王子視点
<ラルフリード・オーガスクレメン>
私は第二王妃の息子。
第一王妃は子に恵まれず、母が第二王妃にとして王宮へ呼ばれ私が生れた。
生活するうえで第一王妃に遭遇する事は無く、パーティーで顔を合わせる程度。
親しい関係ではないが、殺伐としている雰囲気もない。
父とはパーティー以外に母と三人の茶会で月に数度対面。
成長するにつれ父との時間は減少していった。
教育を受け、父の仕事を学ぶにつれ会う時間が減少するのは仕方ないと自身を納得させた。
優秀であれば父が褒めてくれる。
それだけで十分。
今日も、授業を受けるため教師の待つ部屋へ。
『最近、第二王妃派に寝返る者が多いな』
『あぁ、仕方ない。ギディオン王子は病弱で一度もパーティーに出席された事が無いだろう』
『では、このままラルフリード王子が次期国王か』
王宮に出入りする貴族の会話を偶然聞こえてしまった。
「ギディオン王子?」
初めて聞く名前。
胸が騒めきその後の授業は集中出来なかった。
「先生」
「何ですか?」
「ギディオン王子とは誰ですか?」
「……それをどこで?」
驚いた表情の先生。
「廊下を歩く貴族の会話が聞こえてしまいました」
「そうですか。ギディオン王子は第一王妃の子です。ラルフリード王子の二年後にお生まれになったのですが、体が弱く今もベッドから出られないと聞いております」
「そうなんですね」
第一王妃に子がいたことは初めて耳にした。
病弱で一度も社交に出られない事で私のところまで情報が届かなかったのだろう。
知らなかった真実に驚いたが、私の生活は変わらなかった。
学園の入学が近付き、貴族達との顔合わせということでパーティーが開催された。
「本日は参加して頂きありがとうございます」
「ラルフリード王子にはまだ婚約者はおりませんでしたよね?」
「はい」
「どうですか、私の娘など。ほらっ、挨拶をしなさい」
私と年齢の釣り合いが取れる令嬢を持つ貴族から似たような会話で令嬢を紹介される。
笑顔で躱しながら招待客の全員と会話をした。
「ふぅぅぅぅ」
多くの貴族と会話し、隙を見て一人になるとため息が零れる。
『先程の公爵の話は本当か?』
『前妻は「深窓の令嬢」と持てはやされていたが、実際は男漁りが激しく部屋から出てこないなんて』
『人は見かけによりませんな』
『一時、社交界の華と呼ばれていましたな』
『一度くらい相手してほしかったものです』
どこの公爵の話なのかは分からなかったが、会場の片隅で紳士とは思えない下品な会話がされていた。
不快に感じつつも表情には出さず、会場内に戻る。
令嬢達に見つかると、代わる代わるダンスの誘いを受け続けた。
パーティーは無事に終了。
「学園入学前にこれを見ておきなさい」
父から手渡された書類の束。
「これは?」
「ラルフリードの婚約者候補のリストだ」
「私の婚約者候補」
「最終判断は私達も意見するが、自身の婚約者だ。全員と対面してラルフリードが見極めなさい」
「はい」
婚約者候補のリスト。
私と学園の期間が重なる、公爵令嬢から伯爵令嬢のもの。
渡された書類を一人一人確認していく。