もうすぐ二年生になります
「こう見ると、王子も大変なのね」
王子はその後ローレルを含め婚約者候補である令嬢一人一人と時間を共にしていた。
私は初日ということもあり話題となっていたが、お昼には王子がローレルと共に過ごす姿や放課後には婚約者候補達と過ごしている事が周囲に認知され始め、私の事は忘れ去られた。
それから私は平穏に過ごしているが、王子の婚約者になりたい令嬢達は水面下で熾烈な争いを繰り広げている。
私としては王子の婚約者候補を辞退するつもりではいるが、王子の方から候補者全員と対面するまでは候補者からの辞退は許されないと直接伝えられたので辞退は出来ず。
今は王子からの許可待ちとなっている。
『今回の順位も変わりませんね』
その後の試験では周囲から信じられていなかった私だが、連続一位を取ったことで不正の事など忘れ去られた
「今更一位なんて……」
過去の私は気合いが空回りしケアレスミスで一位を逃していたが、あの男に『認められたい』なんていうくだらない感情は一切なくなった。
感情がなくなると、皮肉にも私は首位を取り続けた。
「もう、一年が終わるんだけどな……」
婚約者候補の辞退が出来ないまま一年が終わろうとし、数週間の休みを得て二年になろうとしている。
「息苦しい」
学園に通っていた時は一日の半分を学園で過ごすので、あの人達と顔を会わせることはほぼなかったが今では散歩するのも彼らを気にしてしまう。
「お嬢様。旦那様がお呼びです」
避けるように過ごしても呼び出されてしまえば逃げるのは難しく、執務室に呼ばれた。
何日ぶりなのかも分からないあの男との対面にもう何も感じないと思っていたが、呼び出されると緊張してしまう。
コンコンコン
「……ニルヴァーナです」
……………………ガチャ
相手からの返事はないが中から扉が開いた。
「どうぞ」
対応したのはあの男ではなく、あの男の執事。
あの男がわざわざ私の為に扉を開ける事は絶対にない。
「失礼します」
部屋に入り机越しにあの男と対面する。
「学園を騒がせていると苦情が来ている」
呼び出された娘がわざわざ執務室に訪れたというのに、椅子に座ったまま私を一切見ることなく手紙に視線を落としたまま告げる。
「……苦情……ですか? あぁ、娼婦の娘が学園にいるのが不愉快だと?」
ドン
机を思い切り叩き苛立ちを見せる姿に驚く。
この男が私の事を憎み続けるのは、今でも母を……前妻の事を愛しているから……
それでも結婚するのね……
「まだそんな事を言っているのかっ、いい加減にしろっ。クリスティアナは娼婦じゃないと言っているだろうがっ」
漸く顔を上げ私を睨みつける男。
「……では、何についての苦情ですか?」
この男の神経を逆撫でしたいわけではないが、他は本当に思い浮かばない。
「お前が問題を起こし、学園の規則が変わった」
「……規則が変わった?」
規則が……変わった? 何のこと? 課題の事か?
「あぁ。成績でクラス編成が決定されるのを、来年からは撤廃するそうだ。学園という限られた時間の中、立場関係なく多くの者と意見を交換しあう貴重な時間を代わり映えしないクラスメイトでは学園の魅力を活かしきれていない為……と報せが来た。ローレルから聞いたぞ。入学してから色々と騒ぎを起こし、試験で不正の疑いがあったと……」
「……はい」
「不正をしたのか?」
「して……いません」
不正はしていないが、入学前のクラス決めでは手を抜いていたのは事実。
躊躇ってしまった。
「普段からそんな態度でいるから周囲に迷惑を掛けるんだ。少しは大人しく出来ないのか? お前が騒ぎを起こさなければ伝統ある学園も規則を変更することはなかったんだ」
「私は……」
「お前の意見なんか聞いてない。お前のせいで多くの教師と生徒に迷惑を掛けたんだ。今後は目立つような行動はするなっ……分かったら出ていけ」
この男は変わらず、私の言葉など聞く耳を持っていない。
努力しても無駄なんだと知り諦める事を覚えた私なのに……分かってもらおうだなんて……
部屋に戻り、アイツの言葉を思い出す
「はぁ……それにしても、成績順は撤廃なのか……」
Fクラスは無駄に絡まれることが無いので私としては楽だったのに……
王子の婚約者を狙う候補者もいないし、騒ぎ立てることもなく婚約者候補として積極的に動かない私に関心を示さないクラスが……
「巻き込まれたくないなぁ……」