巻き込んでしまっていた……
ルディルさんとの会話で私はウェルトンリンブライド王国について図書室で資料を探している。
学園の図書室にそこまで詳しく記されている書物はなく、町の名前と名産くらいしか情報は得られなかった。
それでも通い詰めている。
「ニルヴァーナ嬢」
今日も図書室に向かおうとした時に名前を呼ばれる。
「はい?」
私を呼び止めてきたのは王子。
二年になり、婚約者候補としても忘れ去られた存在だと思っていたのに突然呼び止められた。
「少し話せるか?」
今日の王子は機嫌が悪いように見える。
「……はい」
遂に婚約者候補から除外されるのかと思うと、王子の後を付いていく足取りも軽い。
到着したのは以前王子とお茶会をした場所。
「最近平民に付きまとわれていると聞くが平気なのか?」
「……ぇっ? ……えっと……そのような事はありませんが?」
「……そうか」
王子はなんの事を言っているのだろうか?
てっきり婚約候補者全てと対面したことで辞退が許される話かと思ったのたが……
これからなのか?
「それより、婚約者候補辞退の話は?」
「……それはまだ出来ない。全ての生徒との対面が終わっていない」
「……そうですか」
やはり来年まで待たなければならないのか……
「……ニルヴァーナ嬢に再度聞くが、平民に付きまとわれてはいないんだな?」
「はい」
「なら、ルディルという男とはどういう関係だ?」
なぜ急にルディルさんの名前が?
そもそも私が誰と会話しても婚約者でもない王子には関係がない事なのに、何故責められなきゃいけないの?
「……王子には関係ないですよね?」
「……ニルヴァーナ嬢の義妹が僕のところへ来て『芸術祭の作品の破損は本当は義姉の罠なんです』と告げてきた」
「へ?」
ローレルは私に罪を擦り付けられないとわかり、正直に話したものだとばかりか思っていた。
「彼女が言うには『ニルヴァーナ嬢の指示で参加者の作品を全て隈なく確認するように言われ、不思議に思いながらも義姉の指示通りに参加者の作品を確認した。そしてある一つの作品を手にした時に釘の痛みに耐え兼ね落としてしまったが、今思い返すと釘はわざとかのように飛び出していた。それだけでなく、目撃者もタイミング良く現れた。義姉を疑いたくはないが、告発したルディルという平民と最近隠れて親しくしているのを目撃し確信に変わり自分は騙されていた』と私に泣きながら訴えてきた」
ローレルにルディルさんと一緒にいたのを目撃されていたのか……
人目を避けるように会っていたのが、裏目に出るとは思わなった。
だけど、隠れて会っていたからってローレルの言うような事はしていない。
「違いますっ。私はそんな指示をローレルに出してはいません。ルディルさんとも偶然会い会話をしただけで、ただのクラスメイトです」
ローレルは王子の婚約者になりたくて、私に罪を押し付けて自分は無実……冤罪なんだと訴えた。
私を陥れ王子の婚約者になる事しか見えていない。
ローレルの罪を被ることになったとしても、そこに彼を巻き込みたくない。
「……私はニルヴァーナ嬢の言葉を信じて良いのか?」
信じて良いのか?
言いながら、王子の目は私を疑っている。
「私がローレルにそのような指示を出す意図は何ですか?」
「……彼女が言うには『婚約者候補辞退を訴えてはいるが、本音では婚約者の座を虎視眈々と狙っている』とのことだ」
「……そんな……であれば、今すぐにでも私が婚約者候補を辞退したと公表してください」
「それは出来ないっ、まだ全ての候補者と対面していない」
対面していない対面していないって、それしか言えないのか?
もう候補者達と対面が始まり一年も経っているんだから振るいに掛けても問題ないじゃない。
王子の婚約者候補から外れいち早く新たな婚約者を探さなければ、すぐに社交界で『行き遅れ』と不甲斐ないレッテルを貼られてしまう。
貴族社会に辟易している私には関係ないが、他の令嬢は違う。
その事を王子は一切考えないの?
「では私はどう潔白を証明すれば良いのですか?」
ローレルに怒りを覚え更には同じことしか口にしない王子の言葉が拍車を掛け、私に何を望んでいるのか王子を責めるように助言を求めた。
「……平民の男に近付かない事だ。キャステン嬢はまだ私にしか話していないようだが、今後ニルヴァーナ嬢とその男が親しい姿を目撃した生徒がどのように語るかは令嬢なら想像できると思う」
ルディルさんに迷惑が掛からない方法はそれしかないのか……
「……はい……そう……ですね」
「もし何かあれば、私を頼ってくれて構わない」
王子は去って行った。
最近の私はルディルさんとの会話を楽しんでしまっていた。
ローレルの事件を目撃した彼と親しく会話していればそのように思われても仕方がないのに……
ルディルさんに迷惑を……
王子に忠告を受けたその日から過去の私のように、誰とも視線を合わせず会話も最低限の挨拶のみに。
数日置きに出向いていたガゼボにも近寄らなくなり、図書室も控えた。
同じクラスなので不意に彼と視線が合うも、避けてしまう。
彼を巻き込まないためには、私にはこれしか出来ない。
私といることが彼の迷惑に……
「私なんかが友人を望んではいけなかったんだ……」