんかと……いない方がいい……」
そのことは分かっている……分かっているけど……
今日、たった一人の話せる人を失った……




