敵に回すと面倒だ
「お義姉様、これ似合うでしょう」
「そうね」
ローレルの光り輝くプラチナブロンドの髪を、紫のリボンで結んでいる。
似合うかどうか私に確認しているようで、私の返事などどうでもいい。
重要なのは、ローレルが王子の瞳の色と同じ深い紫のリボンで結んでいるという事。
その程度かと思うが、そこはローレルも巧妙。
「あっ、ラルフリード様っ。新しいこのリボンどうですか?」
廊下という周囲が見守る中、女性がそのように尋ねれば大抵の紳士は令嬢に恥をかかせる事はしない。
ましてや相手は婚約者候補である高位貴族の令嬢。
誉める以外の選択肢はない。
案の定王子の反応は…
「……あぁ、似合っているんじゃないか?」
まぁ、そう言うしかないだろう。
王子の表情や感情はどうであれ、王子の言質を取ったローレル。
今後、王子色の物を身に着けても誰も忠告出来なくなってしまった瞬間だ。
「んふっ、嬉しいです。ラルフリード様に誉めてもらって」
勝ち誇ったローレルの表情に候補者である令嬢達は笑顔で見過ごすも、目が笑っていない。
王子妃ともなればこのくらい周囲を黙らせる事が出来ないと相応しくないと言われれば、ローレルは王子の婚約者に相応しいと言えるのかもしれない。
『こうしてみると、王子とローレル様はお似合いですね』
『俺もそう思います』
『婚約者有力候補は、ローレル様だな』
『ローレル様一択だろう』
王子の側近になりたい取り巻き達も現状から推察し、ローレルに媚を売り婚約者に相応しいと噂を流す。
『ラルフリード様ぁ、あの方達って本当に優秀なんですよ。知ってます?』
ローレルも彼らを側近にするべきと王子に囁く。
互いに持ちつ持たれつの関係になり、次第に強固なものへと変わっていく。
そんな愚か者達に王子が騙される訳がないと思いながらも、次第に婚約候補者の令嬢達は焦りだし解決策を模索するも見出だせず。
『どうにかした方が良いですよね?』
『そうだけど……』
時間だけが過ぎていき、困惑している状況となっている。
『ローレル様ぁ、そのリボンとてもお似合いだわ』
仕舞には王子との婚約を諦め、ローレルに媚を売る令嬢もちらほら現れる。
候補者とローレルがいがみ合ってくれているので、私の存在など誰も気にしないでいるので楽だ。
「また、ローレルになるのかしら……」
事件はあったが、今のローレルの行動により些細な出来事になりだしている。
もうすぐ長期休暇に入り学年が変わる。
王子の婚約者と側近達も決定されるであろう時期に差し掛かっているので、学園内は異様な空気に包まれ始める。
『聞きました? あの方の噂』
『えぇ、信じられませんね。そんな方が婚約者候補だなんて……』
失態を犯せば足を掬われ一気に不甲斐ない噂が学園内で拡散される。
忘れていたが、義兄のベネディクトも今年卒業。
彼は三年間の成績を中盤で終え、目立つことなく卒業していく。
過去のどの時点でベネディクトが王子の側近に選ばれたのかは謎だが、ローレルが婚約者となった後にでも側近になったのだろう。
「私がいくら行動を変えても結果は同じ……未来は変わらない……」
変わるなら、もっと酷い人生を……