そうだったの?
確かに私は自身の評価を下げるような発言をしてきた。
そこは否定はしない。
だけど他人の評価を下げることや、足を引っ張る様なことはしていない。
それなのに、すれ違う人間が私を見ては視線を逸らす。
やっぱり私が犯人にされているようだ。
「あっ……お義姉様っ」
……来た……
「……どうかしたの?」
「助けてください」
ん?
助ける?
何を?
てっきり私が犯人だと責められると思っていた。
ローレルがわざわざ私の所に訪れて助けを求めるなんて事、過去にはなかった。
「何があったの?」
「一緒に美術室まで来てください」
美術室へ促すローレルの手は強引で、私を『離さないぞ』という強い意志を感じる。
もしかしたら、破損事件の犯人として連れていかれようとしている?
美術室の前には人だかりが出来ており、私達に気が付くと自然と道が拓かれる。
「何かあったんですか?」
私が尋ねても周囲の生徒から視線が向くだけで誰も口を開かない。
状況を説明してほしいのに、今度は誰とも視線が合わなくなり埒が明かない。
「……ローレル?」
「わ……わた……私……その……」
「ローレル・キャステン公爵令嬢が絵画と彫刻を破損させているのを俺が目撃しました」
漸く教えてくれたのは、黒髪黒目の男子生徒。
彼は同じクラスで、過去にも一度同じクラスになったことのある平民のルディル。
人前に出る事に抵抗があるのか、常に前髪で目を隠している。
そんな彼が沢山の生徒の前で状況を説明してくれた。
「……へっ? ……ロー……レル……が?」
私は信じられなかった。
過去のローレルは私に
『作品の製作者に謝罪するべきだ』
犯人が私だと詰め寄り謝罪を要求し、あの男にも報告し呼び出され叱責された。
疑惑の私を義妹のローレルが詰め寄る事で周囲は私を犯人とし、否定するも最後まで誰も信じてはくれなかった。
それなのに……
ローレルが犯人だったの?
ローレルが美術室から退出し破損が発覚したのではなく、目撃者の彼は瞬間を目撃したように話していた。
「み……見間違いです」
「俺はこの目で確りと目撃しました。ローレル・キャステン公爵令嬢がキャンバスを落とし倒れた際に彫刻が置かれていた棚が揺れ彫刻が倒れたところキャンバスが下敷きになりました」
「うっ嘘ですっ……わっ……私……わざとじゃなくて……その……」
必死に訴えるローレルの様子から、本当に偶然起きてしまった事故のように思える。
「……俺にはわざとのように見えましたよ」
ルディルの証言によりローレルに視線が集まる。
「ち……違っ……私はっ……キャンバスの布……布をっ……止めてる釘が……」
ローレルは震え涙を浮かべながら頭を振り否定する。
周囲の疑惑の目は過去に私を犯人だと決めつけていた目そのもの。
「ローレル、どういう事なのか落ち着いて話しなさい」
過去、私に罪を押し付けた時貴方は私の言葉を聞くことなく犯人を押し付けた。
けど、私は貴方と同じではないわ。
「……私……その……み……皆さんの作品を観たくて……キャンバスを持ったら、布を……留めている釘が指に掛かってしまい……痛みで落としてしまったんです」
作品を見たかったとしても、評価を受けていない作品に本人の許可なく触れ万が一が起きれば問題となるのに……
現に、問題となってしまっている。
そんな事も分からないのだろうか?
「ローレルは交流会に参加していたの?」
「……ぃぃえ……して……ません」
「なら、もうすぐ展示されるというのに、待てなかったの? 作品に何かあればその方の参加が危ぶまれ、貴方も責任を取らなければならないって考えたりしなかったの?」
「……すみ……ません……」
スカートを握り締め俯くローレルはそれ以上語ることが無かった。
ローレルの反応からして作品に傷を付けるのが目的ではなく、純粋にいち早く見たかっただけなのかもしれない。
「……皆様、義妹が大変申し訳ありませんでした。制作者の方には直接謝罪に伺います。学園にも今回の事を報告し、被害のあった作品への対応の検討をお願いしたいと思います。お騒がせしてしまい申し訳ありませんでした」
美術室には多くの生徒が集まりこの状況をどうにかしなければならない状況。
状況を納めるべく頭を下げたが、何故私だけが謝罪しているのだろうか?
今、ローレルが何を思っているのか盗み見ると反省しているような悔しがっているような表情で俯いたままだ。
「私は職員室に行き、先生方に報告しに行くから……貴方はここで待っていなさい」
何も言わずローレルは頷く。
それから私は学園に報告すると教師が慌てた様子で作品を確認。
制作者である生徒にも私が詳細を説明し頭を下げるも、ローレルは私の後ろで俯き謝罪の言葉は私に言わせているだけだった。
私の説明に被害者の生徒はローレルを確認し『反省している』と感じたのか周囲の目がある場での追求はなく
「キャステン公爵様の判断にお任せいたします」
穏便に収めてくれた。