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愚かな私

 あの当時、父と呼ぶべき人を私は


『人付き合いが苦手な人』

『誰に対しても冷酷な人』


 そんな風に思い込むことにしていた。

 公爵という立場上、弱みを見せない為に冷酷でいる。

 偶然読んだ小説にその様な一文があった。

 

「きっと、お父様もそうなのだ」


 自分なりに父を分析し、私は私の心を守っていた。


 当主、カルヴァン・キャステン公爵。

 侯爵令嬢であった妻、クリスティアナと王宮主催のパーティーで出会い一目惚れし彼女に婚約を申し込み結婚。

 社交界では美男美女と有名な二人。

 結婚し二年目にして娘が生まれ、ニルヴァーナと名付ける。

 だが夫人は娘を生んだことで体調を崩し、娘を抱く事なく三日後に亡くなる。

 当時を知る使用人らは


「旦那様は突然愛する人を失い、乗り越える為に仕事にのめり込むようになってしまったのです」


 と話す。


 クリスティアナ・キャステン公爵夫人。

 結婚する前の名は、クリスティアナ・ヨシュアルト侯爵令嬢。

 社交界では『高嶺の花』と言われる程有名な人。

 婚約の申し込みが後を絶たないと言われているくらいな人物。

 ヨシュアルト侯爵は娘に政略結婚をさせるような人ではなく、本人の気持ちを優先させる人。

 クリスティアナは多くのお茶会に呼ばれ、邪な男性の視線にウンザリしていた。

 そんな中、カルヴァンの紳士的な振る舞いに惹かれ婚約を承諾。

 結婚し子供の出産が近付くにつれ、


「彼女の体力では危険が伴います」


 医師から助言される。

 彼女は頑なに


「私はこの子を生みます」


 意志を曲げなかった。

 医師の心配していた通り、産後三日目に命を落とす。


 二人の娘、ニルヴァーナ・キャステン公爵令嬢。

 母の命を代償にして生まれた事で、父の笑顔を見たことがないどころか忌み嫌われていた。

 幼い頃には父に対して悲しい・寂しいという気持ちはあったが、そのような感情は慣れていくもの。


『父が冷酷なのは、私だからあんな態度なわけではない』


 必死に自分に言い聞かせていた。

 見兼ねた周囲も慰めるように


「ご主人様は大変お忙しい方なんです」


 使用人や執事もそのように話すので、信じていた。

 その言葉通り、私は忙しい父と一度も一緒に食事をしたことも無ければ贈り物も無い。

 それでもいつか私を見てくれる、気付いてくれると信じ、淑女教育を教養のある侍女から学び独学で勉強を続けていた。


「いつかお父様は私を見て誉めてくれる」


 そう信じて努力を怠らなかった。

 そしてあの日、遠くから父を目撃したので急いで会いに行った。


「お父様っ」


 淑女にあるまじき行動だったが、それで父に怒られても構わなかった。

 駆け寄り近付くと父が振り向いた。

 今日こそは会話出来るかもしれないと期待し、自然と顔が綻ぶ。

 堅物の父が私を見て微笑んでくれるとは思っていない、ただ少しで良いので私を見てほしかった。

 だが、父の反応は私の予想になかった反応を見せ、あの衝撃的な言葉を浴びせられた。


「不愉快だ、これを二度と私に近づけるな」

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― 新着の感想 ―
毒親は死が当然
子ども作った父親が1番の戦犯だろうに。
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