王子視点
個室ではない席を選んだ。
王族の特権ではないが食堂には個室が存在し、誰でも事前に許可を得れば使用する事が出来る。
だが、今回は相手がニルヴァーナ嬢の義妹という事もあり、あらぬ誤解を受けない為に他生徒の視線を監視として利用する。
キャステン公爵令嬢は私の婚約者になりたいという意思を強く感じる。
そんな令嬢とは極力二人きりは避けたい。
本来食堂では自身で食事を取りに行くが、今回は使用人が準備をしている。
「私が婚約者候補の一人だなんて、とっても嬉しいです」
「そうか」
「はいっ。ラルフリード様は私の事を覚えていらっしゃるか分かりませんが、王族主催のパーティーでご挨拶して以来私、ラルフリード様の事が忘れられなくて……皆さんからも聞いているかもしれませんが、入学式での挨拶とっても素敵でした」
「……それは、ありがとう」
「クラスが違う為、ラルフリード様とお話しするのを諦めていましたので今が信じられないです」
「あぁ、令嬢はDクラスだったか?」
学園が成績順なのは前回の試験で義姉を糾弾した事もある令嬢が知らないわけがない。
義姉の成績は不正があったが、令嬢に対してなんの操作もなかった。
つまり令嬢は実力でDクラスを意味するので、その事をそれとなく指摘してみた。
「はっ申し訳ありません……お義姉様はFクラスにも関わらず、あのように大々的に不正を行い更にはラルフリード様に騒動を鎮めて頂きありがとうございます。まさか、お義姉様が試験で不正をするとは思いませんでした」
私は令嬢本人のクラスの話をしているのにFクラスであるニルヴァーナ嬢の話に話題を替えられた。
自身のクラスについて触れてほしくないという事だろう。
「……キャステン公爵令嬢はニルヴァーナ嬢が不正したと今でも思っているのか?」
「申し訳ありません。お義姉様はお父様の気を引きたい一心でいつもあのような突飛な行動をするのです。なんのお咎めもなく、寛大な学園の対応に私達公爵家は感謝しています」
「……家族なのに義姉を信じることはしないのか?」
「えっ……それは勿論、私はお義姉様を信じたいです。ですがFクラスのままというのはそういうことなんだと……っく……っく」
義姉を信じ涙を流す姿は一見義姉思いに見えるが、その瞳からは一切雫は見えない。
「ニルヴァーナ嬢の不正の疑いは晴れている」
「……え? ……それって……」
「ニルヴァーナ嬢の試験順位は正しいと証明され、クラス決めには手違いがあったことが判明した。今からクラスの変更も可能だが令嬢本人の希望によりクラスの変更はしないということになった」
「え? 正しいって……一位ですよ?」
驚きのあまり泣き真似を忘れているのが可笑しいが、冷静を装う。
「あぁ。不正が出来ないよう教師が見守るなか、ニルヴァーナ嬢には再試験を受けてもらった。結果は、不正などせずとも令嬢は優秀だと証明された」
「そんなの嘘です。だって……家庭教師はいないし、勉強している姿も……」
貴族であれば家庭教師を付けるのは当然すぎて誰も言わない。
たが、ニルヴァーナ嬢には教師を与えられなかった……
独学で勉強していたということか。
「勉強する姿は誰かに見せるものではない。それより、公爵はニルヴァーナ嬢に家庭教師を付けていなかったのか? 君には付いていたような口振りだが」
「へっあっいやっその……お義姉様は……勉強が……嫌い……だと……聞いて……おりま……し……た……」
その場しのぎの言い訳は自信の無さから声が尻すぼみとなり、普段から目の前の令嬢は義姉を見下していたのが分かる。
「そう……だったんですね。良かったぁ……お義姉様が不正するわけがないと信じていましたぁ」
あれだけ義姉を疑っていながら、よく『信じていました』という言葉が出るものだ。
「そうだ、ラルフリード様っ。知っていますか? 最近……」
令嬢は話題を変えて会話を試みるも関心を見せない私の相槌から焦りを見せる。
必死に挽回しようとするも気まずさは最後まで拭えず、私達の婚約者候補の時間は終わった。