これは夢?それとも現実?
もし、今の私が母の死の真相を知り父に憎まれていたことを知ったあの日なら、私は五年前に戻った事になる。
あの頃は、いくら『冷酷』と言われている父も娘が三日も眠っていれば少しは気になり『心配してくれているに違いない』とちょっとだけ期待していた。
言葉や表情に出さなくとも、目覚めた私に急いで『会いに来てくれる』のではないかとあの男に希望を持っていた。
周囲を見渡し部屋は私が倒れる前と何ら変わりがないのを確認する。
掃除が行き届きサイドテーブルも綺麗に何もない。
当時の私は
眠っている時に父がこっそり様子を見に来て贈り物を置いてってくれていたりしないか?
私が目覚めないでいた三日間に父は私をどのくらい心配して、何度来てくれただろうか?
花などくれただろうか?
無駄に期待していた。
そんなもの、一度だって無いのに。
十八年の人生で父からの贈り物はあの投げつけられた金貨のみ。
今なら分かる。
あんな男に期待しても無駄と言うことを。
「夢? 現実?」
これが夢ではなく現実なのか分からないまま時間を過ごす。
これはあの小屋で見ている夢なのか、死んで地獄に落ちた私が最後に憐れな人生を見せられているのか……
「現実? なのかな?」
それから大人しく様子を伺った。
過去に戻ったと受け入れたとして、今は私の予想通り五年前。
私が父に非情な言葉を投げられ、母の死の真相を知った。
当時は受け入れられず倒れてしまい目覚めた時は、都合よく記憶を失っていた。
だけど今は覚えている。
父が私を避けるのは、私が母を殺したからだと。
「お嬢様、大丈夫ですか?」
その後、マイヤが私を付きっきりで看病。
私の食事の管理だけでなく、散歩までマイヤは目を光らせていた。
過保護過ぎるのでは?
と思う事もあったが、マイヤの優しさにはいつも救われていた。
実際は、私と父が鉢合わせしないように気を遣っていたのを今なら分かる。
この屋敷で寂しさに耐えられていたのは、マイヤが傍に居てくれたから。
倒れてから体力も戻りつつあったので外を散歩中に、父の執務室が視界に入る。
背中しか見えないが、机に向かい仕事している姿が憎くてたまらない。
どうしてあんな男に振り向いてほしいと思っていたのか、過去の私と違い今の私にはそんな気持ち一切ない。
それからは今まで無駄に父に挨拶に行っていた習慣をやめた。
「お父様に朝の挨拶は行かないわ」
「……畏まりました」
私の決意をマイヤに伝えると驚いていたが、続ける提案をしないところマイヤも父と私の関係は悪化するだけと思っていたのだろう。
私が生きているというのが現実というのなら、私は同じことは繰り返さない。
あんな奴の愛情はいらない。
「あんたの大切なもん、ぶっ壊してやる」